シリンダーフィンを眺めるだけで、ホンダの歴史を感じさせるオトナ・クオリティの逸品!
なぜならホンダをよく知る者にとって、世界一のメーカーへ押し上げ育んだ誉れ高きエンジニアたちの英智が詰まった、最後のバイクを意識させていたからだ。
たとえばこのシリンダーヘッドとシリンダーの冷却フィン。
この涙が出てくるようなクオリティに、ホンダの開発者たちの様々が象徴されている。
このカタチと質感は、間違いなく世界一だ。
CB1100は、ベテランライダー向けにパフォーマンスより質感にこだわる、そんなコンセプトを前提に、水冷のCB1300をベースに空冷化され開発された。
開発者たちはベテラン揃い。最高のパフォーマンスのために闘い抜いてきた強者揃いだ。
それだけに思い入れも強く、懐かしさも感じさせるスピリチュアルな作品でもある。
たとえばDOHCのふたつのカムシャフトの位置。
最新エンジンは燃焼室をコンパクト化するためバルブ挟み角が立つ傾向にあり、DOHCのカムシャフトの間隔も狭い。
しかしCB1100は、敢えてこの間隔を昔ながらの位置へ拡げ、見た目にも堂々とした上にゆくほど大きい「立派さ」をアピール。
DOHCがまだ希少価値だった時代に憧れた身なら、このカタチは見ているだけで安堵感が伝わってくる。
ちょっとした中途半端なリーンアングルの変化に、対応できる人たちの熟練度を感じる完成度の高さ!
そして走り出すと、いかにもベテランにしか生み出せない、バランスを極めたハンドリングに感動させられる。
正直いってこのCB1300をベースに開発したバイク全体のボリュームは、やや大きく重いのは仕方がないことだ。
もちろんそうした物理的な条件からくる限界はあるものの、走らせてもホンダ伝統の4発ハンドリングを再現しようと、鈍重さはなくナチュラルで僅かにアンダーが顔を出す扱いやすさに加え、何より難しいリーンアングルによってフィーリングが変わりにくいニュートラルさに仕上げているのには驚きだった。
そしてその走りへのこだわりが後に2017年、RSという前後スペシャルサスに17インチホイールという、走りのパフォーマンスを優位に引き出す仕様のモデルを加えることとなった。
正直ここまでこだわるとは、半ば唖然としてしまったのだが、やはり乗り込んでみるとコーナリングの醍醐味は格段にアップしていた。
いかにも「好き者」集団のやることで、昔ながらのホンダらしさに小躍りしたのが思い起こされる。
良いモノを知っている見識や知識は受け継がれていけるのか?
というCB1100も、生産終了でこれ以降に進化を遂げることはない。
それは凄まじい時代を闘い抜いたノウハウが、ここで途切れてしまうのではないかという心配もよぎる。
正直にいうとホンダの新世代スポーツバイクに、いわゆる凝ったつくり、新しさへのチャレンジを感じさせる新機種がない。
それは昔を懐かしむという以前に、スポーツバイクへの情熱度が下がっているように感じてならない。
何も尖っている必要はない。このCB1100が示したように、これまでの集大成をまとめていく開発でも、人々をワクワクさせるチャレンジは存在する。
そんな期待感に応えるホンダイズムが、これからも変わらず継がれていくのをひたすらに期待するひとりだ。