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このバイクに注目
SUZUKI
GSX-R1100
1986~1989model

輸出用GSX-R1100はヨーロッパの世界GPや世界耐久の追っかけライダーに大ヒット!【このバイクに注目】

Photos:
スズキ,iStock

フラッグシップにまさかのレーサーレプリカが衝撃だった!

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1985年、サーキット最速を目指した新世代の油冷エンジンに超軽量なアルミ製ダブルクレードルのスーパースポーツ・GSX-R750が登場した。
当時スズキがワークスマシンを投じていた、人気のルマン24時間やボルドール24時間耐久レースのシーンから、そのスズキのワークスマシンがそのまま市販車になった衝撃に、ヨーロッパのファンはどよめいた。

ところがその翌年、さらに度肝を抜かれる事態となった。何と同じフォルムの1100cc版がリリースされたのだ。
世界最速を謳ったGSX-R1100。最速マシンといえばフラッグシップとして威風堂々のフォルム、レーシングマシンのように前傾で伏せたセパレートハンドルだったのはホンダCB1100Rくらい……それとて前傾はここまで深くなかった。

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最高出力は1,052ccで130PS、アルミフレームの197kgしかない軽量車体を270km/h以上へ到達させ、0-400mを10.2secで猛ダッシュ、パワーウェイトレシオは1.51kg/PSの常識破りだ。
しかし、そんなレーシーなバイクでどうやってツーリングするのか……多くのヨーロッパライダーが懐疑心を抱くなか、GSX-R1100は順調に売れはじめた。

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フレームはご覧のようにGSX-R750に対し、各部の構造を大幅に太くしたもので、スイングアームを取り付けるピボットまわりの角パイプとダイキャストの連結箇所も相当に剛性を意識している。
それでも12.8kgに収まるのはオールアルミ製のメリットにほかならない。
エンジンは6速を5速に減らし、見るからに大容量となった太いマフラーがアイドリング付近でも加速できるビッグバイクらしさの力量感を連想させる。
そして4,000~5,000rpmではのけ反るような強烈ダッシュ、それでいてリバウンドストロークの深々と沈んだサスペンションと相俟って、抜群の直進安定性とGSX-R750ゆずりの乗りやすいコーナリング……長距離でも醍醐味を楽しみつつ走り続けられるとの評判が伝わり、世界GP観戦や世界耐久観戦の追っかけファンがこぞって購入する風潮が生まれたのだ。

油冷は大型のオイルクーラーで冷やすと思いがち、

 実はオイルを燃焼室外壁へ高圧噴射、

 境界層の熱を吹き飛ばす画期的な方式

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ところでこの油冷エンジンは他にないスズキのオリジナル。オイルクーラーを大型化して、循環するエンジンオイルでも冷却する方式は他にもあるが、それとは基本的に原理が異なるのだ。

スズキが1985年にGSX-R750で実用化した"油冷"は、エンジン内部に潤滑用の他にもうひとつ冷却用のオイルポンプを持ち、これで燃焼室のドーム外壁へ高圧でオイルを噴射する独自の冷却方式。
エンジンオイルは冷却水と違って100℃を越える高温になる。その高温なオイルを噴射して、果たして冷却に効果があるのかピンとこないかも知れない。

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しかしこれは温度境界層といって、燃焼室の外壁表面の高温を吹き飛ばし熱を奪う原理。たとえば寒いとき手に息をそうっと吹きかけると暖まるのに、同じ体温の息を強く吹きかけると冷やすことができる。
これは手の表層にある体温で暖められた空気の層を、勢いよく吹き飛ばすことで冷やすことができるからだ。過去にはレシプロ戦闘機用やクルマの空冷レース用エンジンでしか使われてこなかったこの高度な仕組みを、スズキはコンパクトな2輪用エンジンで具現化してみせたのだ。

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こうして何十万とレースファンが押し寄せる各地のサーキットをはじめ、国境を跨ぐ長距離ツーリングの足として、辛そうな前傾ライディングポジションにタンデムまでして大きな荷物まで載せるスタイルが、サバイバルなライダーというイメージにひととき支配されるまでになった。

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また毎年イヤーモデルで改良を加える信頼性も評判も手伝って、ツーリングファンにスズキのブランドイメージが浸透、その後にGSX-R以外の様々な旅バイクが、ススキ製ということでヒットする流れをつくっていった。
GSX-Rは750と1100が1989モデルから、フレームを同じアルミの内側にリブを設けた鋳造パーツでより高剛性として、ミシュラン製ラジアルタイヤと共同開発したアライメントによる非の打ちドコロのないハンドリングへと進化した。

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より空力に優れたカウリングや、前後サスペンションがレーシングマシン並みにアップグレードされたり、ラウンド型オイルクーラーに新型キャブレター、そして中空ホイールに至るまで、洗練され完成度をアップした新世代だったが、ファンの耐久レースを勝ち抜いた"油冷"神話も薄れはじめ、遂には1993年のGSX-R1100Wの水冷エンジンに道を譲ることとなった。
ヨーロッパでは各地の国際サーキットへ大きな荷物とタンデムで前傾レプリカが列をなして押し寄せる、一世を風靡したあのシーンを懐かしむライダーは多い。
まさに時代を創ったバイクの1台だったのだ。