多板式クラッチ構造を知ると、停車時を除いて必要以上にレバーを握っているのがわかる
クラッチのレバー操作は、発進はもちろん、ギヤチェンジの度に切ったり繋いだり(放したり)とあまりに頻繁……左手が疲れて嫌になってくるライダーも少なくないはず。
でも発進はともかく、ギヤチェンジのときに握り切るまで操作するのは、実はクラッチにもミッションにも優しくないというのはご存じだろうか?
スポーツバイクのクラッチ構造は、ご覧のように複数枚のフリクション・プレートと交互に挟むクラッチ・プレートが、スプリングで圧着されて駆動を伝える構造。クラッチを切る操作は、このフリクションとクラッチがくっついた状態から隙間ができるようにして駆動を途切る動作となる。
因みに半クラッチは、この隙間をお互いが少し接した状態にすることで、徐々に駆動力が伝わりエンストせずに発進できるというものだ。
ついでに説明しておくと、マニュアル操作のクルマのクラッチや、縦置きのBMWやモトグッツィは大きな直径の単板どうしが円錐ワッシャのような簡単なバネで圧着した構造。でもこんな大径クラッチを横置きするスペースがなく、多板式という複数枚に分けた小径の構造とすることで、コンパクトな上に大径だと遠心力でエンジンの上昇も下降もレスポンスが鈍くなってしまうのを防げるメリットも得る合理的な構成になっている。
ではどうしてギヤチェンジのときは、クラッチをいっぱいまで握り切らないほうが良いのかというと、それにはトランスミッション(変速機)の構造を知っておく必要がある。
一瞬の駆動が途切れるタイミングがギヤチェンジしやすい
スポーツバイクのトランスミッション(略してミッション)は、クラッチ同様コンパクトで丈夫な構造とするため、常時噛合式といって5速なら5組のギヤは既に噛み合っていて、クラッチ側のカウンター軸とドライブスプロケット側のドライブ軸とに各々空転と溝に沿ってスライドする構造によって、ギヤを横に動かすシフトフォークをチェンジペダルで操作して繋がるギヤを選択しているのだ。
この選択して駆動が繋がるのは、各ギヤ横にあるドッグギヤと呼ばれる凹凸の部分。このゴツイ丈夫な凹凸が噛み込むと繋がり駆動が伝わるというもの。
こうした構造のため、凹凸が接合して駆動した状態だと変速するためギヤを変えようとしても噛み込んだ状態から抜くのは難しい。そこでスロットルを戻し、クラッチを切ってミッションを駆動していない状況にすることで、ギヤを抜きやすく、そして次の組み合わせにある凹凸を噛み込みやすくするというわけだ。
ほぼ一瞬で右手と左手に左足を操作!
しかし、このスロットルを戻してクラッチをいっぱいに切る操作だと、この間にエンジン回転がアイドリング回転域までドロップしてしまう。
そこからギヤを変速すると、ギヤどうしの回転差が大きく、凹凸が噛み込むときに「ガチャン!」と強いショックを与えてしまう。
ギヤそのものはゴツく頑丈な材質なので基本的に問題はない。
またクラッチをいっぱいまで切るとフリクション・プレートとクラッチ・プレートも隙間が広く、アイドリング回転までドロップした回転差も、駆動を途切らせているので問題はないものの、その次のクラッチを繋ぐタイミングで大きな回転差を半クラッチを経て繋がるまでを一瞬にして動作すると、ライダーにはスムーズでもクラッチにはとてつもない負荷となっているのだ。
そこでこの回転差を可能なかぎりなくしてギヤチェンジする操作を考えてみよう。
まずクラッチはレバーを遊びからほんの僅か引いた数ミリだけ引けば良い。ギヤチェンジには8~10枚のフリクションとクラッチを全体に隙間など必要なく、1枚でもスリップできる状態が得られれば充分。
そしてミッションも、この間に素早くシフトしてしまえば、回転がアイドリングまでドロップした回転差にならず、近い回転差で凹凸のドッグ部分が接合できるので、スムーズなのはいうまでもないだろう。
これでクラッチも少ない回転差でのショック吸収になるので、当然のことながら負荷はぐっと小さくなる。
そしてスロットルをイラストのような要領で、ピクンとスナッチをきかせる小さく素早い操作のショックも駆動が途切れることのないギヤチェンジが可能となるのだ。
これはパワーシフトやオートシフター、そしてクイックシフターと呼ばれる最新スーパースポーツに装着されたシフトペダルに点火カットの感圧センサーを組み込んだシステムとほぼ同じ理屈の動作でもある。
最初はギクシャクしても、そもそも丈夫な構造なのでバイクに悪さすることはなく、素早く済ませるほどスムーズなことは直感的にわかるはずなので、繰り返し試せばそれほど時間をかけずうまくできるようになる。
クラッチも痛まない、ミッションにも負担がない、そして左手も疲れない……丁寧に愛車をいたわりながら操作していたつもりのクラッチとギヤチェンジの操作が、実は逆に負担をかけていたのだ。
小さく素早く、この操作のコツを忘れずに!