鍛造(Forged)ホイールは、キャスト(鋳造)ホイールではない
バイク用のホイールは、大別すればスポークホイールとキャストホイールの2種類、と思っている方が多いのではないだろうか。カスタム好きな方なら“他にもカーボンホイールがあるよ”というかもしれないが、おおむね正解……でもなかったりする。
問題なのはキャストホイール。キャスト=Castingとは“鋳造”のことで、溶かした金属を型に流し込んでつくる製造方法を指している。バイクのホイールに関しては、1970年代中頃にカスタムパーツとして登場し、後半にメーカー純正採用が始まり、レースに使われるようになったのは1980年代中頃からだ。そして現在は多くのロードスポーツモデルがキャストホイールを履いている。
ところが1990年代頃から“鍛造製法”のバイク用ホイールが開発されるようになったのだ。
見た目からは分からないものもあるため、中々難しいが、鍛造ホイールは鋳造していないからキャストホイールではないのである。
総じてキャストホイールと呼んでしまいがちだが、製造方法で呼び名は変わる……
鍛造とは、熱した金属を叩いて圧力を加えながら成型する製造方法。イメージで言えば刀鍛冶の作業だ(実際は成型金型に何千トンものプレスで圧力をかけて製造する)。叩くことで金属結晶を微細化しつつ方向が整って強度が高くなるため、鋳造ホイールより軽量化や高剛性化が望める。
とはいえ鋳造より製造コストがかかるので、現状ではレース用やカスタムを除けば、限定モデル等のプレミアムなバイクのみに装備される高性能ホイールという位置づけだ。
その鍛造製法は英語で“FORGED”と呼ぶ。ということは、鍛造ホイールは「フォージドホイール」となる。だから、メインカットにあるカワサキNinja ZX-10RRのホイールをキャストホイールと呼んだら間違いなのだ。
とはいえ鋳造ホイールも鍛造ホイールも、外観的に違いを見出すのは難しく、ことさらFORGEDと表記されていなければ、現実的に見分けがつかない。そのため昔からの慣習も含めて、スポークホイールの他は総じて「キャストホイール」と呼びがちになるわけだ。
ちょっと違うかもしれないけれど、鉄道の車両をひっくるめて“電車”と呼んでしまうようなものかも。だから、意味で考えたら本当は間違っているけれど、なんとなく“まぁ、いいか”な感じでもあるが……。
ちなみにスポークでもキャストでもないホンダ独自のコムスターホイールの記事はこちらから(スポークでもキャストでもない、ホンダ独自の“コムスターホイール”って知ってる?【ライドナレッジ002】)
表題の写真は、カワサキの限定モデルNinja ZX-10RR(2021年型)に特別装備される、マルケジーニ製のアルミ鍛造ホイールだ
ホイールのリム部分に入る“FORGED(鍛造)”の文字。外観からは鋳造と見分けはつかないので、鍛造製法をアピールしている⁉︎
標準モデルのカワサキZX-10R(2021年型)は、アルミ鋳造製ホイール、いわゆるキャストホイールを履いている。本格レースにも使うような鍛造ホイールと比べれば重いが、近年のスーパースポーツのキャストホイールはかなり軽量に仕上がっている
MotoGPマシンやSBKなどトップカテゴリーのマシンが履くのは「マグネシウム鍛造ホイール」が主流。軽量なマグネシウム合金を鍛造製法でつくるので驚くほど軽い。カスタムシーンにはカーボンホイールなどもあるが、現時点ではレギュレーション的にレースでは使用できない
旧車やクルーザー、オフロード車に多いスポークホイール。とはいえ大抵の鋳造ホイールや鍛造ホイールにもハブ部分とリム部分を繋ぐ“スポーク”が存在するので、こちらも厳密に言えば『ワイヤースポークホイール』と呼ぶのが正解かも
1978年モデルのヤマハXS750スペシャル。国産の市販車ではかなり初期に採用されたキャストホイール。しかし、スポークホイールより重かった。スズキのGS750E、GS400Eなども同時期に採用。輸出モデルだと1976年のXS750などに履いていた。ホンダはこの後、独自のコムスターホイールを開発していくことになる