不安をなくすにはゆっくり&やんわりが一番効果的
バイクに乗っていると、何かのきっかけで不安が先に立つことは珍しくない。ましてや立ちゴケなどで心が折れると、ペースを落として走っていても何かあったら対応できないかもという漠然とした不安にかられてしまう。
こうなると心を癒すには時間が必要……かも知れないが、あなたの愛車の機能で、不安を和らげたり自信をつける可能性のある方法を試してみてはいかがだろう。
まず走行モードが装備されているバイクなら、ROAD、SPORT、URBANと設定されている中に、RAINがあればここをセレクト。
エッ、雨でもないのにRAINモード?と思われそうだが、何も雨が降っていなくてもベテランに言わせるとかなり使える便利な設定でもある。
メーカーによって表記が違うこともあるのと、また最新スーパースポーツのように、エンジンからサスペンションまで1~4など数字の組み合わせで細かく設定する必要もある場合でも、とにかく最も穏やかでゆっくり、そしてやんわりとした設定にしてみよう。
そうするとエンジンは、濡れた路面でスリップしないよう、加速で空転を検知するとパワーを抑えるという基本設定となるが、不安を和らげるのに効果的なのがスロットル操作に対しレスポンスが鈍くなること。
この2次曲線的にジワッと後輪が蹴る感触は、タイヤが路面に押し付けられ安定したグリップ力で支えられているのを実感できる確率が高い。
たとえば直線でバイクが起きたまま、4速とか高めのギヤで2~3,000rpmの低回転域で、思いきってガバッとスロットルを大きく捻ってみよう。間違いなく即レスせずにジンワリと加速を強める、わかりやすくいうとタイムラグがあって、いきなりではない状態が安心させてくれるはず。
ベテランは走りだしてすぐに、その日にバイクへなれるまでの間、このRAINモードを使ったり、タンデムでも後席とヘルメットがゴツンしないよう使うことも珍しくない。
さらにサスペンションがこのモードと連動している高度なバイクなら、踏ん張りより路面追従性が優先されたやんわりとした動きになって、乗りやすくリーンなど操作も軽快になるメリットも得られる。
でもフワフワしたら、却って不安になりはしないだろうか?ところが、このサスペンションの上下動を促す側へ調整すると、ライダーの操作ミスをリカバーしてくれる側の効果のほうが大きいのだ。
それは次の電子制御サスペンションではない、ベーシックなサスを調整するともっとわかりやすい差が感じられる。
サスペンションを柔らかく動きやすい設定にすると不安解消へ役に立つ
たとえばあなたの愛車には、サスペンションのプリロード調整という仕組みがほぼ間違いなく装着されている。
トラディショナルな2本サスだとわかりやすいが、2人乗りや荷物を積んだとき、大荷重でフルストロークしてボトムしないよう、スプリングの座金を回して予め締めている位置を縮めておいたりする、5段階に調整する切り欠きが座金にある装置のことだ。
これを一番弱めて、自分の体重で沈む量を深く設定することで、リヤサスはちょっと大袈裟に上下動してくれる。
さらに減衰力調整が装着されていたら、伸び側(アジャスターにTENと表記されている)を一番弱い設定まで調整してみる。誤解しがちなのが、これで減衰力がゼロになることはなく、調整機構はメインの減衰力を発生する仕組みとは別の経路にあるので、上下動が止まらなくなるほどフワフワになることはあり得ないので安心して弱めてしまおう。
またフロントフォークにも伸び減衰力調整があれば(プリロードアジャスターの中心部の奥に小さなアジャスターがあるのが一般的)これも最弱まで調整したほうが、効果をより実感できるはずだ。
この調整をして走れば、どんなにおっかなビックリでスローペースで走っても、まずバイクのリーンなど車体を傾ける動きが軽やかになるのを間違いなく実感できる。
そして曲がり角や回り込んだコーナーへアプローチすると、前輪から倒れ込んだり、もしくはイン側へ近づけにくく大回りしがちな傾向もなくなっているはずだ。もちろん、この扱いやすく乗りやすいハンドリングに、時間をかけずに馴染んで不安が減るというか、いつの間にか自信のようなものも戻ってきやすくなる。
よく動くサスだとバイクなりの動きを妨げなくなる
どうしてそんな魔法のような効果が得られるのかというと、オートバイには構成パーツのなかで圧倒的に重く、回転質量でジャイロ効果まで併せ持ち、すべての動作の重心となるエンジンという存在と、直進や旋回したりのバランスして動く前後輪の扇状に動くパートとが合体した構造だ。
車体設計では、この重心と前後輪とがロール軸というリーンの動きをしたときに、無駄に動かずに済む位置関係、いわゆる理想的なアライメント設定がしてあるのだが、ライダーがハンドルを両手で押さえたり腰で車体を捻ったりすると、それぞれに素直なリーンなどを妨げる応力が働いてしまい、その都度で違う反応を伝えてライダーに不安定なイメージを与えてしまいがちになる。
しかしサスペンションが大きく動くことで、車体のエンジン側は本来の動きを維持しやすくなる。言葉を替えれば、ライダーの妨げる動きをサスペンションの動きで分断してくれるということになる。
というワケで軽やかで扱いやすい動きが得られ、何となくとはいえ安心感のある走りに怖々気分が徐々に解消されていきやすい。
もちろん、素早く車体を動かしたい乗り方には、足応えで踏ん張りがないことや、動きが収まるまで時間がかかることから、誰にでも合う設定とは言いがたい。そうしたニーズには、また減衰力など必要に応じて強めていくことが求められる。
ただ一般公道で走る前提だと、そもそも市販のロードスポーツはコンプレーンの出やすいよく動くサスペンション設定にはしていないため、トラウマに陥った状態から抜け出すためといった限定的な目的ではなくても、やんわり設定のほうが乗りやすかったりする。試してみる価値アリなのでぜひ!