鼓動(パルス=脈動)をパフォーマンスに換えた270°ツイン!
気がつけばビッグバイクの2気筒は、ほとんどが270°クランク。
なぜ2気筒勢がこぞって270°位相クランクに設定しているのかといえば、パルシブな不等間隔爆発を得るため。
発端は1990年代にスーパーバイクのレースで、ドゥカティに日本製ワークスマシンが苦戦するようになって以来。
コーナー立ち上がりからの加速で、ホイールスピンで真っ黒なタイヤ痕を残す日本勢が、同じタイヤ痕をつけながら引き離していくドゥカティのほうが、後輪グリップの効率が上回っているのは明白だった。
それは90°Vツイン(ドゥカティはVの前バンクが水平に近く、そのカタチからLツインとも呼ばれた)の不等間隔爆発、つまり均等に爆発せず間隔が広いサイクルと間隔が詰まったサイクルを繰り返すことで、このパルシブな脈動がタイヤに伝わり、路面を噛むように後輪が路面を蹴る……それがコーナリング中となると、ホイールスピンしやすくなるため、効率の違いが大きなギャップを生じるというワケだ。
この90°Vツインの爆発間隔を、市販車の並列2気筒で再現しようとしたのがヤマハ。1995年にTDM850の360°クランクを270°位相にしてロードスポーツのTRX850に搭載したのだ。
以来並列の2気筒では、パルシブな不等間隔爆発がトラクションの効率をアップするという流れができ、国内外のメーカーが続々と採用するようになった。
それもバランサーが必須という構成に、各メーカーが独自の工夫を凝らすようになり、最近ではスズキが90°Vツインを経験した知見から、バランサーと駆動効率の向上を兼ねた配置とするなど、さらに高度な仕様も開発されている。
そうかと思えば、ロイヤルエンフィールドのように空冷でスペック的には控えめな出力でも、走ると270°位相のバランサーを含めトルクを強めるチューンに優れ、刺激が少ないので気づきにくいもののコーナリングのパフォーマンスが醍醐味溢れるなど、さらなる発展に寄与している。
回転域の使い方でリスクなく曲がれる醍醐味が劇的にアップ!
ただこの270°位相クランク、使う回転域でその効果を発揮しやすいか否かの差がでる。
これはツインのみならず、V4や直4でもMotoGPを筆頭にトラクションをいかに引き出すか、エンジニアだけでなく操るライダー側にも、効率を考えた使い方で差となることが知られている。
顕著なのがMotoGPで、速度の低いコーナーでエンジンを回したらグリップできるタイヤなどあるはずもなく、ピーク回転の半分以下どころかもっと低回転で進入し、加速区間で中速域まで回さず矢継ぎ早のシフトアップで立ち上がっていくシーンを見かけることが多くなった。
ましてや一般道路の路面でスポーツバイクのタイヤとなれば、カーブでバンクしてタイヤのグリップが期待しにくい状況では、エンジン回転をグッと控えめを多用する乗り方が、曲がれるトラクションに直結する。
エンジンのトルクは最大トルクの遥か手前から上昇率は抑えられる。この上昇率が旋回時の速度が高まる状況に対し、上昇カーブがなだらかになると曲がり方が弱まる。
小さな排気量のバイクでミニサーキットのようなところを走ると、高回転域で回しっぱなしでは曲がれるポテンシャルが抑えられてしまい、早めのシフトアップだと良く曲がる経験をしたことがあるはず。
これと同じで、トルク発生の上昇カーブが立ち上がっている回転域が、加速しながらトラクションが落ち込まずに曲がり続ける環境として必須なのだ。
バンクせずタイヤを潰してトラクションを稼いだほうが、リスクなく曲がれるのはベテランなら充分に承知している。
低い回転域を繋ぐ早めのシフトアップを駆使して、曲がれるツインを活かしたライディングへと工夫を重ねていく面白さは格別。
あなたが2気筒乗りなら、トラクションを優先したエンジンの使い方に、ぜひチャレンジされるようお奨めしたい。