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このバイクに注目
KAWASAKI
KR-1
1988model

KR-1はレースで勝つため一途に心血を注いだ2st.レプリカ・ファイナル!【このバイクに注目】

Photos:
KAWASAKI

勝つための合理性と最新テクノロジーが辿り着いたパラレルツイン!

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レーシングマシンは勝つためを最優先に開発される。だから優位なテクノロジーなら躊躇せず採用する斬新で個性の集合体のように思われがち。
ところが実際は冒険を避けた意外なほどコンサバな構成で、どのメーカーのマシンも似てしまう傾向にある。
2スト250・レプリカ全盛の頃、カワサキはホンダとヤマハにスズキによる三つ巴の熾烈な闘いを横目に、凌ぎを削るほどますます似てくる3メーカーの没個性化を嘲るかのように、KR250を1984年にリリースした。
カワサキにしかない単気筒を前後で連結したタンデムツイン。世界GPの250cc350ccクラスでワールドチャンピオンを獲得したKR250とKR350と基本の考えを共有する超個性的なマシンだ。
そして1988年、発表になったNew2スト・レプリカのKR-1は、まさに180°方針転換したマシンだった。

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レーシングマシンままのフォルムでフルカウルのみ。カワサキがこだわりをかなぐり捨てた?と濃いファンは少々ガッカリもしたに違いない。
しかしそのコンセプトは2スト250レプリカの饗宴が幕を閉じようとしているのに対し、真っ向勝負をしてこなかった負けん気が爆発、曖昧さを潔しとしないもういっぽうのカワサキらしさを思い知るのだった。
エンジンは超オーソドックスな2スト並列ツイン……ところが並んだシリンダーは50°と深く前傾。
吸気をクランクリードバルブ(リード弁は高周波に強いカーボン!)方式とするためフレーム内の大容量エアクリーナーから、クランクケースまで一直線のストレート吸気を実現させるためだ。
そして驚くのが1軸バランサーをクランクシャフト前方下で駆動していること。
ツーリングでライダーの快適性への配慮?ではなく、2ストならではのオーバーラン特性といって、レッドゾーンに飛び込もうがコーナーによってはシフトアップせず、ピーク域を越えても回り続けることで土壇場の勝負強さが発揮できるという、唯々レースシーンでの優位性確保を狙ってのこと。
2スト250ワークスマシンだと、こうしたバランサーを駆動するケースが少なくない。まさにレースで闘うノウハウのフィードバックだ。

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デバイスもKIPSなど吸排気をマイコンで一括管理する電子制御を一気に進め、俊敏な吸気レスポンスを狙ったカーボン製リード弁の効果もあって、広範囲で力強い競争力のあるポテンシャルを身につけていた。
ギヤ比を素早く交換できるカセット式ミッションの採用など、当初からSPレース出場を前提としていただけのことはある。
リーンの一体感を含め、闘うコーナリングマシン然としたハンドリングは、剛性を思いきり高めたフレームや、テーパーベアリングをステアリングヘッドに奢ったり、400cc並みの高剛性スイングアームがφ41mmのフロントフォークと、まさにレースで使われる前提の高次元なシャシーだ。
それでいて、乾燥とはいえ車重は123kgと最軽量を誇った。

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すべてはレースで勝つため、ユーザーのユーティリティなどそっちのけな純粋レーシング・コンセプト。
さらにポテンシャルをアップした装備のKR-1Sと、KR-1Rも追加されパフォーマンスの高さをアピールしていた。

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とはいえブームは終焉が近いのを漂わせていて、国内F3レースに興じるライダーも多くはなくなり、KR-1の実力が目を見張らせる活躍というシーンは残念ながら展開されず仕舞い。
しかしカワサキはアメリカなど、若いライダーたちが覇を競う世界に遅ればせながら参画「BeHaveYourself(ハメを外さないように!)」と、その高いレベルのポテンシャルを自慢気にアピールしていた。
また2スト・レプリカで街中を颯爽と移動するカッコイイ手段としても売り込むなど、熱いファンに向けたカワサキならではのイメージで印象づけるのに成功していたのだ。
しかし2スト・レプリカ人気は衰えるいっぽうで、SPレース熱も下火となり、各メーカーとも開発から次々と手を引きはじめた。
そうした状況を見て、カワサキもこの系統からの撤退を決断、1993年をもって下方Vツインの新型ワークスマシンX-09も、このKR-1系と共に終止符を打つことになった。