トラディショナルなバイクでも、これまでにないチャレンジを込めることで命が宿るとリスクを条件に開発が許された!

1990年代に入るとネオレトロなバイクの気運が高まり、カワサキは1992年に250ccでロングストローク単気筒のエストレヤをリリース、ライバルのオフロード単気筒を転用せず、生産台数の限られる専用設計のリスクを跳ね飛ばす勢いで販売も好調、その勢いはロングセラーとなるヒット作となった。
そこで社内から、かつてのダブワンこと624ccOHVのW1(最終型はW3だった)に後継機種が欲しいとの声があがった。
しかしレトロな雰囲気だけを狙うのはNG、トラディショナルでも技術的なリスクと取り組む「本気度」が必須との縛りを課すのがカワサキ流。
DOHCからOHVまで様々な空冷の2気筒エンジン形式を検討、そこで選ばれたのがバーチカル(直立)ツインのOHCだった。
ただこの燃焼室の上でOHCを駆動するのを、一般的なチェーンでもコグドベルトでもなく、90°駆動方向を変換するベベル(傘歯)ギヤ駆動としたのだ。



このカムシャフトのベベル駆動、レースで旧くから使われたギヤトレーンの一種で、チェーン駆動より駆動に遊びがない正確なタイミングがとれる高度なメカニズム。
バックラッシュを限りなく小さくできるとはいえ、このヘリカルギヤ(90°方向転換する傘歯車のギヤ面が平歯ではなく斜めらせん状の接合面を長くとれる複雑高度な形式)の接合部には超緻密な加工技術が必要となる。
カムを駆動するということは、バックラッシュという歯車どうしが噛み合う部分に隙間があると、バルブがピストンと衝突しかねないため、いわゆるガタのないピッチリと組まれても駆動に抵抗がない「らせん状の傘歯」を切る加工機が必要だからだ。
後輪をシャフト駆動する場合の90°方向転換する傘歯車のヘリカルギヤはバックラッシュも大きくとれるため、一般的な機械でも加工が可能だが、このカムギヤ用となると当時はドイツにふたつの加工機械メーカーしかない。
これをたった1機種のために購入するのは、常識では考えられないリスク。
しかも年間3,000台分ほどしか加工できず、元をとるのに10年かかるというのだ。
しかしカワサキは、トラディショナルに本気を出すのなら、それくらいの未経験領域へのチャレンジはあったほうが本気度も高まるのでイイとの英断を下した。



1999年の発表記者会見で、とにかく10年はつくり続ける!と覚悟のほどを宣言していたのが印象的だった。
72mm×83mmのロングストローク675ccで360°クランク、1軸バランサーをクランク前方で駆動、48PS/6,5000rpmと5.5kgm/5,000rpmの中速域重視の特性。
フレームはダブルクレードルで、前輪19インチに後輪18インチと、街中やワインディングでも速度の低いヘアピンでも安定性が高いハンドリングとしている。
車重は乾燥で211kgでホイールベース設定1,465mmと相俟って、落ち着いた走りに中速域の立ち上がり加速でキビキビした感じを味わえるキャラクターにまとめられていた。



かくして宣言した10年以上をつくり続けたW650だったが、ハンドルがワイドで高さもあるアップハンドル仕様と、セミアップでやや幅の狭い仕様との2種類が選べた。
また2006年にはW650のエンジン・ストロークのみ49mmまで縮小したW400も誕生、サスペンションのストロークを前後で10mm縮小、シートの厚みも薄くしたことで、シート高を35mm低い765mmとビギナー対応も施し、2009年のW650ファイナルまで併売されていた。


そしてご存じ2011年に、2年のブランクを経て排気量を773ccへアップしたW800が登場して現在も継続生産中。
またメグロ・ブランドのモデルもリリースされ、トラディショナル好きなファンには唯一の機種として安定したニーズをいまもキープしている。



