飛行機エンジンに端を発した
水平対向から縦置きの世界が進化!
軽飛行機の典型、パイパーPA28は水平対向エンジン搭載で前方視界を確保
パイパーPA28
BMWボクサーは左右シリンダ位置がコンロッド分ズレる
BMW初の量産バイクR32(1923)
縦置きエンジン!?……エンジンに縦とか横とか、それすら何のことやらという方もいるだろう。
しかし機種こそ多くないマイノリティではあるものの、100年も続いた実績といまも「最強」と認めるライダーが多いそのポテンシャルは知っておいても損はないはず。
その縦置きの原型は水平対向エンジン。そもそものルーツはBMWだ。
BMWのエンブレムは本拠地のドイツ・バイエルン州旗と合併した前身のロゴをあしらった絵柄なのだが、青い空とプロペラが回転したマークと世間で伝播したほど航空機エンジン生産が創業時の事業だった。
飛行機はプロペラが単発だと、小型では操縦席から前を見やすい水平対向エンジンが圧倒的に多い(パワー最優先で星形複列14気筒など巨体エンジンの戦闘機用とは次元が異なる)。
いってみれば一番小型の原点エンジンは水平対向ということになる。そのBMWが第一次大戦で敗戦国となり戦後に航空機の生産が禁止され、その流用できる技術力ですぐ開発できたのが、オートバイに搭載する、後にボクサーと呼ばれる水平対向2気筒だったのである。
ところがこのBMW製水平対向2気筒エンジンは、アッセンブリーメーカーは前後にシリンダーが突き出た「横置き」に搭載していた。後輪を駆動するベルトやチェーンの回転に繋ぎやすいからだ。
が、このエンジン生産が好調なBMWは自社で車体も製造、完成車までを一貫して組み立てようと、エンジンに変速機やクラッチを一体化したユニットで設計、当時は珍しいチェーンではないシャフト・ドライブとして他と違う90°方向の異なる「縦置き」としたのだ。これが初代のR32、1923年のことだった。
そしてBMWは最新R1250系に至るまで、この「縦置き」水平対向エンジンの開発を途絶えることなく継続してきたのである。
シリンダー(クランク)より上に何もない水平対向エンジン
クランクの上にシリンダーやカムシャフトが積み重なる横置き4気筒
1940年、BMWはスーパーチャージャーを装着、最高峰の500ccクラスで初めての英国以外のメーカー、初めての英国人以外のライダーによる優勝を遂げてみせた
なぜ100年もの間、BMWのこの特異な形式が生き延びてきたのか。そこにはノスタルジックな意味合いは全くない。オートバイという形式の乗り物にとって、メリットの大きさというかその多さで、まだ他の形式を凌駕しているからだ。
1923年のR32以来、エンジンをユニット化してシャフトドライブとした耐久性、そして地を這うような低重心の安定性で荒れた路面でも高速で走れる強みで、第二次大戦前のマン島TT独走、戦争中の砂漠踏破性と闘いの中で立証、1960年代以降のツーリングへの適合力、その後のパリダカールなど、サバイバルバイクとして定着してきた歴史が証明している。
エンジンが左右に突き出たシリンダーから上に重量物がない構成の圧倒的な低重心による安定性、そして縦置きのクランクシャフトが進行方向と同軸に回転する、ジャイロ効果(地球ゴマの原理)が生む独得な安定感も他にない頼れる逞しさだ。
縦置きは水平対向ボクサーだけじゃない、
頼れる逞しさと乗り味の面白さで
さらに100年を刻むのか
1977 Honda GL500
1966 MotoGuzzi V7
1976 MotoGuzzi LeMans
もちろん、縦置きは水平対向のBMWボクサー以外にも存在してきた。ホンダは’80年代のHY戦争に多気筒高回転ではなく、縦置きOHVツインを投入して人々を驚かせたほどだ。そしてそれぞれに縦置きメリットを継承しつつ、キャラクターとしては安定性や安心感、もしくは旋回性で趣味性の高いハンドリングなど、個性溢れるスポーツバイクとしての魅力を放っている。
しかもモトグッツィの新型Mandelloのように、新たなスポーツマシンの方向性を探ろうとするチャレンジもファンを期待させる。益々楽しみな「縦置き」たちだ。