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このバイクに注目
DUCATI
916
1994model

DUCATIを世界一流へ押し上げた916の秀逸さと美しさ!?【このバイクに注目】

Photos:
DUCATI

ライバルが後を追う全てにリードする画期的存在!

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ドゥカティといえば、MotoGPでもチャンピオンを獲得、スーパーバイクでは常勝、そして市販スーパースポーツでもパニガーレV4にムルチストラーダやモンスターなど、カテゴリーで世界トップのモデルが居並ぶ超一流メーカー。
もちろん戦後の創設期から世界GPへ挑戦したり、天才タリオーニ技師によるデスモドローミック(強制開閉バルブ)や大型クラスへ90°Lツインで日本車へ対抗するなど、熱きイタリアンとして不動の人気を誇っていた。

しかしこの’60年代から’70年代に’80年代と、支えるファンにはどこか判官贔屓な、マイノリティだから愛されていたのも事実だった。
それを最大のライバルだった日本車と肩を並べるパフォーマンス、さらにはテクノロジーでもリードし続ける立場へ押し上げたのは、1994年にデビューした916であるのは誰もが認めるところ。
ドゥカティ・ミュージアムに鎮座する916の両側に、851と888の世代がひとつだけ前のモデルが並べられているが、その佇まいの大きな違いに、この916が如何に世界を震撼させる画期的な先鋭マシンだったかを見てとれる。

大きなLツイン搭載マシンが、GPマシンのフォルムとセンターアップマフラーで、比類なきスリムさで魅力を放つ!

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衝撃のマシンとなった916をデザインしたのは、ビモータの創設者のひとりで後にMVアグスタで珠玉のマシンF4を手がけたタンブリーニ。
そもそも初の水冷DOHCとなった851から進化したスーパーバイクを、細いパイプでトライアングルを組むトレリスフレームも踏襲しながら、排気系をセンターアップマフラーという、2ストロークGPマシンには前例があったものの、大型4ストロークマシンでは誰も考えなかったシートカウル下へサイレンサーを収める、車体の両外側にマフラーが張り出していない超スリムな構成を生んだのだ。

このマフラーのレイアウトは単にスリムさのためではない。エンジン出力とワイドに力強い特性とするのは、実はエキゾーストの長さに支配されていて、ビッグツインにはこの長さがそもそも不足気味だったのだ。
そこでエンジン下から真後ろで上にたくしあげた、エキゾーストが比較にならないほど全長を稼げて、連結部分も中速域の向上に活かせる工夫が功を奏し、916はスーパーバイクの世界選手権で日本製4気筒勢を蹴散らす勢いを得ていた。

ホンダの模倣と思われようが新しさを追求するフィロソフィを貫いた片持ちスイングアーム

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もうひとつ世界が目を見張ったのが片持ちスイングアーム。これは既にホンダがスーパーバイクのワークスマシンから採用しRC30をはじめ市販ロードスポーツにも採用していた、いわばホンダ専用の仕様と思われていた方式だ。
実はホンダもフランスのエルフという先鋭レーシングマシンを開発するメーカーから特許を得て実用化していたのだが、ドゥカティはこれに抵触せず独自のフィーチャーとして開発。
なぜホンダのアドバンテージを採り入れなければならなかったのか?……オリジナリティにこだわりが強いドゥカティらしくないと揶揄する周囲に「新しさのために必然だった、我々は従来の片持ちを超えるレベルにある」と平然と言い切っていた。

そして実際、モノアームで生じる横振動を抑える非線形デザインを、916では思いきった形状と軽量化を果たしていた。
このキャスティングパーツを精密で強度と軽量化のために、ドゥカティはブレーキのキャリパーで信頼の高いブレンボへ発注、ヘッドライトのケースにも他のステーを兼ねる合理化を果たすため樹脂ではなくキャスティングパーツとしていたのだ。

フレーム幅を吸気BOXとしたり、カウル形状はグループのカジバ500cc世界GPマシンをベースにいかにレーシーなまま、つまりレプリカではなくまんま本モノであるカタチを求めてデザインされていた。

ボルト1本から設計し直す高次元マシンを創りたい……そに一心が類い稀な魅力とバリューを携え、パフォーマンスも抜きん出る結果を導いた!

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リッターマシンとは思えないスリムさは、センターアップマフラーもあってリーンなど運動性は異次元な軽さとなり、徹底したアライメント追求で絶妙にレイアウトされたエンジン位置など、そのハンドリングはプロ級ライダーはもとより、キャリアの浅いライダーにもニュートラルで扱いやすいクセのなさで、信頼のマシンとして高評価を得るのに時間はかからなかった。

何よりスーパーバイクの世界選手権でのアドバンテージが絶大で、マイノリティなブランドとしてのドゥカティを応援するイメージを拭い去ってしまったのだ。
そしてセンターアップマフラーは、日本メーカーからヨーロッパメーカーまで、ひとつの流行りと思わせるほどこぞって採用される時代を迎えるまでになった。

その後いくつかの世代を経て、ドゥカティは現在のパニガーレ系のように絶対的な王者としての位置づけにあるマシンを輩出するメーカーとして、疑いようもない存在に思われているが、そうしたステージへ押し上げたのがこの916であったことは忘れられない。
タンブリーニはその後、ご存じのようにMVアグスタ再興に係わり、モーターサイクルアートと呼ばれるこれも不朽のマシン、F4を生み出したのはご存じの通りだ。