タイヤがちょっとずつズレる荷重があって、
これが一定だとグリップ感として伝わる
まず人は何によってグリップしていると感じているか、そこから考えてみよう。
たとえば凍った路面に立つと、いうまでもなく不安に陥る。
靴底をちょっとでも横方向へ動かそうとすると、いきなりツルッと滑って転びそうに。
そのリスクを冒したくなければ、ただ真っ直ぐ立っているしかない。
そうはいっても歩かなければならないときは、歩幅を小さく真上から踏むように歩く。
このくらいは大丈夫と歩幅を拡げた途端にスッテンと転んでしまった経験は誰でもある。
もちろん舗装した路面で、凍ってもいない濡れてもいない状態なら、滑るリスクはないので安心して歩いたり走ったりできる。
では舗装していない土が露出した地面ではどうだろう。
勢い良く蹴ると、表面の柔らかさで少し滑るときもある。
但しその路面に慣れてくると、どの程度までならスリップせず、いわゆるグリップした状態が得られるかを身体が学習する。
実は我々はちょっとしたズレを生じた状態から、グリップしている安心感を得ている。
ハンドルのグリップラバーなど、掴まるだけではなく操作するには、強く握るのではなく、皮膚の表面が少し撓んだ(スレた)握力で触れているほうが繊細な操作と多くを感じていられるのと同じだ。
後輪は軽いトラクションが安心感になる
このグリップしている安心感を走っているバイクに置き換えると……
人間の靴底は、バイクだとタイヤ。
これが同じようにちょっとズレた(撓んだ)状態が感触として伝わると、いわゆるグリップ感として認識される。
つまりタイヤが車重だけで撓んだ状態で回転している場合は、グリップ感とかはないことになる。
そしてこれに加速や減速による荷重増でタイヤが撓むと、グリップ感が伝わりはじめるわけだ。
たとえば後輪。加速で路面に対し空転せずにガッチリ掴めるよう、イラストのようにドライブ軸とスイングアームのピボット軸、そして後輪のアクスル軸の3点関係が設定されていて、ジワッと路面方向へ押し付ける構造となっている。
加速するとリヤが沈むと勘違いしやすいが、これはフロントフォークが伸びるのを相対的にリヤが沈んだように感じるからだ。
もし加速でリヤが沈んだら、コーナリング中にスロットルを開けた途端、後輪から荷重が抜け滑ってしまう。
ということで、この後輪が路面を蹴る感触はシート座面がほんの僅か押し上げられるので感じることができる。
ホントに僅かなので、直線の前後に交通のない状況を選び、3,000rpmとか全開にしても絶対に飛び出さない回転域の4速や5速の高いギヤで試してみよう。
加速Gで体重がシート座面に押し付けられる……この釣り合う相対関係で誤魔化されやすいが、テールがリフトするほうが先なので、注意していれば変化はわかるはず。
これがバンクしている旋回中にも起きている……そう説明すると、深いバンク角でタイヤ痕のブラックマークを擦りつけるレース・シーンをイメージするかも知れない。
もちろん延長上にそれはあるが、一般道で大事なのはコーナーを速く駆け抜けるためではなく、グリップ感を確かめながら安心して安定した旋回が可能になる状態だ。
これも曲がりながらグリップが増えて旋回方向が安定するトラクションであることに変わりはない。
急激に加速したらコーナリング速度が上昇して曲がりきれなくなるリスクが高まるだけ。
後輪をグリップできて速度上昇を僅かしか伴わない回転域で、湧き上がるトルクもレスポンスにややタイムラグがある、そんな回転域を最新エンジンは絶妙にチューンしている。
前輪は減速の復元性アップから
横にズレる路面振動が手応えに
では前輪のグリップ感はとなると、ブレーキの減速以外でフロントタイヤが撓むような状態がほぼないため、かなりデリケートであるのは否めない。
何せフロントタイヤが担っているグリップは、あくまでも車体+後輪の旋回を妨げないよう追従する支え棒のような役割だからだ。
その難しい部分はさておき、先ずは直立したブレーキングから説明しよう。
何もハードブレーキングしなくても、前方の信号が赤になったから停車する減速でも、オートバイのフロントまわりのアライメントは、前輪への荷重が増えるとそれだけ復元力、つまり真っ直ぐ前を向こうとする作用が強まる。
誤解をおそれずわかりやすい概要説明をすると、オートバイのフロントフォークがなぜ斜めになっているかといえば、こうすることでフォークが装着されているステアリングヘッドに載った車重は、前輪が一番遠い位置、つまり真っ直ぐ前の直進する方向にいようとする。
何か路面の凸凹で前輪が左右へ振られたとしても、真っ直ぐ前を向く位置へ戻ろうとする、いわゆる復元力が働くわけだ。
ということで、急激で乱暴なブレーキングでスリップしないかぎり(最新のバイクはABSで担保されている)、グリップして安定性も増している状態となる。
感触もフロントフォークを介して伝わってくる微震動に、サスペンションで吸収しきれないタイヤの撓みの変化による上下動と進行方向に前後するフォークの撓みも含まれる。
たださすがにこれは百戦錬磨のライダーでなければ感じ分けられない。
減速で前輪が凹んでいるイメージで感触を掴んでいるだけで、それは充分グリップ感といえる。
では旋回中の前輪グリップ感はどうかというと、実はフォークが若干進行方向に対し90°でこれも僅かだが撓んでいるのだ。
これが冒頭でいうズレなのだが、一般的にそれを感じることはできない。
がしかし、軽い入力でもブレーキングでフロントタイヤが撓んだ状態の感触は、いきなりブレーキをゼロまで解放せず、ジワッとリリースすればグリップ感の感触も残る。その残った感触を受け継ぐカタチで曲がりはじめるリーンの少し撓む状態へと繋がることができる。
実は前輪が少しずつ外へ外へとズレて旋回していて、これは深くバンクしていなくても、交差点の左折レベルでも同様な状態にあるのだ。
このゆっくり且つ一定のズレが、アンダーステアというバランス状態にあって、いきなりハンドル持つ手に舵角変化など感じさせない安定状態にあれば、安心感となるというわけだ。
もちろん、これを常に感じながら走る必要はない。
ただ荷重変化を加速や減速で与えることで、グリップ感をつくることができるという大原則へ徐々に馴染んでいければ、どの範囲のペースならば安定感が崩れず安心して乗れるのかなど、自分ではかったり決めたりをするようになる。
一定のバランスが保たれている感触、それがグリップ感を含むバイクを乗る上で最も気にかけておくポイントであるのは間違いない。