レースライダーだった開発PLが操る満足感を最優先に注ぎ込んだFireBlade!

1992年に登場したCBR900RR FireBladeは、世界が唖然とする超過激なスーパースポーツだった。
しかし当時は300km/hを目指すフラッグシップがもてはやされ、ホンダの海外マーケットからの期待も「最速」。
ところがホンダの開発陣に、そんな「最速」に目もくれないプロジェクトリーダーがいた。
全日本チャンピオンも獲得した走りのパフォーマンスを知る感覚からすると、右に左にコーナリングする満足感こそ、ライディングの楽しみ。
ビッグバイクでひたすらトップスピードを狙うと、そのパワーに耐えるエンジンは強度の必要性から重くなり、車体も必要な剛性を確保すると重くなる。
それはコーナリングの扱いを重く頑固なハンドリングとしてしまう。
そこでパワーに上限を設定し、何より車重を軽くすることが最も乗りやすく満足感を得るための条件となる。
当時ライディングを最も楽しませるのは600ccのスーパースポーツで車重が185kg、そしてこの車格で狙えるパワーの120PSを得る軽くコンパクトな排気量は900ccが算定された。

そこで白羽の矢が立ったのはCBR750RRプロジェクト。
同じホンダのV4との競合を避けるため、中断していた直4(インライン4、もしくは並列4気筒)にGOサインが出たのだ。
この車格でリッターバイクを凌ぐ加速性能ということで、、CBR750RRの排気量を拡大しながら探っていくことになった。
CBR750RRはボア×ストローク70mm×48.6mmの750cc、運動性能を左右するエンジン幅を右端にカムチェーンを配したスリムさをはじめ前後長も600cc並みのサイズとしたレイアウトのまま、ストロークを58.0mmまで伸ばし893ccで124PS/10,500rpmと9.1kgm/8,500rpmへとパワーアップを果たした。
バルブ挟み角を16°としてDOHCのカム間の短縮や、クランクケース後端の上エンジンマウントをセミ・ラバーマウント、逆にシリンダー側マウントを強度メンバーとするリジットにする異例な采配もすべては運動性最優先への寄与を狙ってのこと。
これで車重185kgを160km/hまでリッタークラスと同等の加速ができるのを確認できたという。








しかも重心位置を地上高534mmに設定、ホイールベースを1,405mmとして重心から後輪接地点までを718mm、エンジンのシリンダー前傾角を24°のフロントアライメントに合わせ、ニュートラルなハンドリングを得るベストバランスのスペックが完成、果たしてその走りはこれまでにないレベルに達していた。
前輪をウイリーも含めた急激な加減速による荷重変化の大きさを吸収するため、ワイド化しつつ16インチと小径に収め軽快さをキープ、当時は既に倒立フォーク採用のマシンも存在したが、重量的な面としなやかで細かな作動性で優位な高剛性の正立フォーク(内部にカートリッジを備えた減衰性能が飛躍的に緻密で高かった)を敢えて採用しているこだわりが功を奏していたのだ。
また空力にも細心の配慮がされていて、CBR900RRの特徴でもあるナックル部分のパンチ穴も、前面からサイドの走行風を80〜100km/hの旋回安定性へ効果をもたらすアイデアのひとつ。
3箇所のエア・インテークは、ヘッドライト下の気流がエアクリーナーへ導かれ、サイドの小さなダクトからはラジエーターを冷却した熱気をサイドのアウトレットへ逃がす整流効果の促進を狙ったものだ。


ところが当初、300km/hがチラつくリッタークラスのフラッグシップ人気は根強く、1992年にCBR900RRがデビューしたときはそれほどのインパクトはなかった。
しかし実際にヨーロッパやアメリカのワインディングで、CBR900RRがみせる高い運動性能と圧倒的なハンドリングの違いは明白で、ミドルクラスのユーザーも巻き込んで瞬く間に評判となり販売台数が2万台を超える大ヒットとなったのだ。


その後1994年モデルでは、アッパーカウルのステーを鉄からアルミへ、シリンダーヘッドカバーをマグネシウム化と軽量化を押し進め、丸形2眼だったヘッドライトを「タイガーアイ」と呼ばれる異形2灯ユニットとしてフェアリング形状を一新、マフラーのサイレンサー部分で黒塗装を廃止した。
1996年モデルではシリンダーのボアのみ71mmへ1mm拡大、918.5ccで128PS/10,500rpmと9.3kgm/8,750rpmと中速域からピークまで力強さを増し、車重を183kgと軽量化している。
そして1998年モデルでは最新RC45(RVF750R)で実績を積んだアルミ系複合メタルスリーブを採用するなど80パーセントの構成パーツが見直され、130PS/10,500rpmと9.4kgm/8,500rpm、フェアリングも変更となり車重も180kgまで軽量化されている。
この3代目がキャブレターを搭載したこのシリーズ最後となり、FireBladeの愛称と共にCBR929RRへとモデルチェンジされた。

その後、2002年にはCBR954RRとして国内販売もされさらに進化を重ねていった。
この革新的な900ダブルアールが、スーパーバイク・レースを含め750ccから1,000ccがスーパースポーツの標準となる流れのきっかけをつくったのは間違いない。
開発プロジェクトリーダーの悲願だった、ハンドリングを最優先したコンセプトがホンダに根づいた歴史の節目として、忘れられないマシンのひとつだ。



