メーカーのサス設定はPL対策で
乗りやすさと快適さを犠牲にしている!
ほとんどのビッグバイクにはサスペンションの調整機構が装備されている。
しかし知識のないシロウトが触ったら、メーカーがテストを繰り返し、厳密に決めた万人に良い状態を壊してしまう。
だからメーカーの設定をイジるなんてとんでもない……。
ところが、その絶対的に信頼しているメーカーが、残念ながらユーザーの使い勝手優先ではなく、PL(製造者責任)の回避目的でサス設定している場合が多いと知ったらどう思われるだろう。
ビッグバイクの主要なマーケットは欧米。日本より高速道路や一般道路の制限速度が高いこと、そして標準的な体格設定が180cmで70kg以上という大きな違いがある。
2人乗りでカーブを140km/hで駆け抜けたとき、路面のうねりや段差でバイクがグラグラ揺れたとき、危険に感じたら訴訟されかねないのが欧米。
グラグラグラと収まりに時間がかかるのはとんでもない、グラッと一回で収めるサス設定が求められるとなると、減衰力をかなり強くせざるを得なくなる。
エッ、それは良いことではないか……そう思われるかも知れないが、物事には程度問題があって日本人の体格にはあまりにも過剰に「動かない」サスになってしまう。
そしてこの硬さによって失われるのが快適性や路面追従性の低下によるコーナリングのグリップ性能、さらには軽快性が損なわれるのだ。
減衰力を弱める=サスの動きを速める
フワフワして不安と思うのはイメージ!
その「動かない」サスのデメリットは、まず簡単に説明すると路面の上下動にバイクもライダーも揺すられてしまうこと。
動きが鈍いので衝撃の吸収も遅れ気味なのと、凸凹から戻ったときも追従が鈍く、サスが縮むときと伸びるときの両方で遅れた揺すられ方となる。
でも弱めるとフワフワして不安定になるのでは?と思うかも知れないが、サスの調整機構のでアジャストできる範囲に、そこまで弱めてしまう設定は存在しない。
イメージ先行でそう思い込んでいると最弱にするとフワフワしたように感じるかも知れないが、何れにせよ危険な状態に陥る可能性はゼロで全く心配ない。
食べ過ぎでベルトの穴をひとつふたつ緩めると、動きやすくなって快適……という調整で、サスはシロウトがイジると危険ということにはならない。
ダンパーで生じている減衰力は、弱めるとフワフワして頼りなくなる……のではなくて、サスの縮んだり伸びたりの動きを抑えるチカラが減り、動きが速くなるという実際の現象を理解しておこう。
そうなると先ほどの路面の上下動に対し、サスが素早く追従して車体やライダーを揺すらない、スタビリティの良い安定状態が維持されるというワケだ。
リヤサスの下側(構造によっては逆の上に位置する場合もある)にあるアジャスターに、TENとあれば伸び側を意味してH~Sとハード(硬い)とソフト(柔らかい)と表示されているのも、伸び縮みの動きを遅くする~速くする、ということになるのをお忘れなく。
硬い(遅い)ほうが、ドッシリしていて頼もしく安心できるとイメージされているライダーが圧倒的だが、不安定、疲れる、乗りにくい、となっているほうが圧倒的に確率が高い。
とくに揺すられると手足から身体全体が疲れる……ツーリングの楽しさを奪われているのだ。
路面追従性がアップすると
コーナーのグリップも安定して楽しい!
この路面追従性が高まるメリットは、真っ直ぐ走っているときの快適性と安定感を良くするだけでなく、実はコーナリングでもっと大きなメリットが得られることになる。
イラストにあるように、リーンして旋回している状態で万一スリップしたとき、速やかに伸びるサスはツルッとグリップを失うことなく、ズルズルと粘りながら転倒を防いでくれるからだ。
プロのレースライダーでもチャンピオンクラスほど、このリカバリーを高める設定を優先して、想像を絶するほど柔らかい、つまり動きを抑えない速い動作にセッティングしているケースが多い。
硬めのほうがスパルタンでプロの乗り味、ということにはならないのだ。
減衰を弱めると運動性が軽快に!
素直で扱いやすいリーンができる
さらに伸び減衰を前後とも弱めるほど、大型のスポーツバイクはリーンの動きが軽快になり、全般的に扱いやすいハンドリングになる。
ムズカシイ理屈は抜きにして説明すると、不慣れなライダーほどバイク操作で余計な入力をしがちだが、サスが柔軟に動くことで、バネ下と呼ばれる前後輪が路面を追従している状態と、ライダーが跨がっているバネ上の車体側とを、適度に切り離してくれるからだ。
つまりリーンの操作方向が多少間違っていようが大まかに良好なアクションとして軽快に感じさせるので、乗りやすく扱いやすい状態となる。
メーカーの設定にまずは馴染んで、自分なりにセッティングするのはずっと先のこと、そう思っていたら大きな勘違い。
メーカーの出荷状態は、ライダーファーストではないのをまず知っておくべきだろう。