市街地の速度でもトラクションが明確だからスロットルを開けるたびに操っている醍醐味に浸れる
カタチだけじゃない、本格機能装備を持つ“走りのネオクラシック”
カフェレーサーはお洒落なライダーが乗るバイク。どうしてもそんな目で見てしまう自分がいるが、トライアンフのスラクストンRSの前でそんな考えは一切通用しない。足周りにスポーツバイクに負けない本格装備が与えられ、電子制御も充実。スラクストンRSはクラシックなルックスからは想像できないほど、その装備が本格的だからだ。
ロングタンクにクリップオンハンドル、イギリス車らしいダブルクレードルフレームに水冷のパラレルツインエンジンを搭載。市販車の中でこれほどブリティッシュカフェレーサーを匂わせるバイクは他にない。
エンジンは水冷だが昔ながらのトライアンフの意匠を大切にしたデザインで、ラジエターの処理もデザインを崩さない秀逸さ。スロットルボディはアマル風キャブレターをイメージし、薄型のメーターや砲弾型のヘッドライト、アルミバフ仕上げされたトップブリッジなどもクラシカルな雰囲気を強調する。
各部は趣味性の高いディテールが満載だが、足周りは他のネオクラシックとは別格ともいえる本格装備が与えられている。
低く構えたセパハンがカフェレーサーらしさをアピール。ポジションは前傾だが、いわゆるフルカウルのスーパースポーツほどキツくはない
足周りにコストをかける、それを徹底したネオクラシックがスラクストンRS
スポーツ性の高い足周りは、速度レンジを上げたり、コーナリングしないとその性能を発揮できないと考えている人も多いと思うが、そうではない。
『思い通りに操る、走る』。バイクを走らせる上でのこの理想は、市街地もツーリングもサーキットも変わらず、それには上質な足周りが必須なのだ。サスペンションにアジャスターが装着されていないバイクはここで大幅なコストダウンをしているわけだが、逆にスラクストンRSはここに信じられないほどのコストを費やしている。
フロントフォークはSHOWA製のBPF、リヤはオーリンズ製2本ショックでともに減衰力やプリロードを調整できるフルアジャスタブル。フロントキャリパーはブレンボ製M50で、タイヤは市販タイヤでもっともグリップの高い部類に入るメッツラー製レーステックRR K3を履く。
さらにスイングアームはアルミで軽量化と最適な剛性を追求。細かいところを見ればサイドスタンドも軽量なアルミ製だ。
そんな本格装備は、クラッチを繋いだ瞬間に直感でわかる。見た目だけじゃない本格的スポーツバイクであることが伝わってくるのだ。
リヤサスはオーリンズ製のフルアジャスタブル。初期作動性が良く、スポーティな足周りを演出。スイングアームはアルミ製で軽量化
フロントフォークはSHOWA製BPF(ビッグピストンフロントフォーク)。フォークトップに減衰力調整機構、ボトムケースにプリロード調整機構を持つ。キャリパーはブレンボ製モノブロックのM50をラジアルマウント。ホイールはスポークだが重さを感じさせないハンドリングをつくり込んでいる
リヤタイヤは160サイズの17インチ。太すぎないナローなラジアルが軽快なハンドリングに貢献。跳ね上がったメガホンマフラーもスポーティ
ペースやシチュエーションを選ばない、操っている醍醐味の高さ。このコントロール感がスポーツバイクの証
跨ると前傾がキツく、腰高な車体姿勢がその印象を強める。それはまるでスポーツバイクのよう。しかし、このポジションや車体姿勢はすべて走りのため。走り出して驚くのはハンドリングのレスポンスがスーパースポーツ並に良いところである。
専門的にいうと後輪が傾いた際、前輪の舵角がつくタイミングが秀逸で、これがスポーツバイク特有のリーンを約束。さらにそのリーンの動きに合わせて身体を追従させて荷重を増やしていくと、そこからさらに曲がっていくパフォーマンスを披露する。
キャリアが浅かったり、セパハンに慣れていないと、パッと乗った感じは鋭すぎてクイックだなぁと感じるかもしれないが、乗り込んでいくとこの玄人向けのハンドリングの虜になる。
ライディングモードは3種類。シチュエーションや体調、タイヤのコンディションに合わせて好みのフィーリングを探りたい
フューエルインジェクションのスロットルボディをここまで頑張ってデザインしているのはトライアンフだけ。キャブレター風の意匠がクラシックスタイルによく似合う
ライディングモードはレイン、ロード、スポーツの3種類。切り替えた時のフィーリングを上手く作り込んでいて、使いやすい。ちなみに路面温度が上がらない冬は、このタイヤを履いている場合、レインから走り始めてタイヤをじっくりと温めるのが無難。それくらいハイグリップなタイヤをスラクストンRSは履いているのだ。
1,200ccのパラレルツインエンジンは、とにかくスロットルを開けるのが気持ち良く、後輪が路面を蹴っている醍醐味を市街地でも味わえる。低いギヤで引っ張るよりも、高いギヤで低回転から大きく開けていくのがその気持ちよさを味わう秘訣で、そうすることでトラクッションの意味も理解しやすいはずだ。
このスポーツ性能の高さを知ると、市街地だけじゃもったいなくなる。ワインディングも夢中で楽しめるし、このタイヤやサスペンションならサーキットも軽くこなす。
“ネオクラシックはぬるい……”、そんな先入観はスラクストンRSには当てはまらない。このスタイルでコーナーを華麗に駆け抜けていたら、それはとてもスマートでトラディショナルだ。
クラシックなスタイルと最新の機能パーツを融合させたスラクストンRS。走りの性能を一切妥協しない割り切りが素晴らしい
車体はそれほど小さくないが、スリムなのでバイクとの一体感は高い。タンクやシートはカフェレーサーのオーソドックスなカタチ
メーターは、いまどきは新鮮な視認性の高いアナログタイプを2眼で装備。やっぱり安心感があるし、速度や回転数を直感的に理解しやすい。タンクキャップはアルミの質感がたまらないクラシカルなモンツァ型
市街地でも走りの組み立てが楽しい、扱っている醍醐味が高いのは、良いサスペンションやブレーキが装着されているから
SPEC
- 総排気量
- 1,200cc
- ボア×ストローク
- 97.6×80mm
- 圧縮比
- 12.1対1
- 最高出力
- 77kW (105ps)/7,500rpm
- 最大トルク
- 112Nm/4,250rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- ダブルクレードル
- 車両重量
- 217kg
- サスペンション
- F=テレスコピックφ43mm倒立
R=スイングアーム+ツインショック - ブレーキ
- F=φ310mmダブル R=φ220mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=160/60ZR17
- 全幅/全高
- 745/1,030mm
- 軸間距離
- 1,415mm
- シート高
- 810mm
- 燃料タンク容量
- 14L
- 価格
- 195万9,000円