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Harley Davidson
Sportster S
2021model

【ハーレーダビッドソン スポーツスターS インプレ】ついにエンジンが水冷化!スポーツスターよ、どこへ行く? 

Photos:
折原弘之

最初にお伝えしておきたいのだが、僕はハーレーダビッドソンに猛烈に疎い。これまでクルーザーの世界は縁遠かったが、先日発売されたパンアメリカ1250(パンアメリカの記事はこちら「【ハーレーダビッドソン パンアメリカ1250スペシャル インプレ】アドベンチャーカテゴリーのフロントローに並ぶ完成度」)で新しいハーレーダビッドソンに衝撃を受けた1人。パンアメリカはいい意味で伝統を払拭し、新しい世界を構築していた。だから、ハーレーダビッドソンのファン以外にもその魅力を伝えたいと思った。それは一緒に試乗した宮城 光さんも同じ意見。新しいスポーツスターも同様だ。スポーツスター史上最大の進化は、何を感じさせてくれるのだろうか?

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いよいよ上陸を果たした新生スポーツスター。水冷エンジンと伝統のスポーツスターの名前は、今後どのようにマッチしていくのだろう

スポーツスターの歴史上、最大の進化。ついにエンジンが水冷化&ショートストローク化

60年以上の歴史を持つスポーツスターのエンジンがついに水冷化された。これはスポーツスターの歴史上、もっともインパクトのある変化である。しかも新しいエンジンはショートストロークのDOHCで猛烈に速いのだ。

伝統である、空冷OHV 45度Vツインが生み出すハーレーダビッドソンらしさは皆無で、これまでの883と1200シリーズに乗ってきたターゲットとは明らかに異なる層に向けてつくられている。当然、クラシカルさ、空冷の味わいや優しさ、いかにもハーレーダビッドソンという鉄の馬感もない。強いて既存のスポーツスターとの共通点をあげれば、ハーレーダビッドソンの中では軽快なモデルというところと、エンジンがツインというところくらいだろう。

しかし、エンジンは同じツインというものの、そのキャラクターは鼓動感よりも速さを際立たせた味付け。それは、例えば車体のブランドを隠して乗り、試乗後に「これはドゥカティの新しいバイクだ」「新しいホンダのクルーザーだ」と言われてもまったく違和感のない仕上がりなのである。スポーツバイクが得意なメーカーがつくったようなフィーリングで、低速域からドドドッという感覚はなく、スロットルを開けると鋭く加速する。

それは足を前に投げ出したクルーザーポジションでは車体をホールドするのが難しいほどの鋭い加速だ。
エンジンが常に回りたがっているから、ゆっくりドロドロと走るのは得意じゃない。
ちなみにフォワードステップはシフトロッドがかなり長いため、シフトタッチはイマイチだ……。

まずはその心臓部であるスポーツスターの新旧(旧モデルは883ではなく1200)のエンジンスペックを比較してみよう

  • これまで搭載されていた空冷式エヴォリューション
    エンジン形式:空冷OHV2バルブ/45度Vツイン
    排気量:1,202cc
    ボア×ストローク:88.9×96.8mm
    最大トルク:96Nm/3,500rpm
  • 新型に搭載されるレボリューションマックス
    エンジン形式:水冷DOHC4バルブ/60度Vツイン(30度位相)
    排気量:1,252cc
    ボア×ストローク:105×72.3mm
    最大トルク:125Nm/6,000rpm
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水冷&ショートストローク&ハイパワーというこれまでのハーレーダビッドソンにないキャラクターとなったレボリューションマックスエンジン。パンアメリカとの車体の相性は抜群だったが、このポジションにはかなり速すぎるイメージだ

レボリューションマックスは、Vロッド(エンジンはレボリューション)やストリート750(エンジンはレボリューションX)と同じ60度の狭角Vツインだが、クランクを30度位相することで爆発間隔は、流行りの270度クランクの並列ツイン(トライアンフやMT-07など)や、90度のVツイン(ドゥカティなど)と同じ不等間隔。ボア×ストロークを見るとわかるが、スポーツバイク並のショートストロークで、最大トルクは大幅にアップ。発生回転数は2,500rpmも上がっている。公表はされていないが、最高出力はトルク以上の比率で上がっていることだろう。それは走り出してスロットルを開ければすぐに体感できる。

ちなみにライディング モードはスポーツ/ロード/レインを用意。スロットル操作で車体の挙動をコントロールするにはスポーツがベストで、他のモードだとスロットル操作に対する車体の反応が重たく感じた。

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メーターは情報を見やすいデジタルタイプ。表示画面を切り替えることで欲しい情報が手に入る。パンアメリカもそうだったが、日本語表示が新鮮

フロントタイヤはバイクの歴史上、なぜ太くならなかったのか……

これまでのスポーツスターと異なるのは、車重が軽いことだ。これが鉄の馬感を一切感じさせないところである。取り回しも押し引きも楽。そして車体サイズも思ったよりも小さい。しかし、僕は身長が165cmのため、フォワードステップのこのポジションが少々キツく(30分ほどで、股関節とふくらはぎの裏側が痛くなる)、スロットルを開けても車体を上手くホールドすることができなかった。

超極太の160サイズのフロントタイヤが生み出すハンドリングは独特だ。物量として前輪に重さがあるため後輪が傾いても舵が入りにくく、しかし一定の角度を超えるとその重さにより急に切れてくる。重たいけど、軽い不思議な感覚だ。Uターンや小回りではこの動きが顕著で、高速コーナーにいくと明かに曲がらない傾向になる。

また、ハンドリングだけでなく、高速道路巡航中もクセがあり、70〜80km/h付近では、ゆっくりとそして決して小さくない振動が一定周期でハンドルにくる。しかし、100km/hを超えると重さが功を奏すのか、直進安定性が高まる。エンジンは常用回転域を高くしていた方が車体が安定するのも、ハーレーダビッドソンらしからぬ走りである。実は、丸2日乗っていたらある程度は慣れたが、一般的なロードバイクと比較したらクセが強いのは間違いない。

フロントタイヤの太いスポーツバイクはなぜ販売されていないのか……、これは歴史が証明しているのかもしれない。

ちなみに前後サスペンションはアジャスターもついており、クルーザーとは思えない本格派。走っていると終始リヤが低かったので、リヤサスのプリロードを5〜10クリック強くすると、リヤサスのビギニング(初期作動性)が良くなり、ハンドリングやタイヤの接地感が少し僕の好みに近づいた。

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160サイズのフロントタイヤ。ステア特性はこれまでに乗ったことがない特殊な感覚。空冷1200シリーズより車重は軽くなったが、ハンドリングに軽快感はない

加減速を楽しめるスポーツ性 by 宮城 光

実は今回は宮城 光さんにも試乗していただいた。基本的には宮城さんも僕と同じような印象だった。
「これまでのハーレーダビッドソンにない加速、減速をきちんと楽しめる。こんなにフロントブレーキを使えるハーレーダビッドソンはなかったはず。このレボリューションマックスエンジンに見合ったブレーキ性能が約束されているのがいい。確かに極太のフロントタイヤは難しいけれど、新しいエンジンバイブレーションの楽しみ方はオーナーさん次第。ハーレーダビッドソンは新しいステージに行こうとしているのは明確だし、そのチャレンジ精神は伝わってきた。でも私はレボリューションマックスエンジンを搭載したハーレーダビッドソンらしいフロント19インチ、リヤ18インチの昔ながらの細身のフラットトラッカーに期待したい。スポーツスターのイメージは人によって異なると思うけれど、アメリカで見たダートを疾走していくあのカッコ良さをもう一度見たい」

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パンアメリカの時と同様、宮城光さんにも試乗していただいた。「エンジンパフォーマンスに見合ったブレーキ性能を確保しているね」と宮城さん

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デザインの要となっているXR750をモチーフにしたタンクとシート。ガソリン容量は11.8リットルとかなり少なめなので注意したい。シートは硬くクッション性はほとんどない

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フロントフォークはフルアジャスタブル。リヤサスもフルジャスタブルで、プリロードは手で簡単に調整することができる油圧式。リヤのビギニングが悪かったためプリロードを強めてみたら、僕の好みに近づいた

投資家は未来に投資したい、ファンは伝統を重んじたい、というハーレーダビッドソンの過渡期

スポーツスターとは何か? ハーレーダビッドソンの思うスポーツとは何なのか? 久しぶりにスポーツスターに乗った僕の頭の中は「?」マークがいくつも飛び交った。スポーツスターはどこへ行くんだろう? ただ、その答えはすぐに出ないし、出す必要もないのだと思う。

新しいスポーツスターでスポーティなのは、軽いことと、クルーザースタイルとは思えないほどフロントブレーキの制動力とコントロール性が高いこと、そしてこれまでのハーレーダビッドソンからは想像がつかない圧倒的な速さだ。

スタイリングは、タンク&シート&マフラーはXR750をデフォルメしたような印象で、伝統のスポーティさを大切にしているのがわかる。しかし、水冷ハーレーダビッドソンは、これまでのVロッドやストリート750も決して成功したとはいえない。ただ、水冷第3段となるレボリューションマックスは、3度目の正直として大成して欲しいと思っている。

大きな企業だから投資家の声も無視できないだろう。新しいチャレンジにエンジンの水冷化は必須だし、電気への取り組みも必要だ。ハーレーダビッドソンは、昔ながらの空冷Vツインを作り続けてきたから、近代化のシフトに若干苦戦しているようにも見えるが、カーボンニュートラル時代のいま、これは全バイクメーカーに与えられた使命なのである。すべてのメーカーがこの時代の節目に直面しているのだ。

そのスタートとして日本で発売された、アドベンチャーバイクのパンアメリカの完成度は驚くほど高かった。パンアメリカには世界のアドベンチャーカテゴリーに一石を投じるインパクトがあると断言できるし、ハーレーを新しいステージに導いた。

今後、レボリューションマックスエンジンを搭載したビューエルのような独創的なシャシー&足周りを持つアメリカンネイキッドやXR1200のような現代版ダートトラックレプリカなど、様々なスタイルのハーレーダビッドソンに期待したくなる。

ただ、いま空冷最後のスポーツスターは争奪戦になり、信じられないほどの価格で取り引きされているのも事実。これがユーザーの正直な反応なのだろう。スポーツスターのペットネームは、それだけ伝統を重んじるファンが多かったということだし、ハーレーダビッドソンが大切に育んできたということだ。

でも、もし既存の空冷エンジンでニューモデルが登場していたとしたら、僕らのようなロードバイク主体のバイクライフを過ごしてきたライダーには響かなかったのも事実。実際、レボリューションマックスエンジンへの期待値の高さから、今回も試乗を申し込ませていただいた。

僕はRIDE HI NO.6のパンアメリカ1250の原稿の締めを「今後、ハーレーダビッドソンがパンアメリカをどのようにブランディングしていくか楽しみにしたい」と結んだ。まさにこのスポーツスターの未来もこれからのブランディングが鍵を握っている。このエンジンを搭載した派生モデルにも期待したいし、変化&進化しようとしているハーレーダビッドソンの動きにもまだまだ注目していきたい。

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今回少し気になったディテールは左右のレバーの質感は異なるところ。ブレーキマスターシリンダーはブレンボ製のセミラジアルでレバーは艶ありタイプ。クラッチレバーは艶なし。レバー位置を調整できるのはありがたい

SPEC

Specifications
Harley Davidson Sportster S
エンジン
水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量
1,252cc
ボア×ストローク
105×72.3mm
圧縮比
12対1
最大トルク
125Nm/6,000rpm
変速機
6速
フレーム
ダイヤモンド
車両重量
228kg
キャスター/トレール
30°/148mm
サスペンション
F=テレスコピックφ43mm倒立
R=スイングアーム+リンク式モノショック
ブレーキ
F=シングル
タイヤサイズ
F=160/70TR17 R=180/70ZR16
全長
2,270mm
軸間距離
1,520mm
シート高
755mm
燃料タンク容量
11.8L
価格
185万8,000円(ビビットブラック)
188万7,700円(モノトーン)
協力/ ハーレーダビッドソンジャパン

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