近年、ここまでキャラクターの予想がつかないバイクは珍しい。
確かにビッグアドベンチャーは世界的にブームで、様々なメーカーが参入してきているカテゴリー。
製作したくなるのはよくわかるが、それだけに見た目だけのモデルが多いのも事実。
果たしてハーレーダビッドソンのパンアメリカはどのあたりに位置するのだろう?
今回は宮城 光さん(左)と小川で試乗。宮城さんはこのカテゴリーをなんでも乗りこなすが、小柄でロードメインの小川が不安なく楽しめたことの意味はとても大きい
ハーレーダビッドソンがハーレーダビッドソンではないハーレーダビッドソンを作ってきた
パンアメリカの試乗会にRIDE HIアドベンチャー担当(?)の宮城 光さんと参加した。試乗会場は軽井沢。一般的なワインディングと浅間火山レースも開催された跡地であるダートコースを走れるという。
会場に登場したパンアメリカを2人で眺める。
「思ったよりも大きいですね」と僕。「そうかな? 写真よりスリムに見える。頻繁にアドベンチャーモデルに乗っている僕からしたら、どちらかというとスリム。写真で見ていた時は重厚に感じたけれど、その大きさにはまったく違和感がない」と宮城さん。
BMWのGSをきっかけに、ほぼすべてのメーカーがアドベンチャーバイクをラインナップする時代になり、気がつけば四輪も様々なメーカーがSUVに参画。ランボルギーニやマセラッティまでがラインナップに加え、確かにダートなど走らないSUVが大半だからそれはそれでアリなのだが、バイクはどのメーカーもPVでは激しくオフロードを走りシーンがアピールされ、その本当の実力がなかなか見えにくいのが現状だ。
もちろんアドベンチャーを買ったからといってオフロードを走らなければいけないわけではない。でもせっかく買ったのならツーリング先で林道に入ってみたくなるのが人情。しかし、そこで林道に入ったことを後悔するバイクも多いのだ。
「正直、大変なモデルもある。ダートに入るとこんなに上手く走れないかなぁって……」と宮城さん。
パンアメリカは本格派なのか? それともスタイル重視なのか? どっちなのだろう?
パンアメリカは、ハーレーダビッドソンが新たなるカテゴリーに踏み出す、最初のバイク。
その完成度は未知数だが、すでに予約注文が130台ほどが入っており、これまでのハーレーオーナーと他機種からの流入が半々だという。
パンアメリカ 1250 スペシャル
欧州のバイクにはない重厚なデザイン。力強く、無骨なスタイルがアメリカンアドベンチャーの新しいスタイルになっていくのかもしれない。パニアケースをフル装備すると迫力だが、スペシャルであれば姿勢も自動調整してくれる。だから走り出しても重さを感じさせないハンドリングを味わえる
エンジンは新設計。最新機構も満載。停車時には足着き性を考慮し、自動で車高が下がる
エンジンは1,252ccのレボリューションマックスと呼ばれる新設計のVツインで、152ps/8,750rpmを発揮。
挟み角は60度だが、2気筒のクランクピンを30度ずつ位相することで90度Vツインと同じ(270°位相のパラレルツインとも同じ)爆発間隔を手に入れている。60°のメリットはエンジンの前後長を短縮できることで、これにより車体設計の自由度が大幅に向上。実際、パンアメリカはピボットレスフレームを採用し、スイングアームの長さを限界まで稼いでいる。
エンジンは挟み角60°のVツインだが、爆発間隔は90°Vツインと同じ。車体設計の自由度が高いコンパクトな設計で、今後の派生も楽しみなエンジンだ
そのエンジンを生かす電子制御の情報はフルカラーのTFTに詰め込まれている。画面の中はすべて日本語(若干翻訳がおかしな部分もあるが……)なのも驚きで、タッチパネルで操作できるところもあり斬新。操作は決して複雑ではないが、情報が多すぎるのと、文字が若干小さくて見にくい部分もある。
パンアメリカにはスペシャルとスタンダードがあり、スペシャルの大きな魅力はアダクティブライドハイトがバイクの市販車としては唯一装備されていることだ。
これは停車時にプリロードが最弱になり足着き性を向上してくれる機構。また走行中のプリロードは体重や積載している荷物の重さにより自動で設定するという優れものである。
技術説明でいろいろと聞くが、正直まったく乗り味が想像できない。
こんなバイク久しぶりだ。
様々な情報を網羅するメーター。ライディングモードはスポーツ、ロード、レイン、オフロードの他、オフロード+とカスタムモードも用意する
いよいよ試乗! 数あるアドベンチャーの中で、まさかのトップ3にランクイン⁉︎
宮城:スタンドを外さずに跨り、車体を起こすととても軽かった。装備重量250kgは標準的な重さだが、軽い250kgもあるし重たい250kgもある。パンアメリカは軽い250kg。エンジンは流行りの不等間隔爆発で、フィーリングにハーレーらしさはない。重たさやゴロゴロした感覚も皆無だった。
小川:エンジンは低速も扱いやすくかなりスポーティですね。走り出した瞬間からどこにも違和感がない。車格の割に軽く感じるし、ハンドルもよく切れる。濡れた路面でしたが、1つ目のカーブ、1回目のUターンからまったく不安がなく走れました。僕は身長が165cmしかないのでアダクティブライドハイトはとても助かります。跨ってからキーをオンにすると3〜5cm(体重や積載している荷物の量で異なる)くらい低くなるような感覚です。
宮城:停止するときに車高が下がるのは僕の体格でも助かる。やはり安心感がある。で、走り出すと気がつくと姿勢が戻っている。ポジションもありがちなシート高の低いジャパンスペシャルでなく、ハーレーが狙ったところをしっかりと実感できる。膝の角度がよく、スタンディングもしやすい。こういったバイクは、ちょっとハンドルが広いな、とか気になる部分があるんだけどパンアメリカにはそれがない。
小川:スペシャルとスタンダードを乗り比べてみましたが、スペシャルの方が連続的に減衰力が変化していて、常に路面追従している感覚が強かったです。比較するとスタンダードは常にサスペンションが硬く感じました。またこのセミアクティブサスはモードによっても特性が切り変わるのが面白いですね。
宮城:形だけのアドベンチャーがたくさんある中で、ハーレーダビッドソンはしっかりと本格的なアドベンチャーを作ってきた。「え?」と思う人はきちんと試乗してみた方が良い。はっきりいってBMWやKTMにしっかりと並んできている。思い切ったことをやってきたな、と思うけれどいきなりアドベンチャーのトップランカーの仲間入り。これは相当走り込んでつくってきている。もしかするとハーレー好きには痛みを伴なう改革かもしれないけれど、そうでない人には喜ばしいこと。このポテンシャルを知るともっといろいろなシーンで乗ってみたくなるね。
ダートでのインプレや詳細は、7月30日発売のRIDE HI NO.6でお届けします。
笑顔でフルカウンターの宮城さん。ノーマルタイヤでも自在にコントロールできるのがパンアメリカだ
ダートでのフィーリングは7月30日発売のRIDE HI NO.6でお届けします
パンアメリカ 1250
抜群のフィーリングを知ると俄然カッコよく見えてくる。ハーレーダビッドソンのアドベンチャーに少しでも「?」がある方は是非とも試乗してみて欲しい
宮城 光がパンアメリカをダート試乗
SPEC
- シート高
- 890mm(830mm アダプティブライドハイト)
- 燃料タンク容量
- 21.2L
- 価格
- 231万円~(271万400円〜)