元々はレーシングマシンの装備
多くのバイクの右ハンドルに装備されている“赤いスイッチ”。正式にはエンジンストップスイッチだが、「キルスイッチ」と言った方がピンとくるだろう。
近年はエンジンを始動するセルボタンと共用している車種も多いが“右回転に✕印のマーク”の方に押せば、エンジンを停止させられる世界共通の機能だ。……とはいえバイクにはイグニッションキー(メインキー)があるし、キーをOFFにすれば当然ながらエンジンは止まる。それなのに、なぜ全車キルスイッチを装備しているのだろう?
じつはキルスイッチは、元々はレーシングマシンの装備。昔の2ストロークのレーシングマシン等はバッテリーを持たずに、エンジンの発電機能だけで走っていた。エンジン始動は“押しがけ”なのでセルスターターを装備しないし、レース専用車ならイグニッションキーも付いていない。というコトは走行終了時に“エンジンを止めるためのスイッチ”が必要になり、それがキルスイッチというワケだ。
昔の2ストロークのレーシングマシンは、点火プラグで火花を飛ばすことしか電気を必要としなかったため、エンジンに備えた発電機だけで十分で、バッテリーは積んでいなかった。写真は1979年のヤマハ市販レーサーTZ250
万一の時にエンジンを止めるのに使う
そしてレーシングマシンの場合、キルスイッチが必要な重要な理由が他にもある。転倒や事故の際にエンジンが止まらずにタイヤが回り続ける場合があるが、そのままではライダーの救助やマシンの除去作業に支障があるし、漏れたガソリンに引火する危険もある。
そんな万一の際に、瞬時にエンジンを停止できるキルスイッチが必要とされるのだ。これは四輪のレースも同様で、ドライバーが負傷などでエンジンが停められない場合でも、コースマーシャルが外部からエンジンを停止できるように、車体の外側にもキルスイッチの装備が義務付けられている。
ともあれ、公道を走る一般車でも万一の転倒や事故の際には、できるだけ速やかにエンジンを止めるコトが必須。というワケで、一般車にもキルスイッチが装備されるようになったのだ。
四輪レース車両に貼られるキルスイッチのマークの例。多くの場合、ボンネット付近にキルスイッチを装備し、その位置をわかりやすく示すためにマークが貼られている
普段乗りでもキルスイッチは便利
……と、ここまで解説してナンだが、じつは近年のインジェクション仕様の多くのバイクには“転倒センサー”(メーカーによって呼び名は異なる)が装備されていて、車両が最大バンク角を大きく超えた横倒し状態になると、自動的にエンジンを停止する機能が装備されている。となると“キルスイッチ、いらないんじゃない?”と思わなくもないが、そうでもない。
たとえば有料道路の料金所などでは、停車したらギヤを1速に入れたまますかさずキルスイッチでエンジンを止めれば、ニュートラルを出さずに両手をハンドルから離せるので財布の取り出しなどがラク。
再スタートもクラッチを握ってセルボタンを押してエンジンをかければ良いだけだ(長めの信号待ちなども、この方法ならニュートラルを出さなくて良いので便利)。
また新車から間もない頃(トランスミッションに“あたり”がついていない)はニュートラルを出しにくいことも多いが、そんな時はエンジンを止めてクラッチレバーを握らずにシフトペダルを操作するとニュートラルが出しやすい。イグニッションキーをOFFにしてエンジンを止めても良いが、コレだとメーターやインジケーターも消えてしまうのでニュートラルを確認しにくいが、キルスイッチで停めればメーターやインジケーターは作動状態なので、ニュートラルランプの点灯を確認できる。
等々、キルスイッチは万一の時以外でも、けっこう使える便利装備なのだ。ちなみに“キルスイッチは非常用だから、頻繁に使って大丈夫なの?”と思っている方もいるようだが、まったく問題ナシ。ただし駐車時にキルスイッチだけ切ってイグニッションキーをOFFにするのを忘れると(ようするにカギ付けっぱなし)、バッテリー上りはもちろん盗難の危険も大きいので、それだけは忘れずに!