MotoGPクラスに参戦して4年目の2020年シーズン、KTMは初優勝を飾り幾度も表彰台に立って、大きな注目を浴びた。
なぜ、KTMはここまでの飛躍を遂げることができたのだろうか。
KTMレースマネージャーのマイク・ライトナーさんに独占インタビューを行った。
2020年シーズン、KTMは大きく躍進した。第4戦チェコGPでブラッド・ビンダーが初優勝を飾り、ポル・エスパルガロは3位を5度獲得。さらに、サテライトチームライダーだったミゲル・オリベイラが2勝を挙げた。
KTMは2017年、最高峰クラスへの参戦を開始。2018年最終戦には、雨のバレンシアGPでエスパルガロが3位表彰台を獲得したものの、2019年は表彰台に返り咲くことができなかった。それが、2020年にはKTMライダーが表彰台に立つことは驚くべきことではなくなったのである。
KTMのMotoGPクラス初優勝はビンダーによってもたらされた
オリベイラは2020年、2勝。2021年はファクトリーライダーとなる
注目すべき一つは、マシンの進化だろう。KTMのRC16はスチールパイプフレーム、そしてWPサスペンションを採用するなど、独自路線を歩んでいる。ともあれ、後発としてMotoGPクラスに参戦し、さらにマシンが独自路線を歩むとなれば、その道が平たんではないことは想像に難くない。
今回、オンラインでのインタビューに応じてくれたKTMのレースマネージャー、マイク・ライトナーさん曰く、「2020年型マシンは全体的に進化しましたが、特にエアロダイナミクスがよくなりました。また、シャシーとエンジン、両面のパフォーマンスアップもラップタイムの向上につながりました」ということだ。
ライトナーさんが語るように、2020年のRC16はフレームがやや平たい形状に変更され、さらにウイングレットも大きく変化した。また、トップスピードについてもかなりの改善を見せた。高速サーキットとして知られるオーストリアのレッドブルリンクでは、KTMのRC16のトップスピードがドゥカティのデスモセディチGP20に並んでいる。
さらには、乗りやすさも格段に向上したという。第4戦チェコGP後の会見から、ビンダーのコメントを引用してみよう。
「(2019年シーズン後のバレンシアテストで)RC16に初めて乗ったときには、『なんてこった』と思ったよ。やるべきことがあるな、って。乗るのが難しかったんだ。けれど、(2020年の)マレーシアテストで新しいバイクに乗ったら、以前のバイクよりもずっと乗りやすくなっていたんだ。きっと、KTMはオフシーズン中にものすごく取り組んできたんだと思うよ」
ビンダー、オリベイラ、エスパルガロの3人が表彰台を獲得。ライダーのみならず、バイクのポテンシャルを証明した
ペドロサと、ある人物のコンビネーション
さて、こうしたマシンの改善と躍進の背景に迫っていきたい。やはり、テストライダーであるダニ・ペドロサの存在が大きいのだろうか。
よく知られているように、2018年シーズンをもって引退した元MotoGPライダーのペドロサは、2019年からKTMのテストライダーに就任した。その功績は大きいと言われている。ペドロサは13年もの間、MotoGPクラスでホンダのバイクを走らせ、クラス通算31勝を挙げてきた。MotoGPにおける勝ち方を知りつくしているはずだ。
「ダニはMotoGPバイクでの経験が豊富です。彼とともにテストを始めると、ダニはこれまでとは違った角度からのコメントをくれました。彼はとても広い視野を持っており、成功するためにはMotoGPバイクがどういう動きをしなければならないのかを知っています。彼の存在は大きな助けになりました」
しかし、そのペドロサのコメントをRC16に反映させることは、簡単なことではなかったという。KTMがこれまで培ってきた哲学がある上に、『違った角度からのコメント』をスムーズに受け入れることが難しいのは、容易に想像がつく。ただ、KTMにはペドロサのコメントを、的確に周囲へと伝えられる人物がいた。それが今回お話を伺った、ライトナーさんだ。ライトナーさんは11年間にわたり、ペドロサのチーフメカニックを務めていたのである。
「ダニのコメントを技術的な回答へと変換することは、大きなチャレンジでした。しかし、私は11年間、ダニとともに仕事をしてきて、ダニのコメントややり方をとてもよく知っています。ですから、ダニのコメントを、エンジニアやデザイナーたちに伝えることは簡単でした。そして、実際に改善につながっているため、ダニは、とても大きな仕事を担っているんです」
2019年からKTMのテストライダーに就任したペドロサ。2021年も引き続き、この役割を担う
つまり、ペドロサというライダーのポテンシャルはもちろんのこと、ペドロサとライトナーさんのタッグが、現在に至るKTMの迅速な改善の要因の一つである、と言えるだろう。こうした効果を狙って2人をともにKTMプロジェクトの一員にしたのだとすれば、実に考えられた人事である。
ライトナーさんに、チーム内の編成や方法の変更などを行った結果、2020年の成績につながったのかと聞くと、「バイク、チーム、両方の改善があると思います」ということだった。
「KTMは2017年からMotoGPクラスに参戦を開始し、始めは多くのことが期待通りにはいかず、とても苦労していました。しかしシーズンを重ねるごとに、チームの組織力は向上していきました。すべては変更されましたし、セッションでのマネジメントの仕方、レースに向けたやり方なども変わっていきました。同時にバイクのパフォーマンスが良くなり、ライダーがいい結果を出せるようになったのだと思います。そしてまた、KTMのレース部門も、毎年よくなっていったのです。ここ10年を振り返ると、我々の背景にはとても強力なグループが構築されています」
KTMのレースへの注力
KTMには『KTM GPアカデミー』という若手ライダーを発掘、育成するシステムがある。KTM RC250Rのワンメイクで争われるレッドブルMotoGPルーキーズカップを経て、Moto3クラス、Moto2クラスというMotoGPクラスに至る流れの中で、一貫してKTMライダーとして走ることができる。そしてその道のりを歩んできたのが、まさに2021年レッドブルKTMファクトリーレーシングのビンダーとオリベイラなのである。
ライトナーさんは「ライダーは幼いころからレッドブルMotoGPルーキーズカップなどのカテゴリーでキャリアをスタートし、チームとともに本当の家族のように成長します。KTMとともに長い時間を過ごしてきたライダーが、KTMでチャンピオンを獲得することになれば、それはとても素晴らしいでしょうね」と言う。
このインタビューが行われた数日後、KTMは、オンラインで2021年シーズンの体制発表を行った。KTMのファクトリーチームとサテライトチームが同時に発表を行うのは例年通りとしても、サテライトチームであるテック3は、2020年までの『レッドブルKTMテック3』から『テック3 KTMファクトリーレーシング』にチーム名が変更されている。
テック3がエルベ・ポンシャラル氏をチーム代表とするプライベーターであることには変わりはないようだが、『ファクトリーチーム』を冠することは、KTMとの強固な結びつきを感じさせる。事実、4名のライダーには同スペックのRC16が供給されることが決まっている。
KTMに携わるチームやライダーなど全体で、MotoGPというプロジェクトに挑んでいる。KTMの活躍は、これまでに様々な方面で撒いた種が、すくすくと育っていった結果とも言えるのではないだろうか。
2021年、開幕前までにエンジンのアップデートは可能であるものの、すでにKTMはコンセッションの適用から外れている。2021年シーズンのKTMの戦いはどのように繰り広げられていくのだろう。
チーム発表でお披露目された2021年KTMファクトリーマシンのカラーリング
ビンダーとオリベイラはMoto3、Moto2クラスでもチームメイトだった
2021年のテック3のマシン。KTMカラーのオレンジがかなり強調されている
ドゥカティから移籍したダニロ・ペトルッチ。「彼のコメントには注意深く耳を傾けたい」とライトナーさん
MotoGPクラス2年目、21歳のイケル・レクオーナ。昨年はレクオーナのデータがポルの手助けになったこともあった