BMWの牙城を崩そうとドイツの開発チームと熟成をはかる！
ホンダはスーパースポーツで世界を制覇、その勢いはフラッグシップで呼ばれる豪華ツアラーモデルでもリーダーを目指し、水平対向4気筒のGLゴールドウィングでアメリカ大陸横断を快適にクルージングする夢を叶えてみせた。
しかしヨーロッパとなると、ドイツのアウトバーンをはじめ高速道路をハイスピードクルージングする世界で、アメリカの浪々と時間を楽しむのとは基本から違ってくる。
そして多くの長距離ツーリングを好む層にとって、BMWを乗ることが究極のように言われてきた。
そのBMWの牙城を崩し、1993年から国境のないEU（欧州連合）がスタートするのを機に、パンヨーロピアンと車名を冠したNewモデル、ST1100を1990年にリリースした。
エンジンは縦置きV型4気筒と、モーターサイクルでは希有な形式。
高速道路を長距離クルージングするにはシャフトドライブが優位。そのシャフトドライブで安定性に優れ且つ軽快な運動性を兼ね備える車体構成は、縦置きV型4気筒という構想でまとまったという。
73mm×64.8mmのボア×ストロークで1,085cc。100hp/8,500rpmと107Nm/6,000rpmのスペックだが、90°のVバンクで360°クランクは、クラッチを1次減速で逆回転させる縦置きの反トルクを打ち消す上下にシャフトのある構造。
中速域の中間加速を重視したエンジン特性は、逞しいトルクで瞬く間に高速域へライダを運ぶジェットフィールとなるチューンを特徴としていた。
その縦置きV4は、トップギヤで2,000rpm（50km/h）からスロットルひと捻りで、何と200km/hを超える高速域までストレートに加速してゆく。
そしてエアロフィルムも、空気抵抗を減らすだけでなく冷却を含めた車体を貫いて抜けてゆくエアフローを重視して開発、発表当初から評価が高かった。
とはいえ、この重装備は車重を乾燥で288kgとドッシリ重く、シート高も西欧人を前提とした800mmで、1991年の東京モーターショーに参考展示されたが国内向けモデルは供給されていない。
1990年からヨーロッパとアメリカを主要マーケットに、ST1100は2002年まで10年以上も継続されたが、排気ガス規制への対応とパワーダウンを挽回する目的も兼ね、2002年からはST1300（ボア×ストロークが78mm×66mmの1,261cc）へとモデルチェンジされた。
パワーは117hp/8,000rpmと117Nm/6,500rpmとなり、よりエアロダイナミズムを採り入れたスラントした鋭いフォルムを纏い、こちらも2013年までのロングラン。
地味な存在だが、使い勝手の良さとホンダ・ブランドへの信頼感から、ヨーロッパではほぼフラッグシップ扱いされていた。
ただその後の電子制御によるエンジンからABS、さらにはサスペンションに至るまでの進化スピードが、ホンダのみならず日本メーカーはこぞって遅れ気味となり、ツアラーの世界ではBMWをはじめ各ヨーロピアンの後塵を拝する状況となってしまったのが、何とも残念でならない。
