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このバイクに注目
HONDA
NR750
1987model

オーバルピストンNR750の衝撃だったポテンシャル Part1【このバイクに注目】

Photos:
大谷耕一,本田技研工業

ネモケンにかかった1本の電話からドラマがはじまった

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1986年の秋、ボク(根本 健)のところへ世界GPで闘うHRCワークスチームのボス、尾熊さんから電話があった。
「来春のルマン24時間レースにホンダから出ませんか?HRCへ来社ください、但しいっさい他言無用で」クマさんらしい、いつものぶっきらぼうな口調で一方的に伝えると、いつくるのかとスケジュール確認のみ。

行ってみないことにはどうにも掴めない、ということでHRCへ伺い会議室に通されるとベールを被ったマシンが1台置いてあった。
挨拶もそこそこにクマさんの指示でベールを取り除くと、ロスマンズカラーのRVF750ワークスマシンが現れた。

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ただよく見るとツインチューブフレームに切り欠きが入っていて、エンジンのヘッドカバーが飛び出しているではないか。
続いてカウルも取り外され、VFRエンジンより幅広なV4が姿を見せる。前バンクに4本、後ろバンクにも4本のエキゾースト、オーバルピストンV4に違いない。

NRも世界GPを2ストのNS500やNSR500に譲ったが、水面下で開発は続いていて来春のデイトナ200マイルで750ccまで排気量アップしてパフォーマンスを見せる予定だったそうだ。
それがアメリカAMAの車輌規則がアップハンドルの市販車ベースに変わってしまい、出場のチャンスを逸してしまったという。

そうなるとプロトタイプが走れる世界的なレースとなれば、ルマン24時間耐久レースくらいしかない。
そろそろ実用化も見据えた開発に着手したいたので、ルマン24時間へジャーナリストライダーに走ってもらい、そういった段階にあるアピールも兼ねようということになった由。

鈴鹿の初乗りで驚愕のパフォーマンスと底知れぬポテンシャルに衝撃をうける!

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NR750のオーバルピストンのバルブ径の合計面積をRVFのピストンへ設定しようとすると入りきらない

既に栃木のテストコースで、300km/hでも安定して走れるのを確認済みとのことで、まずはどんなものだか耐久仕様へディチューンする前の、デイトナ仕様のまま試走ということになった。
オーバルピストンでシリンダー幅がRVFよりワイドなため、取り敢えずツインチューブのメインフレームに切り欠きを入れた状態なので、毎周ピットインしてホームストレートは駆け抜けない、タイヤもビードがパワーでスリップするため試す程度なのを心してください、と注意をうけてコースイン。

ウォーミングアップしつつヘアピンを過ぎスプーンカーブへ差し掛ると、イン側から合同テストを走るNSR500にブチ抜かれる……立ち上がりから裏ストレートなのでどんなものか全開にしてみた。
3速→4速→5速→6速、何と同じ間隔で6速でも同じ加速G。矢継ぎ早でシフトアップが追いつかない未体験ゾーンだ。哮り狂った爆走としか表現できないロケットダッシュで、前を走るNSR500に瞬く間に追いつく。
聞けば188ps/18,500rpm以上だという。

しかし、もっと驚いたのが8,000rpmとピークの半分以下、いやもっと低い5~6,000rpmでもスロットルの開け閉めで、図太いトルクで後輪が路面を蹴るのが伝わってくるではないか。
ピークパワーも32バルブV4は凄まじいが、想像もしてなかった中速域に、もっと排気量の大きな大型バイクのような力強さがある。

世界GP500ccクラスで2スト勢に追いつき抜き去るには通常の計算だとバルブ面積が足らない!

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NR500は水冷4ストロークDOHC32バルブ・100度V型4気筒

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499.5 ccで115 ps以上/19,000 rpm、最大トルク - 4.6 kgm/16,000 rpm

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フレーム骨格のないモノコックがカウルを兼ね、サイドラジエーターなど1979年のデビュー時は実験的要素が多すぎた

これが打倒2ストロークで、NR500がパワーを絞り出そうと辿りついた、吸排気のバルブを4本ずつ横へ並べてオーバル型の燃焼室・ピストン・シリンダーといった構成のポテンシャルなのだ。
4ストロークは吸気と排気のバルブ面積で、およその充填効率が計算できる。
出力を稼ぐには爆発回数を増やせば良いが、多気筒化で各パーツをコンパクトにしても、20,000rpmあたりを超えると機械ロスが大きくなる。

世界GPは’60年代と違って500ccクラスは4気筒まで。そうなると、2スト勢を凌ぐパワー設定から吸排気のバルブ面積を逆算すると、丸い燃焼室に必要な面積の丸いバルブの配置はサイズが重なってしまい不可能だ。
というところで閃いたのが横に長いオーバル型の燃焼室・ピストン・シリンダーというワケだ。

これで20パーセントほどバルブ面積の合計が増えてボア×ストロークの設定によるとはいえ、750ccだと900ccの4気筒に設定するバルブ面積に近く、それがより大型なバイクの余裕ある低中速域が得られるというポテンシャルに結びつく。

これは言葉を換えれば、従来の排気量概念を覆すシステムということになる。
クルマのF1レースでは禁止され、MotoGPでも気筒数のハンデと同じくオーバルピストンも重量ハンデと制限をつけている。

いうまでもなく実用化にはうってつけのポテンシャル……耐久レース仕様にするためのミーティングにも参加しながら、年明けのオーストラリアで24時間を完走するテストに臨むことに。
そこで検討を重ね、また試走しながら新たな試作まで注ぎ込むホンダパワーを実感。その夢を見ているような素晴らしい世界……Part2に続きます!