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ハードブレーキングほど思いきりワシづかみは効かない【ライドナレッジ062】

Photos:
折原弘之,藤原 らんか,DUCATI

一気に沈むと前輪の路面追従性を妨げる

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どんなに平滑な路面でも、アスファルトの表面は細かな凸凹が連続する。つまりフロントフォークの吸収力が落ちれば目立ったスリップはしなくても制動距離は長くなる。後輪が浮くほど強くかけても見た目ほど効いてはいない

MotoGPでスターティンググリッドへ着くとき、ライダーが後輪をピョコンと浮かせるストッピー・アクションを見せているが、あれは故意にやってるのはもちろんご存じのはず。
前輪は止まるタイミングなのでスリップせず、ブレーキ入力を一瞬強めれば簡単にリヤが浮き上がる。これはブレーキが強力であるとかには関係ない、ただのバランスアクションに過ぎない。
またレースでも、超ハードなブレーキングで後輪が路面から離れかかっているシーンもよく見る。これも確かに超強力なストッピングパワーを発揮しているが、次のコーナーの種類によって曲がる寸前に後輪を接地させたり、浮いたまま旋回のアウト側へリーン開始に合わせて接地させ、向き変えに利用するなど制動距離を縮めることに主眼をおいていない操作といえる。
このようにレースでは状況と目的が異なるシーンもあるので、あのパフォーマンスがバイクを操る極限のテクニックでないのは理解されていると思う。
制動距離の短い安定性の高いブレーキングというと、やみくもにブレーキレバーを一気に強く握ると却って制動距離が延びてしまうのでNG。ABSが働いてしまうと危険な前輪ロックは回避されるが、路面追従性どころではない状態なのは想像がつくと思う。

レバー入力はハードブレーキングほどジワッと段階的に高める操作を

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ブレーキレバーをやみくもにワシづかみすると、最初に入力の衝撃が生じてしまいフロントフォークは必要以上に深く沈んでしまい路面追従性を失いやすい。どんなに急ぐ状況でも、レバーの遊びはキャンセルした位置からジワッと入力を強める。その一連のアクションを、ブレーキレバーを上から下へ押し気味にしながら指を滑り込ませ、手首を返すように操作すると段階を踏まずに可能にしやすい

ではどうするかといえば、レバー操作を最初に予め遊びをキャンセルした位置からブレーキが効きはじめる位置まで引き、そこからジワッと強める段階的な入力操作が最大効率を引き出す。
ここで重要なのは前輪の路面追従性。どんなに平滑な路面でもアスファルトの表面は細かな凸凹が存在する。この衝撃を吸収しながら路面追従できれば最大のグリップが得られる。
ところがフロントフォークは深く沈むほど、前のめりを抑える減衰力が強まる構造で、ある域を越えると路面追従性より前のめりを止める吸収力が落ちれば目立ったスリップはしなくても制動距離は長くなる。
そこでフルボトム手前の位置でそれ以上に沈み込まないようにかける……言葉では難しそうだが、この段階的な入力操作であれば、一気にフルボトムまで沈まず最大のストッピングパワーが得られる。
誤解を恐れずにいえば、ハードブレーキングほど一気にガバッと操作は通用せず、むしろ時間をかけてフロントフォークの機能を温存する操作のほうがパフォーマンスが高いということなのだ。

日常の軽いブレーキングでも入力の違いはでる

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このフルストロークまでまだ少し残っているあたりが、フロントの路面追従性もよくブレーキが最大に効く位置になる

そこまでリスキーなブレーキングなど自分はやらないと思われたかも知れないが、これはもっとエネルギーの低い日常的な減速操作にも応用できる。
ジンワリとレバー入力を加える操作手順だと、ブレーキレバー入力はそれほど強めていないのに、制動距離を短く止まれてしまうからだ。
しかも制動している間の安定感が違うのも感じられたはず。つまりハードブレーキングのためのテクニックということではなく、ブレーキ入力の基本としてこのジワッとかける感性が大事なのだ。この操作方法を日常的に身につけておけば、とっさの危険回避のブレーキでも身を守れるか否かを大きく左右する。弱い入力の軽いブレーキングだからと成り行き操作せず、常に意識した入力を心がけてることが上達への道なのは間違いない。