スポーツバイクの新しいカタチがここにある。古いライダーにとってYZF-R7の名前はWSBのホモロゲマシン、新しい世代にとってはR25やR3の兄貴分に映るはず。New YZF-R7のターゲットはもちろん後者。千葉県の袖ケ浦フォレスト・レースウェイで行われた試乗会に参加し、YZF-R7を全開で走らせてきた。
レースや排気量のカテゴリーを打破した、ヤマハオリジナルのスポーツバイクが誕生!
昨今は、国産全メーカーが250ccクラスのカウル付きスポーツバイクをラインナップ。世代やキャリアを問わず人気で、実際に市街地やワインディング、そしてサーキットでもよく見る。
各メーカーの個性も出ていて、ホンダはCBRシリーズ、ヤマハはYZF-Rシリーズ、スズキはGSXシリーズ、カワサキはニンジャシリーズを展開。それぞれリッタースーパースポーツの末弟的な存在で、フルカウル×セパハンという共通点はあるものの、メーカーのオリジナリティで勝負している。
そんな中、待ち望まれていたのは、この250ccカテゴリーからの真のステップアップモデルだ。
例えばそれがレースベースとなっている600ccや1,000ccだとあまりにも遠かった。
20年以上、1,000ccスーパースポーツを乗り継いできた僕らでも、いまのハイパフォーマンス振りは舌を巻くほど。市街地やツーリングでの用途だとずっとナラシといった感じだし、サーキットに行ったからといって到底使いきれないポテンシャルを持っているのだ。
確かに1,000cc/200psオーバーのスーパースポーツはそのメーカーの技術の結晶といえるバイク。コスト度外視ともいえるハイパワーエンジンをはじめ、それをコントロールするための電子制御や足周りの機能パーツは市販品とは思えない豪華装備。
しかし、豪華装備は価格に反映され、300km/hの最高速やレースを想定しているところが乗りにくさや敷居の高さになっているのも事実である。
そこで、登場したのがYZF-R7だ。
ヤマハRシリーズのフロントマスクを受け継ぎ、センターにヘッドライトを配置したのがYZF-R7だ
バイクでスポーツすることを日常に思わせてくれる懐の深さが「99万9,900円」で手に入る
「来週が待ちきれなくなるバイク」
「筑波サーキットの最終コーナーを立ち上がったらもう1周行きたくなるバイク」
「スタイリングだけでなく走っている自分もカッコいいバイク」
「かつてのレーサーレプリカの匂いを感じさせるバイク」
「サーキットに挑戦してみたくなるバイク」
今回の技術説明会でヤマハ開発陣から飛び出した言葉だ。これだけスポーツライディングを意識したキーワードが飛び交う国産車の技術説明会は久しぶりだなぁと思った。
これからのヤマハはもちろん、これからのRシリーズはどうあるべきかを考え、熱い議論を重ねながら生まれたのがYZF-R7なのだという。
YZF-R1がフルモデルチェンジした2015年にYZF-R25とYZF-R3は誕生。ヤマハスポーツのDNAであるRシリーズのニューモデルが登場するのはそれ以来のことだ。開発陣から意気込みを感じる。
そんなYZF-R7はMT-07をベースに開発。シャシーやエンジンは基本的に共通だが、YZF-R7はMT-07をセパハンにしてフルカウルにしただけのバイクではない。
フロントフォークはフルアジャスタブルの倒立で剛性をアップ。車体はピボット部分の剛性を上げることでバランスをとり、フロントのオフセットを減らしたり、キャスター角を見直すことで直進性と前輪の接地感を向上させている。
車体とエンジンをMT-07と共有したのは価格を抑えるために他ならず、それが99万9,900円という買いやすい価格を実現したのである。
YZF-R7とMT-07の数値の差を見てみよう。リヤ周りはサスのリンク比やバネレートを変更。フロント周りはオフセットを減らしてトレールを増やす方向に。リヤが上がったことでキャスターが立ち、旋回性と直進性を確保。シート高はMT-07が805mm、YZF-R7が835mm
ピボットの上下をプレートで連結することで、倒立化で剛性の上がったフロント周りとのバランスを取っている。MT-07と比較すると車体剛性は大幅にアップしているのがわかる
走りの組み立てが楽しいし、各部アジャストにもしっかり反応。セッティングも楽しめる
1本目の走行はハーフウエットだった。コースのあちこちに川が流れ、至るところにパイロンが置かれてレイアウトも独特だったため、なかなかペースを掴めないシチュエーション。そんな状況だと車体やフロント周りの剛性の高さが際立ち、前後タイヤの接地感は希薄だった。電子制御がないのも若干心許ない。
また、バイクにもコースにも慣れてきてペースを上げようとすると前後タイヤが曲がりたがらない動きをする。ハーフウエット路面ではサスペンションが入らず、ずっと地面が遠く感じた。
少しタイヤの空気圧も高そうだったため、走行後に空気圧を計測。フロントが2.8キロ、リヤが3.3キロと、標準からのスタートだったようだが、サーキット走行には少し高すぎる。なので2本目はリヤを2.5キロ、フロントは2.2キロにしてコースイン。路面もほぼドライとなっていた。
ゆっくり走っているよりもペースを上げたほうが心地良い。ヘアピンよりも中高速コーナーの方が得意で、車体の剛性や姿勢、サスペンションもどちらかというとそういったコーナーに合っている。
エンジンは689ccのパラレルツインで、270度クランクを採用した不等間隔。それでも低中速のパワー感をあまり感じないのはギヤがMT-07よりもロングになっているからで、どちらかというと回したくなるキャラクターだった。もちろん低中速を繋ぐ走りも可能だが、全開の方が気持ちが良い。
そして全開! 攻めた達成感を得られるYZF-R7
路面も完全に乾いたところでスロットル全開。気持ちの良いパルス感を持つエンジンは、1万回転を目指して回転を上げていく。メーターの視認性はそれほど高くないが、エンジンの音を頼りにシフトアップ。3速、4速とシフトアップしていっても加速感が鈍る印象はなく、ストレートでは178km/hほどをマークした。
そこからのブレーキングでは、スタビリティが高くリヤが振り出したりする挙動もない。ただし、車体は前後ブレーキをしっかり使って意識してサスペンションを縮めて(スイングアームのタレ角を穏やかにする)低めの姿勢をキープ。前後輪を潰し、グリップを引き出しながら向きを変えていく。路面温度も低いので素早く向きを変え、旋回は短めに。立ち上がり重視の走りを楽しむ。
YZF-R7は、バイクなりになんとなく走らせているよりも、一つひとつの操作にメリハリをつけペースを上げるほどに車体&サスペンション&タイヤが応えてくれるバイクだ。走り出した瞬間にまるで自分が上手くなったように感じる、勝手に曲がっていくバイクではない。走りを追求する醍醐味がある。
意識して前後サスペンションの車体姿勢をコントロールしたり、全身で荷重抜重を明確に行わないと、思いのほか曲がってくれない挙動も見せる。なかなかマニアックなところをつくり込んでいるなぁと思う。そのハンドリングは結構玄人好みに仕上がっているから、YZF-R25やYZF-R3はもちろん250ccスポーツで腕を磨いてきたライダーは、ぜひともサーキットでYZF-R7に挑んでみて欲しい。
ちなみにペースを上げていくと前後ともまだまだ空気圧が高い挙動を見せるので、サーキットを走り込みたいライダーは色々と試してみると良いだろう。
タイヤはブリヂストン製S22。ケース剛性が高めでフィーリングも硬く出るタイヤ。もう少し柔らかめのタイヤを履くとより車体とのバランスが高まる気がする。サーキット走行の際は空気圧などを変えてみると走りが変わる。こういった車体のセットアップも学べるパッケージがYZF-R7にはある
12月なのに気持ちの良い汗がかける爽やかなスポーツ性
「バイクってこんな風に操れるんだ」「バイクってこんなに曲がるんだ」「もっと上手くなりたい」YZF-R7は走り込むほどにそんな風に思わせてくれるバイクだ。まさにヤマハの狙い通りのパッケージに仕上がっているといえるだろう。
ただ、惜しいのは電子制御がないこと。スロットル制御がフライバイワイヤでないため、いま時のスポーツバイクではメジャーとなりつつあるアップ&ダウンのシフターやモード切り替えなどが搭載できないのだ。だから個人的には電子制御満載で走り込んできたYZF-R6やYZF-R1からのダウンサイジングにはまだまだ向かないとも思う。
ただ、YZF-R7は最終コーナーを立ち上がる度に「もう1周行きたい!」と思わせてくれるライダーをワクワクさせてくれるバイクに仕上がっている。30分の走行を終えた僕は12月半ばだというのに気持ちの良い汗をかいていた。バイクでスポーツすることの新しいカタチがここにある。
スリムな車体がYZF-R7の特徴。スリムさを引き出すためアンダーカウルはアルミ製。エンジンやマフラーに寄り添うようにマウントされている。ちなみにカウル類の着脱もR25などよりも簡単とのこと。メンテナンスも学びやすいパッケージが与えられている
フロントのブレーキマスターはブレンボ製ラジアルポンプ。ブレンボ製ラジアルマスターが市販車に採用されるのは世界初とのこと。これまでの市販車で採用されてきたのは、すべてセミラジアルタイプなのである
ディープパープリッシュブルーメタリックC
99万9,900円
ヤマハブラック
99万9,900円
WGP 60th Anniversary シルキーホワイト
105万4,900円
SPEC
- フレーム
- ダイヤモンド
- 車両重量
- 188kg
- シート高
- 835mm
- 燃料タンク容量
- 13L
- 価格
- 99万9,900円〜