Zの血統「ローソンレプリカ」
世界最速、打倒ホンダを目指して1972年に登場したカワサキ900 Super4、すなわちZ1は、その性能とスタイルでアメリカで大ヒット。Zシリーズは、その後も排気量拡大や熟成を重ね、涙滴型から角張ったスタイルへと変化して行く。そしてアメリカのAMAスーパーバイクのレギュレーションに合わせてリファインしたZ1000Jが1981年に登場し、そのJをベースに作成したレーサーでエディ・ローソンがシリーズチャンピオンを獲得。ワークスカラーのライムグリーンを纏った武骨なマシンのレプリカ“Z1000R”が、再びカワサキ人気を沸騰させた。
1982 Z1000R
アメリカで開催されるAMAスーパーバイクレースで、エディ・ローソンがシリーズチャンピオンを獲得した記念に発売された、通称「ローソンレプリカ」。ベースはZ1000J
おおらかなネイキッドから“走りのネイキッド”へ
’80年代の日本は、まさに“レーサーレプリカ”の大ブーム。アルミフレームにフルカウルを纏った250/400ccのマシンが続々登場し、そのスペックとプライスを日々塗り替えていた。ところが’89年、カワサキからオーソドックスなスタイルに空冷エンジンを積んだゼファー(400)が登場。言い方は悪いが“前時代的なバイク”のゼファーをバイク業界人は評価しなかったが、それとは裏腹に空前の大ヒットを博し、“ネイキッド”という呼称まで生まれた。
それから5年後、カワサキは今度は角張ったスタイルに高性能な水冷エンジンを搭載したZRX(400)を世に出す。「ローソンレプリカ・レプリカ」と揶揄する口さがないバイクファンもいたが、武骨なアップハンスポーツは再び人気を獲得した。
1994 ZRX(写真は2002年モデル)
角型ヘッドライトやビキニカウルを装備する、ローソンレプリカを彷彿させる直線基調のスタイル。搭載するエンジンは、俊足ツアラーZZR400の水冷DOHC4気筒がベース。’08年が最終モデルとなる
鋭い切れ味を追求した新世代のビッグネイキッド
免許制度も関係し、当時の日本では新シリーズのバイクは中型免許で乗れる250/400ccクラスが最初に発売され、その後に大排気量モデルが登場するのが一般的で、空冷のゼファーも’89年に400、’90年に750を発売。そのためZRXも大排気量モデルが出ると噂されたが、なかなか登場しなかった。他社もCB400SF、XJR400など400ccネイキッドを多数ラインナップ。若者を中心に400ccネイキッドブームが起きていた。
そして’97年、ついにZRX1100が発売。大排気量ネイキッドは威風堂々とした“大きさ”を売りにするなかで、ZRX1100のコンパクトさとスポーツ性の高さは異質な存在。そしてGPZ900Rから始まり、カワサキのフラッグシップを支え続ける“Ninjaエンジン”を搭載していた。
ちなみに’96年9月に免許制度が改正。大型二輪免許の教習を指定自動車教習所で受けられるようになり、以前より格段に大型二輪免許が取得しやすくなった。’97年のZRX1100の発売は、まさにベストタイミングだったと言える。
1997 ZRX1100
ZRX(400)に遅れること3年、満を持して登場したZRX1100。大柄なライバル車に対し、スポーツ性を優先したコンパクトな車体も人気のひとつ。コンパクトな分じゃじゃ馬感も強く、それを乗りこなす醍醐味もあった。いわゆる“Ninja系エンジン”を搭載
1984 GPZ900R
近代カワサキビッグバイクの祖と言えるGPZ900R(当時“Ninja”は北米仕様のペットネーム)
GPZ900Rに搭載されたサイドカムチェーン方式のコンパクトな水冷DOHC4気筒エンジン。排気量拡大と進化・熟成を重ね、最終的にZRX1200DAEGまで30年以上も第一線で活躍した。共通部品も多く、ZRX1200RにZZRのピストンやカムシャフトを投入すると簡単にパワーアップできる面白いエンジンだった
1990 ZZR1100
最高速を争う“フラッグシップ”のムーブメントを生み出したZZR1100。GPZ900RからGPZ1000R(’86年)→ZX-10(’88年)を経て登場。このバイクのエンジンがZRX1100のベースとなった。そのためZRX1100にZZRのエンジンパーツを組み込むチューニングも流行った
2001年に排気量を拡大し、各部をリファインしたZRX1200Rにモデルチェンジし、いっそうスポーツ性を高めた。そして興味深いのが、2002年にZRX1200RのエンジンをベースにZZR1200が誕生したこと。フラッグシップやスーパースポーツのエンジンをベースにネイキッドモデルを開発することは多いが、逆の手法を取るのは珍しい。
この頃、ヤマハはXJR1300、ホンダはCB1300をラインナップ。排気量を拡大し、共に威風堂々としたスタイルをウリにしていたが、ZRXだけは闇雲に排気量を上げずにスポーツ性をとことん追求。そのコンセプトは決してブレなかった。
そして2009年、フューエルインジェクション仕様のZRX1200DAEGにモデルチェンジ。厳しさを増した排出ガス規制に対応するためでもあるが、フレームや足周りを刷新して、いっそうスポーツ性能を向上。ZRXの集大成ともいえる完成度の高さで、速さと扱いやすさをとことん磨き込んでいた。
ネイキッドのカタログや広告に使われる写真はワインディングや市街地を走るシーンが多いが、DAEGは柳川 明選手がサーキットを攻めている走行写真だった。またZRX1200Rまでは輸出も行われていたが、DAEGは国内専売モデルとなり、タンクやシートは日本人の体形に合わせた形状とした。国内専用の大型車は例も少なく、開発・生産コスト等を考えると、DAEGはかなり贅沢なバイクといえるかもしれない。
しかしいっそう厳しさを増す排出ガス規制の影響もあり、DAEGは2016年のファイナルエディションを持って生産を終了。ZRXシリーズの歴史は、惜しまれながらも22年で幕を閉じた。それは、Z1からスタートした、2本サス、鉄フレームに4気筒エンジンを搭載する往年のネイキッドスタイルの終焉でもあった。
その後、カワサキのネイキッドスタイルはZ900RSが継承。近年稀に見る大ヒットとなったのは記憶に新しいだろう。ネイキッドを次世代に上手くシフトできたのはカワサキだけで、このあたりはライダー目線でバイクづくりを行うカワサキの強さである。
2001 ZRX1200R
排気量を1164ccに拡大し、車体の剛性バランスを見直して操縦性も向上したZRX1200R
2008 ZRX1200DAEG
厳しさを増す排出ガス規制に対応し、フューエルインジェクション仕様となったDAEG。オーソドックスな車体構成こそ前モデルを踏襲するがシャシーはすべて刷新され、より高いスポーツ性を発揮するパワーとハンドリングを得た。日本専売モデル
2016 ZRX1200DAEG Final Edition
ZRXシリーズの最終モデルは、伝統のローソンレプリカカラーを纏い登場。発売後、あっという間に完売になった。大柄に見えるが、CB1300シリーズと比較すると20kgも軽いスポーツネイキッドなのだ