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タイヤ内部で暖めたり冷やしたり!? Ⅳ(クワトロ)CORSA【ライドナレッジ045】

ROSSO Ⅳ(クワトロ)CORSAの温度調整する新テクノロジー

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2021年にデビューしたピレリのDIABLO ROSSO Ⅳ(クワトロ)。これに続いて加わったROSSO Ⅳ CORSA はさらにハイグリップを追求したカテゴリーに位置づけられている。
DIABLO ROSSO Ⅳ(クワトロ)によって、これまでの路面追従性と剛性のバランスを飛躍的に高めた画期的な内部構造の進化に、センター部分のコンパウンドを高融点樹脂のフルシリカとすることで、暖まりを素早く低温でもグリップできるウエット特性をアップ、深いバンク角のショルダー部分をレーシングタイヤ系のコンパウンドとしている。
そして新テクノロジーとしてAdaptive Base Compound と呼ばれるフルカーボンブラックの層を、タイヤ内部のインナーライナー部分に配しているのだ。
このフルカーボンブラックは、内部で温度を調整する役割を担う。
たとえば左へバンクして左側のショルダーが急激に温度上昇したとき、フルカーボンブラックの層が温度を素早く伝搬、次に右へ切り替えしてバンクしたときに右側のショルダーが既に暖まっているという効果をもたらす。
同時にグリップしているトレッド面が、急激に温度上昇しやすい特性を温度伝搬によって冷却する効果にもなるというのだ。
遂に適正な温度調整を目的とする層を内包するという段階へ進化したワケで、これはピレリの特許技術で他をリードするひとつの要因となっていくのは間違いない。

ROSSO Ⅳの斬新な新カーカス構成が圧倒的な路面追従性と剛性を獲得

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黄色いラジアル(放射状)カーカス(繊維による構造体)がROSSO Ⅳ。従来は赤で示したカーカスのように繊維の間隔は詰まっていたが、Ⅳでは一本を減衰力を高めた太いレーヨン(振動が伝搬しにくい)として間隔も空けることで路面追従性と吸収性能の両立を一段とアップ、その結果トレッドのコンパウンドが温度をそれほど必要とせずグリップ性能が得られて、耐摩耗性も高い特性へと置き換えることができている

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この画期的な路面追従性と安定したグリップを前提に、トレッドのコンパウンドに温度依存を下げても以前より性能の高いタイヤとできるため、DIABROのROSSO Ⅳは従来のセンターに採用してきた耐摩耗性の高いコンパウンドに近い素材を、何と最もグリップを優先するバンク角の深いショルダー部分に使うことができたという。しかも偏平率でトレッドが両サイドで伸びるワイドなロープロファイルでは、ショルダー専用コンパウンドを設定して、何と3種類のコンパウンドによる耐摩耗性とエンドグリップ向上の両立をはかっているのだ

そもそもROSSO Ⅳはカーカス構成から見直すという、タイヤメーカーにとって最も開発から生産コストまで最も手間のかかる手法で、大胆な改革に手をつけていた。
それは外周を巻いているスチールベルトに90°で直交した放射状の縦方向にたわみやすいラジアルカーカスを、従来になかった繊維の並びとしているのだ。もともと振動を伝えにくく減衰特性に優れたかなり高価なレーヨン製コードを使っていたが、その一本一本を太くしてお互いの間隔を空けるという製造工程から変える必要のある繊維構成としたのである。
これにはトレッドが路面に接する面積が大きくなったとき、面圧を広範囲で均一にできるメリットが込められている。
タイヤのトレッドは、もちろん平面ではなく丸い球面をしている。これはある程度まで凹んでも、面圧が一定の平面状に近い凹み方に収まるが、さらに大きく広く凹むと中央が逆の内側へ凸形状へ変形しかねない。そうなっては面圧は均一でなく、接地面積の低下でグリップが弱まり安定しなくなる。
これを防ぐのが繊維間の間隔というわけだ。ラジアル方向の繊維の間隔は柔らかいゴムで繋げられていて、これが大きく凹んだときお互い空いていた間隔を詰めることで、内側へ凸形状に変形するのを未然に防ぐのだ。
これで広範囲に凹んでも面圧が均一で、繊維の特性から吸収力や減衰特性に優れて、総体的に剛性バランスも得られるという結果をもたらしている。
因みにトレッド外周にあるスチールベルトについても、元々荷札用などで見るような繊維に近い極細の針金を縒って糸状にする凝った構成だったのを、ROSSO Ⅳからその3本縒りを3本束ねて間隔と張力を変え、トレッドが面圧変化や路面状況で跳ねるような振動でもすぐに収まる、いわば懐の深い特性とする進化も果たしている。

一般的にはCORSAまで必要ない……とはいえ、高性能は試したくなる!?

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ROSSO Ⅳ CORSA とベースのROSSO Ⅳとの外観の違いは、よく見るとグルーブ(トレッドの溝)が途切れたパターンなのがわかる

確かにROSSO Ⅳ CORSAは、内部で温度調整までして、ハイグリップ・タイヤのリスクでもある温度依存でグリップが変わってしまうネガティブを大幅に減らしている。
そして、このレーシング系コンパウンドで得られるグリップ性能は、レーシングタイヤに肉迫するレベルにある。
しかし秋から冬、そして春へと気温が15℃未満の季節は、スタンダードなROSSO Ⅳ のほうが安定安心の走りが可能だ。しかも最新クワトロの画期的な路面追従性の向上で、温度依存のリスクもさらに少なくなっている。
一般的にはCORSAは必要ないといえるだろう。しかしこれからの夏の時期、内部で温度調整するなどという、以前には聞いたこともないハイエンドな仕様に乗ってみたいと思うのが人情というモノ。
イタリアンはバイクもタイヤも、熱いハートをくすぐるモノづくりに長けているとしか言いようがない。