805ccは4,500rpmの低回転で7.0kg-mもの強大トルク!

1990年、スズキは創業70周年を迎え、その記念のひとつとして国内モデルが750ccを超えて認可が得られるようになったのを機に、805ccVX800をリリースした。
その最大の特徴は、挟み角45°のVツインのそそり立つシリンダーの長さ。
1985年にアメリカンのVS750イントルーダー用に開発されたエンジンがベースで、水冷ながら美しく刻まれた冷却フィンが好評の人気モデル。
このVツインをアメリカ流儀のクルーザーではなく、ヨーロッパモデルのようにトラディショナルなロードスポーツでデザインしたら……そう考えたのはカリフォルニアにある米国スズキのデザイナーたちだった。


イントルーダーは1990年からボアを3mmアップした805ccのVS800となり、当初VX750で企画・開発を進めていたロードスポーツ版もVX800となり、1990年に世界へ向け発売されたのだ。
ご覧のようにVバンクの挟み角が狭いため、フロントシリンダー側のキャブレターはダウンドラフト対応と、後ろの気筒と構造が異なるなどそもそも凝ったつくり。

そのVX800、実はエンジンが2種類あった。アメリカ向けのシリンダー挟み角と同じ45°位相の低回転域で特徴的な鼓動を刻むタイプと、ヨーロッパ向けには100km/h以上の走りで加速感などに勢いのある75°位相のクランクシャフトが採用されていたのだ。
因みに国内向けはアメリカ仕様と同じ42°位相で発売された。

このそそり立つ特徴的なフォルムのシリンダーは、意外にもボア83mmにストローク74.4mmのショートストローク。
57ps/6,500rpmで7kgm/4,500rpmと中速域を重視したエンジン特性だが、高回転域もスムーズに回るVツインというチューンが施されていた。
さらに急激なシフトだうんで後輪が跳ねる現象を抑える、バックトルクリミッターも採用され、スポーティな走りも意識されていたのだ。


またアメリカ仕様は減速比もヨーロッパ向けより低い速度域の加速重視でやや大きめと異なる設定。
しかしアメリカではいまひとつ人気がなく、1993年に日本向けと共に生産を終えたが、ヨーロッパではドイツを中心にそこそこ需要があり、1997年まで継続モデルとなっていた。

こうしたマイノリティなモデルでも、キャリアを積んだライダーなら欲しくなる趣味性の塊りのようなバイクを世に出すことの多いスズキ。
このVX800では国内向けにアメリカ仕様のハンドル形状と、タンデムでの乗り心地に配慮してシートはヨーロッパ仕様とするなど、大人向けを意識したつくり込みにこだわっていた。
それだけに世界中に濃いファンが多いブランドであるのを忘れるわけにはいかない。