350シリーズで最も低い価格を発表!
手を抜かないクオリティも魅力
現時点において、ロイヤルエンフィールドほど、バイク本来の伝統的な魅力を追求しているメーカーはないのかもしれない。
彼らのバイクは、ぼくとつながらも人間の感性に訴えてくれるとでも言えばいいだろうか。少なくとも、神経を逆なでする存在とは無縁である。
それは、かつてのバイクが備えていた持ち味でもあろうが、それだけでは今に受け入れられることはない。
今日的に旧さを感じさせることなく、現在の交通社会の中に溶け込めるものでないといけないわけだ。
新しいハンター350には、こうしたロイヤルエンフィールドが目指す形が見事に具現化されている。乗ってホッとさせられ、味わいに心酔できる一方で、都会の雑踏の中を生き生きと駆け抜けて行くことができる。そして、見た目に存在感を放ちながらも、車格は、かつての多くのバイクがそうであったように、人間が日常的な相棒として付き合える大きさでもあるのだ。
今回のハンター350の試乗会はタイのバンコクで行われた。ロイヤルエンフィールドにとって、本国インドに次ぐ大きな市場がタイという事情もあるようだが、バンコク市内の交通状況に溶け込めるだけでなく、リードしていける存在であることを知ってもらいたいからに違いない。
ただ、昼間は暑いうえに、交通渋滞も酷いため、バンコク市内縦断試乗は、夜の9時から夜中の2時までという前代未聞の出来事となった。しかも、雨期のタイだけに、当夜は激しい雨に見舞われることになってしまった。
市内の道路は整備され、日本でいう国道バイパスや○○環状線のような道路が発達、80~100km/h程度で流れている環境にも溶け込める。
個人的にはシングルの鼓動感を楽しめる80km/h以下で走っていたかったが、先導車に合わせて100km/hを超えても不快感はなく、シングルらしい心地良さは続く。
さすがに雨の夜間の一般道を100km/h超で走るのは遠慮したくなったが、少なくとも、そんな走りにも応えてくれるということはお伝えしておきたい。
ABSも今となっては普通に作動してくれるとしか言えないが、しっかり仕事をしてくれる。
もちろん、お行儀よく、渋滞の流れの中に埋没しなければならない場面もある。ところが、現在の多くのロードスポーツにとって苦手で楽しくはない状況も、このハンターならストレスは少なく、歓迎したくもなる。
クラッチ操作は軽く、しかも、発進ではそのクラッチ操作を要求しないぐらいにエンジンには粘りがある。スロットルレスポンスに過敏さはなく、スロットルを開くと、吸気の流れの高まりに伴って、トルクの増大を感じることができる。
それは350ccの空冷シングルを思わせないほどの力強さだ。そして、スロットルを閉じても、ジワッと鼓動に合わせてエンブレの強まりが伝わってくる。
ここバンコクでは、昔の我が国のように、信号待ちのクルマの左右をすり抜けるだけなく、並ぶクルマの前後を縫うようにして、バイクの集団が信号待ちの最前部に陣取るのが流儀である。そんな状況下での運動性能にも不満はない。身体の動きに対してバイクが馴染んでくれるし、ステアリングに舵角を与えての向き換えもしやすい。
市内試乗途中にはカートコースでの走行機会も与えられた。許された周回数はわずか6周だけであったが、そこではハンターのハンドリングが、今日の多くのロードスポーツと同じ延長線上にあることも確認できた。今日のバイクに慣れ親しんだ人も、違和感なくスポーティに楽しめるはずである。
それでいて、ハンドリングは大変に分かりやすい。寝かしただけ曲がるのではなく、初期にステアリングを切れ込ませるタイミングを把握しやすい。おかげで、ウェットのコーナリングも無理なくこなせる。
また、日を変えてのバンコク郊外でのツーリング試乗では、ツアラーとして楽しめることも実感させられたのであった。
このように、ハンターはバイク本来の伝統的な魅力と今日的な走行性能の融合形であるとしていい。ロイヤルエンフィールドの数奇な歴史と背景に注目すれば、こうしたバイクを生み出す土壌にも納得がいくというものである
。
イギリスでロイヤルエンフィールドがバイク生産に乗り出したのが1901年。世界で最古の名門メーカーの一つながら、1960年代後半には他の英国メーカーと同様、日本車の進出もあって経営状態が悪化して、1970年に倒産。ところが、1954年に設立されていたインド工場が、倒産後が独自に生産を続行することで、生き延びてきたのだ。そのため、近年までのロイヤルエンフィールド車は、いい意味でも悪い意味でも、生きた化石みたいなところがあったと思う。
そして、大きな転機になったのは、5年前に技術センターが故郷とも言えるイギリスに開設されたことである。これによって、生きた化石のDNAが今日的に蘇ったとさえ思えてくる。
この技術センターから生み出される新型車には、必ずモチーフとする往年のロイヤルエンフィールド車が掲げられる。事実、このハンターがモチーフとするのは1959年製のフューリー(Fury)である。
Royal Enfield Fury 1959
今回の試乗会で技術センターのボスであり、トライアンフの技術部長だった頃からの知り合いでもあるサイモン・ワーバートンに、明らかに重めと思えるハンターのクランクマスについて聞いてみると、「昔の350よりも軽いよ」というあっけない返事。
現行の競合車に捉われることなく(GB350のクランクマスを調査したわけでもないという)、モチーフとなる名車をもとに、現在における最適形を造り出していこうとする姿勢が伺えた。
現在のロイヤルエンフィールド車の魅力が生み出される背景が垣間見えたかのようでもあった。
発表されたバリエーション
HUNTER 350 AshWhite
HUNTER 350 Antique
HUNTER 350 Black
HUNTER 350 GreyGreen
HUNTER 350 GTred
HUNTER 350 LagoonBlue
HUNTER 350 Mayhem
HUNTER 350 White
SPEC
- 圧縮比
- 9.5対1
- 最高出力
- 20.2hp/6,100rpm
- 最大トルク
- 27Nm/4,000rpm
- 変速機
- 5速
- 車両重量
- 181kg
- タイヤサイズ
- F=110/70-17 R=140/70-17
- 燃料タンク容量
- 13.7L
- 価格
- 129,900~タイバーツ(現地での税込み)