最終コーナーを攻める菊地さん。予選では見事ポールポジションを獲得。今回はウェビックのテントを間借りして参戦。♯58はWebike TECH Racing からブルターレ1090RRで参戦する神 拓也さん
テイストオブツクバで孤軍奮闘。国産4気筒ネイキッドに挑む!
水戸のMVアグスタディーラーであるキャラメルモータースが2019年の秋から続けている挑戦。それがMVアグスタ・ブルターレ800でのテイスト・オブ・ツクバ、F-ZERO参戦である。ライバルはFZS1000、CB1000R、ZRX1200、GSF1200という国産リッターネイキッド。排気量的にはかなり不利なのが分かるが、2021年5月の大会の予選では1′00.466を叩き出しポールポジションを獲得、決勝では5位でチェッカーを受けている。
ちなみにライダーの菊地さんは決勝の数日前にモトクロスで足の甲を骨折したがレースを決行……。というとプロライダーのようだが、普段はサンスターのスプロケットやブレーキディスクの製造&販売を手掛ける国美コマースのスタッフである。
キャラメルモータース代表の磯野さんと菊地さんから「ちょっと乗ってみない?」と誘われたのは2020年の秋のテイスト・オブ・ツクバ直後のことだった。
前回のインプレッションの模様はVol.1&Vol.2を見ていただきたいが、ここからいろいろと仕様変更したとこのとで再び試乗させていただくことにしたというわけだ。レーサーに試乗、となると自分には関係ないと感じる方も多いと思うけれど、このブルターレはあくまでも市販車の延長線上にあり、そのスタイルはブルターレのまま。
このチャレンジは「ブルターレはどこまでいけるのか?」そんな磯野さんの探究心をライダーの菊地さんや仲間たちと満たしていくもので、その過程で得た様々な情報をMVアグスタユーザーにフィードバックするための活動だ。
「だって誰もやってないんだよ。知りたくない? ここからヘッドライトを外したり、シートをレース用にすればもちろん軽量化にはなるけれど、そうするとブルターレのスタイルじゃなくなっちゃうから」と磯野さん。それでもベストラップ1′00.466は、すでにブルターレがかなりのポテンシャルであることを証明するのに十分なタイムだろう。
スタンダードからウインカーやミラーを外しただけ。誰が見てもブルターレとわかるシルエット。これが磯野さんのこだわりだ
タイヤをピレリからミシュランへ
ちなみに前回までのベストは1分0秒839だから、0.373秒のタイムアップを果たしている。全長が2,000mしかないツクバサーキットでの0.373秒はとても大きい。鈴鹿サーキットで考えると1秒以上短縮したことになるのだ。それでは、前回から何が変わったのかを見てみよう。
- 1.タイヤをピレリ製スーパーコルサSC1からミシュラン製パワーカップ2に変更。
- 2.リヤタイヤのサイズを180/60から190/50に。それに伴いホイールも5.5インチから6.0インチに変更。
- 3.HEL製ブレーキホースの採用。
- 4.フロントフォークスプリングを10.5キロから11キロに変更。
- 5.サスやタイヤの変更によりサスペンションをアジャスト。
- 6.サンスター製リヤディスク(試作品)を採用。
- 7.サンスター製チェーンを採用。
- 8.マフラーを小変更。
この中で、いちばんマシンのキャラクターを変えているのはタイヤだ。
「誰も使ってないからベンチマークがなくて……」と磯野さんと菊地さんは口を揃える。ホイールを変えたのはミシュランに180/60サイズがなかったからだ。
走り出してすぐに感じるのは、簡単にいうとピレリはタイヤが曲がりたがっている鋭さを持っているのが特徴で、ミシュランはライダーの操作に応えてくれるような感覚。ミシュランはライダーに曲げる意志がないと、膨らんでいくような傾向がある。
ハンドリングもミシュランは、どちらかというと穏やか。さらに旋回中もベターとしたグリップ感があり、安心感が高い。
ただ、安心感の高さはメリハリのなさに繋がっているシチュエーションもあり、好みが別れそうなキャラクターだ。
それほど飛ばしているわけではないけれど、前後輪ともピクリとも滑る気配がなく、タイヤを信用できればかなりのアベレージで走れそうな手応えがある。
そしてそれを生かして走ったのが菊地さんで、このタイヤに合わせるように前後サスペンションをアジャスト。姿勢もかなり変更し0.373秒のタイムアップを果たしたのだ。
「実は、ショップではいままでもミシュランのタイヤを販売してきたのですが、実際にレースでは使っていませんでした。でもいまはライダーのフィーリングも伝えられるし、タイムも出ているから心の底から薦められます(笑)。レースで使っている部品がきちんと販売に繋がったのも嬉しいですね。お客様も納得してくれる。ミシュランのパワーカップ2は年に1〜2回サーキットを楽しみたい方にちょうどいいと思います」と磯野さん。
「1コーナーの進入などでもフロントに一定のグリップがあって、立ち上がりも安心。本当は使っている人がいなかったので不安なところもあったのですが、よかったです。ポールポジションも取れたし、レースが終わった後に色々な方がタイヤを見にきました(笑)」とライダーの菊地さん。
タイヤはミシュランのパワーカップ2に変更。グリップはとても強力。それほどペースアップしていないが、スライドし始めるまでの領域はわからなかった
マフラーは鈴鹿のTSRとの共同開発。今回はエキパイのエンジン側のパーツを変更。パイプに見えるがそのひとつひとつのパーツはチタンの板を曲げて輪っか状にしてパイプ形状に。非常に凝ったつくりになっている
ディスクはキャラメルモータースとサンスターがコラボして製作したワークスエキスパンド。サンスター製品を取り扱う菊地さんだけにブレーキディスク、パッド、チェーンは同社製を採用する
メーターはL2M Chrome Plus。視認性の高いデジタルタイプを採用。ラップタイムも表示される
フロントフォークはF3からの流用で、オーリンズ製のインナーカートリッジを組み込む。コントローラブルーなフィーリングが魅力だ。リヤサスはアンドレアーニチューンのオーリンズ製TTX
シートには柔らかくグリップの高いスポンジを追加。マシンのホールド感がアップしている
MVアグスタの、そしてブルターレのキャラクターを引き出し続ける
MVアグスタの特長は逆回転クランクを採用した並列3気筒エンジンと、それを懸架するスチールトレリスフレームだ。この組み合わせは、排気量を感じさせないコンパクトさと軽さ、そして立ちあがりでのトラクションの良さが魅力だ。スロットルを開けた際の車体の反応がよく、速さの中に気持ち良さを持っているエンジン。他のメーカーの3気筒と比較してももっともレーシーで、かなり割り切った設定になっている。
そのエンジンは現在はノーマルだが、エアクリーナーとマフラーを変更。この後、エンジンをバラして内部を確認。今後の作戦を練っていくという。レーシーな3気筒エンジンと、パイプフレーム&片持ちスイングアームという車体構成をいかに生かして仕上げていくかが課題になっていくのだと思う。
「ブルターレはどこまでいけるのか?」「MVアグスタはどこまでいけるのか?」キャラメルモータースとライダー菊地さんの挑戦は続く。
このパイプフレームがイタリアらしさを強調。エンジンにタイトに寄り添うようため、車幅が狭い。キャラメルモータースと菊地さんの挑戦は2019年からスタート。今後、活躍に期待したい! ブルターレは、国産ネイキッドにどこまで迫れるだろう!?
キャラメルモータース代表の磯野さんがRIDE HIステッカーを貼ってくれた。とても嬉しい!
磯野さんは、とてもフラットにMVアグスタはもちろんユーザーに接してくれる。キャラメルモータースでMVアグスタを買ったら、とてもバイクライフが充実するはずだ