入り口の馴染みやすさと、スポーツの面白さを教える寛容さ
マニア好みで一般には乗りにくい、そんなドカのイメージもいまは昔……
'80年代からの旧くからのファンには、ドゥカティと聞けば「乗りにくい」イメージが先行していたはず。'74年からの伝説のバイク、イモラレプリカの750SS(べベル駆動で強制開閉バルブ機構デスモを搭載した当時のドリームマシン)は、一部の超凄腕ライダーには日本車と一騎討ちができても、経験のないライダーにはたとえプロでも不安ばかりという逸話はあまりにも有名だった。
モーレツにトンがっていたイモラレプリカ750SSに対し、全く同じフォルムながら900に排気量アップしたSSは、ピンポイントで曲がるシビアなハンドリングではなく、誰にでも乗れて、でも慣れてくると緊張感を伴う走りになる両面を持った現在のSSキャラクターのルーツ的存在だった。
その後、851系からの水冷DOHCのスーパーバイクが'90年代にかけてフラッグシップとなってから、ドゥカティのスーパースポーツはどちらかというとツーリングスポーツ的な位置づけとなり現在へ至っている。
そのトップエンドでなくなってからのスーパースポーツは、タイヤや足周りの進化も大きいが、エンジンのチューン、とりわけ低回転域のスムーズさが備わったり、ハンドリングもシャープさが姿を消した穏やかな特性へと変わってきた。
それでもLツインの単気筒と同じひとつのクランクに、ふたつの気筒のコンロッドを共有した単気筒並みのスリムなエンジンは、リーンで手応えがないほど呆気なく傾く特性は残るため、少しペースが上がると一般的な安定性の高い4気筒勢よりスポーツ性が強調されて伝わるため、これを楽しみたくてドゥカティオーナーになるファンが増えつつあった。
並行輸入が正規輸入より多かったというほど国産スポーツ並みの人気だった900SS。ワイドラジアルタイヤの定着で、難しかった重心位置をピンポイントで維持する必要がなくなり、一気に親しめるドゥカティをイメージづけた。
そしてトップエンドがパニガーレV4とV2のラインナップとなったからこそ、この中庸の位置づけで不慣れなキャリアでも楽しめるスーパースポーツの存在は重要度を増したといえるだろう。
エントリーモデルとして相応しい扱いやすさと、少し慣れてきてから感じるライダーの技量次第でポテンシャルをまだまだ楽しめる可能性は、このモデル最大の特徴だろう。
たとえば以前ならギクシャクして使えなかった2,000rpmという低回転域からでも、スロットルを開ければスムーズにレスポンスし、コーナーではわかりやすいトラクションでライダーが何をすべきかをリードしてくれるはず。
そしてスーパースポーツSモデルに装着されている前後オーリンズは、そもそものスーパースポーツに込められた個性とパフォーマンスにプラスして購入できるとは思えないバーゲンプライス。中古車を探すにしても、迷わずSを選びたい。
七難かくすオーリンズ製サスペンションといえるほど、色々バランスの難しい動きを収めてくれる優れた性能で、このバイクを傑作と呼ばせる3割ほどはオーリンズ製前後サスのバリューだと思う。
このように善き先生になれるスーパースポーツSは、フラッグシップのようには目立たない存在だが、間違いなく歴史に残る傑作車であるのは間違いない。
SPEC
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
- 全長/全幅/全高
- 2070/750/1186mm