バネ下軽減?、ブレーキ性能?、見た目?
1986年TZR250
1986年NSR250R
スーパースポーツのフロントブレーキといえばディスクローターが2枚、いわゆるダブルディスクが定番だ。
しかし市販車で初のディスクブレーキを装着した1969年のホンダCB750フォアはシングル。続くカワサキZ1もシングルで、この頃はレーシングマシンがまだ信頼性から大径ドラムブレーキが主流だった。
その後、1977年頃から大排気量車はほぼダブルディスク化されたが、軽量な400ccクラスや250ccクラスとなると、ブレーキ性能として過剰なことからシングル主流のままが過ぎていた。
それが1980年代中盤~のレーサーレプリカ全盛期となると、装備としてのグレード競争と捉えるか、ハンドリングなどパフォーマンス重視で貫くかのバトルがはじまったのだ。
その典型が同じ1986年にガチンコ勝負していたヤマハTZR250とホンダNSR250R。RZ250で火がついた2スト250バトルは、世界GPの頂点500ccクラス(いまのMotoGPに相当)でのYZR500vsNSR500対決が、市販車の人気競争にダイレクトに反映していた。
追い込んできたホンダは勝負マシンNSR250Rでダブルディスク、ハンドリングのヤマハをイメージさせてきたヤマハはバネ下軽減が前輪の路面追従性を決定づけると敢えてシングルとこだわる違いが鮮明に。
もちろんホンダも単にダブルなのではなく、バネ下軽減に留意した小径での2枚ディスク。ヤマハはブレーキ効力に留意した大径シングルディスクだった。
そこにはブレーキ効力としてのダブルとシングルのバトルだけでなく、2枚のほうがビッグマシン並みに豪華というユーザーの願望も影響していたのは間違いない。
これは絶対性能を競うレーシングマシンでも両側の意図が拮抗していて、250ccでは大径シングルと小径ダブルが入り乱れてのバトル。これは近年のMoto3でも同様の展開が繰り返され、最近になって小径ダブルが主流と落ち着いてきたが、市販のベースマシンではシングル大径が依然として根強い。
250スーパースポーツでは、ハンドリング優先すれば大径シングル
1984年TZ250市販レーサー、コーナリングの勝負は大径シングル
1986年 YZR250(0W82)、コーナーへの突っ込み勝負が色濃くなり小径ダブルに
最新Moto3のNSF250RWは小径ダブル
CBR250RRはZX-25Rなどと同じ大径シングル
いま再び人気が高まりつつある250ccスーパースポーツで、渾身の4気筒復活で高コストでもハイエンドを目指したカワサキZX-25Rも、フロントブレーキは大径シングル。もともとのライバル、ハイエンド狙いでは先行していたCBR250RRも同じく大径シングルだ。
前輪のバネ下、つまりタイヤとホイールにブレーキのローターの重量は、回転しているジャイロ(遠心力)が強いと路面の細かな凸凹に追従しにくくなる。これはコーナリング時の前輪グリップ、とくに安定感に大きな影響を及ぼす。シングルにこだわるには、ライダーへの操りやすいハンドリングを提供したい思いが込められているのは疑う余地もない。
しかもシングルといっても大径なので、ディスクの最も外周部分は同じ回転でもブレーキパッドが当った瞬間の速度が速く温度上昇も素早いので、効きの立ち上がりに良いフィーリングが得られるメリットもある。
しかし’80年代のバトルのように、そこは見た目、どちらが豪華と感じるかの勝負がはじまれば、この勝負の行方はまたわからなくなるかも知れない。