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ラジアルマスターシリンダーって、ドコが凄いんですか?【ライドナレッジ006】

Photos:
真弓悟史,柴田 直行

絶対的な制動力より、コントロール性の高さが大切!

いまやバイクのブレーキは、ほぼすべてが“油圧式ディスクブレーキ”。マスターシリンダーで発生した油圧がブレーキキャリパーのピストンを動かし、ブレーキパッドをディスクローターに押し付ける摩擦力で制動する仕組み自体は、小排気量のスクーターから大排気量のクルーザーまで基本的に同じだ。

しかしブレーキシステムを構成する個々のパーツには様々な種類があり、ライダーが直接触れて操作するフロントブレーキのマスターシリンダーは、古くから使われる“横押し式(横置き式)”と、スーパースポーツやハイスペックな欧州製ネイキッド等が装備する“ラジアル式”が存在する。
MotoGPなどレーシングマシンもラジアルマスターシリンダーを装備するだけに、なんとなく横押し式より高性能なイメージがあるが、実際はどんなメリットがあるのだろう?

注射器のようなシリンダー&ピストンで油圧を発生させる

フロントブレーキのマスターシリンダーは、レバーを操作(引く)することでピストンを押して、シリンダー内のブレーキフルードに圧力を発生させる。この仕組みは横押し式もラジアル式も同じだが、シリンダーの配置とレバーの構造が異なるのだ。

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横押し式(横置き式)マスターシリンダー

シリンダー部分がハンドルバー(グリップ)と平行に配置。ピストンを押すために、レバーは支点を角にしたL型の形状。レバーを操作する力の方向を変換しているので、操作力のロスやレバーを引き込んでいくとフィーリングに変化が生じる。マスターシリンダー全体のサイズがある程度大きくても、車体の形状(カウリングなどとの干渉)に関係なく装着しやすい

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ラジアルマスターシリンダー

シリンダー部分がハンドルバー(グリップ)と90度に直交する配置。操作するライダーを“中心”に考えれば、シリンダーがラジアル(放射状)に配置されている。レバーを操作する力がほぼ真っ直ぐピストンを押すので操作力の摩擦損失も少なく、レバーを引き込んでもフィーリングが変化しない。マスターシリンダーがハンドルバーより前方に飛び出すため、コンパクトな形状(設計や製造にコストがかかる)でないとカウリングなどに干渉しやすくなる。
ちなみに欧州車は、シリンダー部分がハンドルバーと90度ではなく、少し傾いた配置の“セミラジアル式”も多く採用される。構造や目的はラジアル式と基本的に同じ。レーサーはハンドル切れ角が少ないため、苦労せずにラジアルマスターを装着することができるが、市販車はハンドル切れ角を確保しなければならないため、カウリングとの干渉などスペース的な問題をクリアするためにシリンダー部に角度をつけていることが多い

最初のラジアルマスターシリンダーは、エディ・ローソンが駆ったヤマハのYZR500

じつは横押し式もラジアル式も、他のブレーキを構成するパーツが同じモノならば、制動力の強さ自体は変わらない。しかしブレーキは、ライダーなら誰もが経験上感じていると思うが、「どれだけ思い通りにかけられるか」が重要。どんなに強力なブレーキでも、コントロール性に不安があれば強くかけられないため、結果として“効かない(使えない)ブレーキ”になってしまう。

そこで登場したのがラジアルマスターシリンダー。1985年にブレンボ社が初の特許登録をし、翌’86年からはGP500マシンであるエディ・ローソンが駆ったヤマハのYZR500に装備された。

ラジアル式のメリットは数多い。レバーに入力する方向(ライダーがレバーを引く方向)とピストンを押す方向が同じなので、摩擦ロスが少なく操作フィーリングがダイレクト。また、構造的にレバー比を大きく取れるため、少ない力で繊細なコントロールが可能になる……というワケで、レーシングマシンではラジアルマスターシリンダーが一気に主流になっていった。

効果は制動時と思われる方も多いと思うが、実はブレーキをリリースしていった際のフィーリングも激変。ブレーキパッドがブレーキディスクを締め付けていく感覚と、それをジワリとリリースしていく両方の感覚がわかりやすくなるため、曲がるタイミングが掴みやすくなるというわけだ。

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ラジアル式の方が構造的にレバー比(力点と支点の距離:支点と作用点の距離)を大きくできる。この“テコの原理”によって、同じ入力でも大径のピストンを押せる(もしくは同径のピストンを小さな力で押せる)。またレバー比が大きいほどストローク量(レバーの操作量)が増えるため、コントロールの幅が広がった。思い通りの強さでかけるのが容易になったため、結果として“より強力なブレーキング”も可能になる

スポーツ度の高い市販車がこぞって装備

市販車にラジアルマスターシリンダーが標準装備されたのは2002年のアプリリアRSV1000が初。

レーシングマシンの装備から時間が経っているが、これはコストやサイズ(カウリングなど車体との干渉。市販車はレーシングマシンよりハンドル切れ角が大きいのも要因)といった制約があったため。しかし、2000年代半ば頃からスーパースポーツはもちろん、欧州車はネイキッドモデルにも採用するようになった。

とはいえ小~中排気量車やレトロ系、国産ネイキッドは現在も横押し式のマスターシリンダーが主流。前述したように横押し式でも制動力自体は十分なので、こちらはルックスやコスト上での選択だろう。

しかし、いまではアフターパーツのラジアルマスターシリンダーも数多く登場しているし、ブレーキテクニック向上にも役立つので、横押し式からラジアル式にカスタムするのもあり。というか、実はブレーキカスタムで最初にこだわりたいポイントが、マスターシリンダーなのだ。