2021年シーズンの前半戦で、結果をともなう進化を遂げたKTM。そこから見えるのは、KTMの総合力、そしてテストライダーのダニ・ペドロサの存在だった。
2020年は3度優勝! 2021年はKTM躍進と思いきや……
KTMの2021年シーズン序盤は、苦しい時間だった。第5戦フランスGPまでのリザルトを確認してみると、ほとんどが10位以下に沈んでおり、ブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)が5位を1度獲得したのみだったのだ。サテライトチームであるテック3・KTM・ファクトリーレーシングのダニロ・ペトルッチとイケル・レクオーナを含めても、フランスGPまでにトップ10圏内でフィニッシュしたのは3度のみに留まっていた。
2020年はKTM全体で3度の優勝を挙げ、ポル・エスパルガロが5度の3位表彰台を獲得したシーズン。2017年からMotoGPクラスに参戦を開始したKTMは今季、エンジンの上限基数やシーズン中のテストについての規制がゆるやかになるコンセッションの適用を外れて、初めてのシーズンを迎えていた。しかし今季序盤の成績は、2020年の明らかな躍進を今季にそのまま持ち越すことができるほど、世界最高峰の戦いが甘くないことを物語っていた。
ニューシャシー投入で上昇気流に!
KTMが上昇気流に乗り始めたのは、第6戦イタリアGPからである。ミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)がイタリアGPで2位、カタルーニャGPでは今季初優勝を飾り、ドイツGPで再び2位を獲得して3戦連続で表彰台に上がった。ビンダーは表彰台の獲得こそ逃しているものの、シングルフィニッシュを続け、ドイツGPでは13番グリッドからスタートして4位にまで追い上げるレースを展開している。
ターニングポイントとなったイタリアGPで、KTMは新しいシャシーを投入したのである。これは第4戦スペインGP後に行われたヘレステストで走らせたものだった。オリベイラとビンダー両選手によれば、この新しいシャシーによってコーナー出口の走りがよくなり、自然な旋回ができるようになったのだという。
さらに、イタリアGPからはETSレーシング・ヒューエルスによりカスタムメイドのガソリンが供給され、トップスピードが少し増した。実際に、イタリアGPではビンダーがこれまでの最高速記録を更新する362.4km/hを記録している。
イタリアGPから投入された新シャシー。オリベイラがさっそく2位表彰台を獲得した
勝利のカギを握る、ダニ・ペドロサ
イタリアGP以降、KTMが成績を向上させているもっとも重要なポイントは、そうした進化、変更を迅速にもたらすことができるKTM全体の体制、そしてテストライダーであるダニ・ペドロサという存在にあるだろう。
ドイツGP後、オリベイラは次のように語っている。
「シーズン序盤は、自分たちの状況をどう好転させればいいのか、ほんとにわからなかったよ。けれど、僕たちは、グループですごくいい仕事をしたと思うんだ。(KTMの)4人のライダーで取り組み、そして第三者的立場にいるテストチームのダニ(・ペドロサ)は、とてもよく貢献してくれた。彼はこのプロジェクト全体に、とても貴重な情報を提供してくれたんだ」
オリベイラはまた、こうも語っている。「シーズンの序盤は確かにきつい時期だった。でもそのきつい時期がなければ、いまのこの状況はなかっただろう」と。現在のMotoGPはシーズン中の開発について大きく制限されている。イタリアGPで持ち込んだシャシーは確かに、一つの“特効薬”に見えるが、そこには総合力とMotoGPクラスにおける経験値、開発の確かな方向性が必要なはずだ。前半戦イタリアGP以降の結果は、KTM全体としての底上げがうまくいっている、ということを意味しているように見える。
前半戦の締めくくりとなる第9戦オランダGPの決勝レース後、オリベイラとビンダーに、KTMとのコミュニケーションや情報伝達のスピード、バイク改善のスピードは昨年、2年前から比べてどう改善しているのか、と尋ねた。
オリベイラは「本当に最初の頃は、テストチームや(テスト)プログラム、レースウイークの作業などがとてもいいものだった、とは言えなかったかもしれない」と、過去について明かしてから、現在のKTMについてこう回答している。
「数年前から、KTMはダニ(・ペドロサ)という素晴らしいライダーを擁するテストチームを発展させてきた。ダニとのコミュニケーションは、レースウイークのレポートをベースに行われている。これまでのところ、その形でうまくいっているよ。僕たちは着実に前進しているし、バイクに必要だと思うことを形にできるようになった。僕が思うに、これが進歩のカギになっているのだと思う」
カタルーニャGPで優勝を挙げたオリベイラ。KTMに2021年初の勝利をもたらした
そしてビンダーは「今季の序盤は満足いかないポジション、ということに注意を払っていた。KTMは少しでもアップデートをもたらそうと、懸命に取り組んでくれた。だからKTMにはとてもとても満足しているし、彼らの仕事ぶりは信じられないほどなんだ。だんだんサポートが強くなっている」と語っていた。
ドイツGPでは13番グリッドから4位フィニッシュを果たしたビンダー
前半戦の取材を通しても、オリベイラやビンダーがKTMに信頼を寄せていることがうかがえた。そして、そうした雰囲気がライダーにいい作用をもたらしているということも。相互作用はさらなるブラッシュアップにつながり、いい循環を生んでいるようだった。
後半戦の口火を切るレース、第10戦スティリアGP(8月8日決勝レース)では、ペドロサがワイルドカードで参戦することも発表されている。テストライダーとして多くの貢献を果たしているペドロサの参戦は、KTMの開発をさらに促進させることだろう。2021年シーズン後半戦、KTMはチャンピオンシップでどのような戦いを展開するだろうか。
第10戦スティリアGPでワイルドカード参戦するペドロサ。2018年最終戦バレンシアGP以来のレースとなる