ネイキッドの台頭に撹乱され、その反発から誕生したディバージョン!
1989年にネイキッド旋風を巻き起こしたカワサキのゼファー。
オートバイらしさを回顧、シンプルでストレートさをアピールしたその潮流は、ある意味デリケートな感性を得意とするヤマハ的なバイク創造を否定されたようなもの。
これにヤマハとタッグを組むGKデザインが反発、その先のクリエイティブを繊細さを伴うバイクで模索ずる、新たなカテゴリーの開発がスタートした。
バイクを走らせる心地よさは「風を切る」こと。
しかし速度が出れば抵抗として不快側の要素になる。
それを本格的な長距離ツアラーのような、大柄なウインドプロテクションではなく、日常のライフスタイルを壊さないカウルとの融合……
エンジンは高性能を求めない空冷4気筒、但し進化系としてのカタチを反映させた新しさが必須。
そして1991年に、型式名XJ400S、車名は排気量も表記しないDiversion、コンセプトそのままの進路や方向性を変更する意味の、ディバージョンがデビューした。
新規に設計された空冷4気筒400ccエンジンは、吸気と排気をダイレクトに駆動するDOHCながら何と敢えて2バルブ仕様。
ボア×ストロークを47.7mm×55.7mmとまさかのロングストローク設定で、最高出力は250cc並みの42HPに抑えていた。
ただシリンダーは前傾35°で、吸気をストレート化してダウンドラフトキャブレターを装備する、ヤマハのジェネシス流のレイアウト。
本来は気筒あたり5バルブのハイメカニズム仕様の構成だが、もちろん2バルブでも効率の良さはメリットに違いない。
良く見ると、ヘッドカバーに冷却風が抜けやすい角度とフィンを設けた、見せる空冷を意識させる造形だった。
当然シリンダーの冷却フィンも目立つ存在で、エンジン音の反響まで反映させた形状とするなど凝ったつくりになっている。
その美しさは、いま見てもヤマハ空冷4気筒で抜きん出たレベルでといえるのは間違いない。
フレームも必要以上に剛性を求めないものの、最新テクノロジーからフィードバックした贅沢なパイプの取り回しや、シンプル且つ広範囲に適応するモノサス設定と、性能が高くなければそこそこの装備で済ませるネイキッドへの当てつけともいえるレベルでまとめられていた。
こうして感性豊かなコンセプトで開発されたディバージョンだったが、マーケットの反応はいまいちどころか、まるで見向きもされない状態に陥っていた。
僅か1年の短命、海外向け600cc版は受け容れられた
この結果にヤマハは即決を下し、イヤーモデルなど改良版で粘ることなく、僅か1年で国内マーケットから撤退となった。
ただ海外向けに同時開発していた600cc版のほうは、ヨーロッパから北米でニーズがあり、カウルなど外装を変更しながら2002年モデルまで継続する人気機種で、このプロジェクトが失敗したわけではなかったのだ。
欧米のユーザーが、基本設計から手間をかけた内容をよく見極め、長距離ツーリングの頻度が低いユーザーが、実質的な評価がされていたのも、マーケットをよく知っているヤマハならではだろう。
とはいえ、いま見ると以前にはない感性へチャレンジしているルックスは、敢えて空冷で新設計した専用エンジンの贅沢さを含め、マイノリティへの挑戦を怖れないヤマハの姿勢をよく伝えている機種といえる。