未知なる世界。いままで知らなかったのが悔しい。バイクにこんなカテゴリーがあったなんて!
ロケット3、2台で走りに行く。2台で約5,000cc! そのインパクトだけでやってみたかった企画だ。皆さんには、市販車最大排気量の2,457ccのバイクは、どんな風に映っているだろう?
一緒に走りに行ったライター高橋剛さんの記事は「RIDE HI NO.6」を見ていただきたい。ロケット3 GTと世界1,000台限定のロケット3 R BLACKの2台に対面した僕らの間には「凄いなぁ」「デカイなぁ」「エキパイ太いなぁ」「ちゃんと乗れるかなぁ」「バカみたいな……」そんな言葉が飛びかっていた。もちろん愛情を込めた、ある意味褒め言葉でもある「バカみたいな……」ではあったが、ロケット3は凄いし、デカイけどちゃんと乗れるバイクだった。そして、バカみたいに正統で、バカみたいに真面目なバイクだった。見た目と乗り味がこれほど異なるバイクは他にないと思うほど、正統だったのだ。
都会に溶け込むロケット3。左がロケット3 GTで、右が世界1,000台限定のロケット3 R BLACK。走り出すと見た目とスペックの印象がガラリと変わる
トライアンフのラインナップは、モダンクラシックやロードスターに分けられ、ロケット3は単独のカテゴリーになっている。それはてっきりクルーザー部門であると思っていたのだが、ロケット3はどちらかというと超ラグジュアリーなロードスターと言っても良く、市街地ではいわゆる普通のビッグバイクに近い感覚で乗れてしまうのだ。
そして市街地での注目度も抜群。確かにこの巨体が2台並んで走っていたら、とても目立つ。バイクに興味がなさそうな方たちにもどこか特別な存在に映っているのだろう。
「こんなバイクが世の中に存在したのか……」走り出して10分ほどで、僕はいままでロケット3を知らなかったことを後悔することになった。正確には10年以上前に乗ったことがあるし、知っていたのだが、近年の進化ぶりに驚かされたという感じだ。
2,457ccの並列3気筒エンジンを縦置きに搭載。極太のエキパイが迫力。サイレンサーは右側に2本、左側に1本の3本出し。シリンダーヘッドには2,500ccの刻印も
アメリカ製クルーザーとは異なる「重さの質」と「速さの質」
ロケット3 GTとロケット3 R BLACKの違いは、色とポジションだ。GTはフォワードコントロールで、R BLACKはミッドコントロールで普通のネイキッドポジションだ。
僕は、まずR BLACKを選んだ。跨るとハンドルも近く、身長165cmの僕でもそれほど違和感がないポジション。サイドスタンドの出し入れも自然にできるのがいい。何よりも驚くのはスタンドを払って車体を起こす時も重さを感じさせないことだ。これがアメリカ製クルーザーだと、引き起こすのも、サイドスタンドの出し入れも本当に大変なのだ。
走り出しても重さや大きの質は想像していたものとはぜんぜん違った。見た目はどう見てもクルーザーなのに走り出すとクルーザーというよりはネイキッドという感じ。クルマでいう超高級セダンのような乗り心地の良さがあり、大排気量特有の余裕を持っている。もちろん軽くはないし、小さくはない。ホイールベースは長いからUターンは気を使う。でもUターンだってやろうと思えばできてしまうのである。
走り出して10分ほどで、2,457ccの大排気量にそれほど構える必要がないことがわかった。緊張感は、1,300ccクラスのネイキッドやフラッグシップより少し多いくらい。市街地の交差点はもちろん路地に入っても苦にならない。というよりロケット3はこんなに大きいのにいかなるシチュエーションでもライダーがコントロールしている実感があるのである。
さらには約320kgの車重にもかかわらず、押し引きもそれほど苦にならない。片手をハンドルに、もう片手はシートに置きバックさせたりも可能。ハンドルを左右どちらかにフルロックし、コツさえ掴めば取り回しもそれほど苦にならない。
視認性の高いメーター。電子制御も搭載する。ライディングモードでエンジンの表情が変わるのも面白い
タイヤは極太で、フロントは150、リヤは240サイズ。ロケット3専用のエイボン製コブラクロームを履く。もちろんハンドリングに変な重さや粘りはない。スイングアームは片持ち、駆動はシャフトドライブだが、その挙動にも違和感はない
1気筒が軽自動車よりも大きく、221Nm(22.54kgf・m)のトルクを4,000rpmで発揮
2,457ccの3気筒エンジンは、1気筒820cc。3気筒特有の爆発間隔の広い等間隔爆発エンジンは、明確に路面を蹴り、どの回転でも、どの速度域でも好きなだけ加速できるパワー&トルク感を持つ。
でも、市街地でタコメーターが2,500rpmを超えることはほとんどなかった。低回転域でありながらも、わずかなスロットル開度で巨体はきちんとレスポンスする。それが走っていて重さを感じさせない大きな要因だろう。スロットルワークだけでこの巨体がキビキビと走る姿は誰にも想像できないだろうし、乗らないと実感できない動きだと思う。でもこれが221Nm(22.54kgf・m)を4,000rpmで発揮するエンジンなのだ。ちなみにホンダのCB1300は112Nm(6,250rpm)、スズキのハヤブサは149Nm(7,000rpm)だから、ロケット3のエンジンがいかに桁外れかわかっていただけると思う。
郊外に出て「1回くらい全開にしてみようかな」と思ったが無理だった。というかその必要がなかった。
6,000rpmで167psを発揮するということは、例えば1万2,000rpmで167psを発揮するエンジンと比較すると、同じスロットル開度で倍加速するということだ。そして実際にロケット3は本当に倍加速していくようなフィーリングを持っている。余裕の塊。まさにそんなエンジンだ。
新しいレベルのパワー、スタイル、感動
走れば走るほど、ロケット3をゲテモノのように捉えていた自分が恥ずかしくなる。イギリスの紳士、貴族が乗るような雰囲気を持ち、まさにベントレーのような(もちろんベントレーには乗ったことはない)バイクだと思った。パワフルでラグジュアリー、そして英国クラフトマンシップを感じさせるつくり。イギリスのバイクには派手さはないけれど、静かな主張がある。ロケット3にもそんなイギリスらしさがきちんと宿っていた。ベントレーと異なるのは、ロケット3の価格が他のハイグレードな外車ネイキッドとそれほど変わらないことだろう。
僕とライターの剛さんは、新しいカテゴリーのバイクとの出会いに、この日、ずっと感動していた。
ロケット3は2004年からあるから、それほど新しいカテゴリーではない。しかし、ここ数年の進化は目覚しく、排気量を拡大したり、40kgの軽量化を施したりと、トライアンフはロケット3だけが持つ世界をひたすら追求してきた。排気量アップは速さを追求したのでなく、走りの満足度を追求していることがよくわかったし、大胆な軽量化は「ちょっと乗ろうかな」と思った時に乗れる気軽さに繋がっている。
ライバル不在。走りもラグジュアリーさも余裕も、新境地に到達しているロケット3。バイクライフに新しい刺激を求めている方に乗りこなして欲しい。
ブレーキはブレンボ。ロードスポーツのタッチそのものでコントロール性も高い。前後サスペンションはフルジャスタブル。これがロケット3の運動性を物語っているディテール。リヤサスにはリモートのプリロードアジャスターも搭載。僕なら前後プリロードをもう少し抜いてソフトな方向性も探ってみたい
ロケット3 R BLACKはネイキッドのような少し前傾するポジション。スポーツクルーザーと呼びたくなる運動性を郊外で発揮
ロケット3 GTはフォワードステップを装備するクルーザーポジション。ハンドルも手前に引かれている
丸目2灯のLEDヘッドライトが愛らしいフロント周り。GTはスクリーンも装備する。フロントの150サイズのタイヤや巨大なラジエターも迫力
タンデムステップの収納方法がとても凝っていて、2段階で折り畳むことで、完璧に収納することができる。細部までこだわり抜いたこういったディテールからも高級感を感じさせてくれる
市街地から高速道路を使い海へ。そのすべてのシチュエーションで満足度が高く、優越感に浸れるのがロケット3だ
ロケット3 R BLACK。絶妙なスポーツクルーザーポジション。GTとはかなりキャラクターが異なる
ロケット3 GTはフォワードステップとワイドハンドルを装備。足を前に投げ出すため、夏場はかなり足が熱い
いろいろと触っていたらクルマのようなオイルレベルゲージを発見。何もかもが規格外で面白い
SPEC
- 総排気量
- 2,457cc
- ボア×ストローク
- 110.2×85.9mm
- 圧縮比
- 10.8対1
- 最高出力
- 123kW (167ps)/6,000rpm
- 最大トルク
- 221Nm/4,000rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- アルミ
- 車両重量
- 321kg(318kg)
- キャスター/トレール
- 27.9°/134.9mm
- サスペンション
- F=テレスコピックφ47mm倒立
R=片持ちスイングアーム+モノショック - タイヤサイズ
- F=150/80 R17 R=240/50 R16
- 全幅/全高(ミラー含まない)
- 886/1,066mm(920/1,125mm)
- 軸間距離
- 1,677mm
- シート高
- 750mm(773mm)
- 燃料タンク容量
- 20L
- 価格
- 242万円~
- ※()内はR BLACK