オイル噴射で熱を吹き飛ばす油冷とアルミフレームで達成した179kg!


’80年代、国産バイクではあり得なかったクリップオンハンドルとフルカウルに先鞭をつけ、全メーカーを巻き込んだレプリカブームを牽引したのはスズキだった。
憧れのレーシングマシンに乗る夢をかなえてくれる、そんなメーカーを目指そうと思いきった改革を成し遂げていたからだ。
1983年のRG250Γ、翌年のGSX-R(400)は世界GPシーンや世界耐久レースの中に自分も浸れる夢のマシンをリリース。
そして1985年、全世界のファンを驚愕させたGSX-R750は、重く大きな大型車では考えられなかった車重200kgオーバーが常識だった概念を打ち破り、179kgと400ccクラス並みの軽量さと1,430mmのコンパクトなホイールベースのレーサーレプリカとしてデビューしたのだった。


ここまで軽量化を果たせたのは、ワークスマシン同様にアルミフレームの採用があったのと、何よりエンジンの高性能化で必須といわれた水冷化に走らず、潤滑オイルを冷却に利用する「油冷」方式を開発、シンプルで重量増を伴わない強みから軽さを誇っていたのだ。
ただこの油冷、エンジンオイルを多めに循環させ大型のオイルクーラーで冷やす……とイメージしがちだが、スズキが開発したのは、もっと先鋭化された独創的な「油冷」。
原理から説明すると、寒いとき体温で暖められた息をそうっと吹きかけると手が温もるのに対し、同じ体温なのに息を強く吹きかけると手を冷やすことができるのはナゼかご存じだろうか。
それは強く息を吹きかけると、冷やそうとしたモノの表面を覆っている空気の層が吹き飛ばされ、外気温が表層に触れるので冷やされるからだ。
この表面を覆っている空気の層を境界層といって、この原理を応用すれば一定以上の高温にあるエンジンオイルも、勢いよくジェット噴射すれば境界層を吹き飛ばして冷却効果が得られるということになる。



スズキはこのエンジンオイルを高圧でジェット噴射するのを、まずクランクシャフトまわりからピストンの内側へ噴射する方式と、モーターサイクルでは例のなかったシリンダーヘッドの燃焼室外壁へ上から各気筒へ2ノズルでジェット噴射する構造の両方を駆使、専用の大きな高圧ポンプを潤滑用とは別に内蔵していたのである。
そしてオールアルミのMR(四隅にリブ状の厚みを加えたマルチリブ)ダブルクレードルは単体で8.1kg、まさに常識では考えられないスペックだった。
さらにアライメントは、世界耐久選手権を制覇したGS1000Rからそのまま移行した折り紙つきのスーパーハンドリング。


そうした素性をさらに楽しんでもらおうと、国内向けには各部をレーシングマシンにより近づけるスペシャルパーツを組み込み、オーナーの名前をカウルに貼る限定車も追加され、フランスではレース出場を前提にチタン製エキゾーストから市販レーサー仕様のフロントフォーク、アルミ製ハンドメイド燃料タンクにFRP製カウルからシートカウルと、まさに世界耐久レースに出場するためのマシンまで用意されていた。


サーキットから生まれ、それに乗ってサーキットへ戻るというピュアとしか言いようのないシチュエーションのGSX-R750。
1988年にはケビン・シュワンツ選手がデイトナ200も制し、まさに気鋭のブランドとして世界へその名を轟かせていた。



