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約1年前、2020年の夏に開催されたZX-25Rの試乗会の模様を改めて紹介。まずはワインディング編をプレイバック。
いま思い出してもこの時の無条件に湧き上がってくる楽しさや爽快感は鮮明に蘇ってくる。ワインディング、サーキットを問わず、いつでもスポーツできる感覚に心が躍り、高回転型4気筒のエキゾーストノートは「もっと回せ!」というエンジンの叫びにも聞こえた。ここは、カワサキだけが達した新境地。僕はそんなカワサキに最大限のエールを送りたい!
スポーツバイクの世界に新風を吹き込む
九州地方の梅雨明けから3日後、僕は熊本に飛んだ。空港に降りたった瞬間に襲ってくる強い日差しに目眩を感じながらニンジャZX‐25Rの試乗会場であるオートポリスに向かう。オートポリスはカワサキが所有するサーキットで開発テストなども行われる場所だ。
空港を出発するとすぐに緑と青空に包まれる。これが日本一のワインディング天国である阿蘇だ。今回の試乗会は初日がこのワインディングを巡る公道試乗で、2日目がオートポリスという贅沢三昧。オートポリスに到着するとピットにはZX‐25Rがずらりと並べられていた。開発メンバーの顔も多く、カワサキの意気込みが伝わってくる。
僕は試乗会の前にZX‐25Rの様々な情報に目を通してきた。印象に残っているのはスペインのヘレスサーキットをジョナサン・レイが走るシーン。ZX‐25Rは、ヨーロッパでの販売予定はない。しかし、SBKのウインターテストに車両を持ち込み、ジョニーに試乗させた。普段は身体を大きくオフセットしないジョニーが全身を使って操るそのアクションが無条件に楽しさを伝えてくる。早く乗りたい! 実際に音が聞きたい! そう思ったカワサキファンも多いだろう。
2008年にニンジャ250Rを登場させてフルカウル250ccのブームを牽引し、国産全メーカーがそれに追従した。そして250ccスポーツはブームになった。2020年、再びカワサキから新たなムーブメントが起きそうな予感がする。
こんなにコンディションの良い阿蘇は初めて。いかにも「夏!」という空の下を楽しむ。ちなみに正式な呼び方は、ニーゴーアールでなくトゥエンティファイブアールだ
愛しの高回転サウンド。回せるエンジンは気持ちいい
「エンジンを回して乗ってください。高回転キープで!」。試乗前のブリーフィングでこんな風に言われたのは初めてかもしれない。
250ccの並列4気筒エンジンを開発する――そのエネルギーはとてつもなく大きい。カワサキ以外のすべてのメーカーもこんなプロジェクトを実現できるものならやりたかっただろう。しかし、コストや規制の兼ね合いから“4気筒エンジンをゼロから制作する”ことのハードルはとても高い。
そのハードルを超えて、最新の設計と電子制御が投入された250cc/4気筒はどのようなフィーリングなのか。そしてカワサキがここまでして制作した真意はどこにあるのだろう。2日間試乗し、多くのカワサキのスタッフと話をすると様々なことが見えてきた。
ZX‐25Rのエンジンは、1万5,500rpmで45psを発揮するショートストロークの高回転型だ。かつての250cc/4気筒と一線を画すのはフューエルインジェクションやフライバイワイヤ、電子制御などの採用だ。低速と高速域でそれぞれに理想的な空燃費と点火時期が与えれ、全域で扱いやすさと気持ちよさを約束してくれる。そしてその走りを力強くサポートしてくれるのはアップ&ダウン対応のクイックシフターだ。
跨るとポジションは思ったよりも大柄。コクピットの高級感もいい。既存の250ccのようにこじんまりとしてなく、ハンドルも開き気味。セパレートハンドルだが前傾はキツくない。だから走り出しても常にリラックスしていられる。前に座って身体を起こしていればツーリングポジション、少し後ろに座って伏せるとスポーツポジションに変わる。懐かしさと新しさが頭の中で交錯しながらも、走り出すとすぐに身体に馴染む。
エンジンは回すと楽しいし、音も良い。コーナーを繋ぐ直線でエキゾーストノートを響かせ、その音に酔いしれながら峠を駆け抜ける。無意味に高回転まで引っ張り、6速から1速までオートシフターを使ってここでも無意味にシフトダウンしてみる。でもそれがとても新鮮。ヘルメットの中で自然と笑顔になる。このワクワク感、久しぶりだ。
ビッグバイクと違い走行中は常に余裕がある。それでいて刺激もあるから物足りなさは感じない
細いタイヤが軽快かつ馴染みやすいハンドリングに貢献。長いスイングアームやリヤサスのレイアウトはNinja ZX-10R譲り
排気量の概念を打ち破り、純粋にコーナリングの楽しさを教えてくれる
走り出してしばらくすると、拳ひとつ分腰をズラし始めていた……。
精度の高い走りを求め、向きを変えるタイミングを逃したくないからだ。しっかりと向きを変え、ZX‐25Rのハイライトである立ち上がりに備える。少しでも早く全開にしたい! 気持ちが焦る。どこまでもコーナリングスピードを高めていく小排気量の乗り方でなく、自分の決めたポイントで明確に減速して向きを変えて、バイクを起こして立ち上がる。その走りの組み立て方はビッグバイク的だ。
フレームは縦剛性が高く、それでいてねじれ剛性を落とした今風の味付け。250ccだが4気筒特有の安定感があり、小さ過ぎない車格を巧にバランスさせている。
アップ&ダウン対応のクイックシフターの恩恵もパワーバンドを逃したくない250ccに必須の装備。バンク中でもギヤを変えられる。クラッチレバーを握るのは発進時と停止時、そしてUターンなどの小回りの時だけだ。
コーナリングに夢中になっていると突然景色が開けてきた。
スロットルを緩め、世界最大級のカルデラや、その隆起した地形に襲いかかるように力強い緑が覆う大草原を堪能する。この日は1,000mほど下にある麓の街並みも鮮明だった。自然の中に少しだけ場所を借りて峠を楽しませてもらっているZX‐25Rとの時間はとても贅沢だ。しかし、大雨による爪痕も多く、美しさだけではない自然の驚異を思い知る。走りながら景色を楽しみ、いろいろなことが頭を巡るのはZX‐25Rにどこまでも余裕があるからだ。
5、6速で4,000rpmあたりをキープしながら、クルマの後ろを追従するのもストレスがない。高回転での伸びと、低中速域での扱いやすさが両立されている。
先行車がいなくなると常用する回転を上げてみる。ライダーがスポーツライディングするスイッチをいつでもオン/オフできる感覚がいい。250ccという排気量の物足りなさはなく、ワインディングで〝バイクでスポーツする楽しさ〞を最大限に楽しめる。
「どうだった?」。初日の走行を終えた夜、電話やメールの対応に忙しい。近年、これほどまでに大人のライダーの好奇心を刺激してくる250ccがあっただろうか。
車格があるためワインディングでの存在感は250ccとは思えない。ツーリングもこなす250ccスーパースポーツだ
倒立フォークにキャリパーをラジアルマウント。制動力も高く、コントロール性も高い
20,000回転まで刻まれたアナログ式のタコメーター。高回転にタコメーターの針が飛び込む感覚が病みつきになる
単純にアクセルを開けるのが楽しいバイクだ。シフトアップ&ダウンの操作ひとつで高揚できるのがよい
SPEC
- 総排気量
- 249cc
- ボア×ストローク
- 50.0×31.8mm
- 圧縮比
- 11.5対1
- 最高出力
- 33kW (45ps)/14,500rpm
ラムエア加圧時 34kW (46ps)/15,500rpm - 最大トルク
- 21Nm (2.1kgf・m)/13,000rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム形式
- ダイヤモンド
- 車両重量
- 183kg(SE:184kg)
- キャスター/トレール
- 24.2°/99mm
- サスペンション
- F=テレスコピックφ37mm倒立
R=スイングアーム - ブレーキ
- F=φ310mm R=φ220mm
- タイヤサイズ
- F=110/70R17 R=150/60R17
- 全長/全幅/全高
- 1,980mm/750mm/1,110mm
- 軸間距離
- 1,380mm
- シート高
- 785mm
- 燃料タンク容量
- 15L
- 価格
- 84万7,000円〜