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GB350

【ホンダ GB350 インプレ】SR好きから見たGB350(RIDE HI編集長/小川 勤/46歳)

久しぶりのモダンシングルの登場に心が躍る。ホンダGB350/Sは、前評判から様々な世代の話題に上り、多くの期待を背負って登場した。そしてヤマハSR400のファイナルエディションの発表が、その話題性をさらに高めたと言っていいだろう。ここではヤマハSRに28年間乗り続けている編集長・小川がレポートしよう

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Honda GB350

GB350はスタンダード(左)とSを用意。今回試乗したのはスタンダード。Sは後輪のサイズが太く、ポジションもちょっとスポーティな味付けだ。こちらは新ためてレポートしたい

正直言うと、やっぱりGB350よりもSRが好き。だけど……

セルを回すと350ccの超ロングストロークエンジンは元気良く目覚め、「ダッタッタッタッ」と単気筒らしいエキゾーストノートを響かせる。その心地よい音が気分を上げてくれる。アイドリング中もビリビリッとテールが小刻みに震えている。ブリッピングすると周りの空気を一瞬震わせ、350ccとは思えないほどの存在感を放つ。そしてそのレスポンスは想像以上に軽かった。ホンダらしい振動やフリクションを感じさせない吹け上がりで、ヤマハSRのような溜め感やスロットルの手応えはない。すでにSRとはキャラクターが全然違うことが伝わってくる。

そもそもSRはこんなに簡単にエンジンすら始動できない。何千回もSRのキックを踏み下ろしている僕にとってキック始動はまったく苦にならないが、世間の認識としてキックのハードルはかなり高いのだろう。編集部の正田(24歳)はSRに乗ったことがない。「キックって?」って感じ。根本(72歳)も「SRはエンジンかけるのも大変。ほら暑いとさっ」と言う。確かにキャブレター時代はそうだった。FIになってキックの始動性は劇的に改善されたが、世間の認識はまだまだのようだ……。だが、「キック1発でエンジンをかける」これはSR乗りの誇りのひとつなのだ。

今回僕は、編集者というよりは1人のSR好きとしてGB350を語っていきたいと思う。これまで僕はSRにただならぬ愛情を注いできたし、コストも費やしてきた。チューニングされたSRにも数えきれないほど乗ってきた。結論を言うと、僕はGB350よりもやっぱりSRの方が好きだ。でもGB350にはSRにはない魅力もたくさんある。

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350ccとは思えない巨大なシリンダーヘッドに1.5mmの薄さを実現したシリンダーを組み合わせたエンジン。70×90.5mmのボア×ストロークを持つ超ロングストローク。インドでの展開を考慮した排気量で、バランサーで絶妙な味付けを施す。SRエンジンはバランサーを持たないもっとシンプルな構成だ

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オフセットシリンダーと非対称コンロッドを採用することでピストンとスリーブの摺動抵抗を少なくしている。これが排気量を感じさせない豊かなトルクとレスポンスの良さに貢献。ヘッドの燃焼室の上部分にはオイル溜まりを作って熱対策

ディテールの質感はSRの圧勝。スチールメッキの深い輝きや職人が仕上げたディテールが良い

写真で見るより車格は大きかった。その排気量の通り、250ccと400ccの中間的サイズ感といったところ。取り回しは250cc感覚。ハンドル切れ角が大きくて小回りがきくイメージだ。
クラシックと言うよりはモダンなデザインで、タンクなどは上面から見るとCB1300シリーズを彷彿させるホンダらしい造形が与えられている。灯火類はすべてLEDで近代的だ。ディテールはどちらかというと250ccよりで、部品点数を減らし、軽量化とコストダウンを徹底しているのがわかる。エンジンは直立して(厳密にいうと前傾。本当に直立させると後ろに傾いて見えるらしい)車体に搭載され、ヘッドのフィンはとても大きく、シリンダーのフィンは薄くて深い。

でも、ディテールに関してはSRの圧勝だろう。フェンダーやヘッドライトケース、メーターケースのメッキに写り込む青空や風景は、とても良い。僕はSRで出かけるたびにそこに写り込む様々な空を見てきた。SRはエンジンも美しい。職人がヘアラインを残したクランクケースカバー、昔ながらのフィンの形状に個性はないけれど長年見慣れた安心感がたまらない。寒い日は何度も触って暖を取った、手触りの良いカタチをしている。

GB350は、ノスタルジーな雰囲気をつくり出しているものの、SRのように職人が手掛けているような箇所はなく、ディテールはどこまでもいま風なのだ。
SRの方が金属の質感が生み出す重厚感があり、いわゆるそれがオートバイらしさを伝えてくる。シンプルな構成の単気筒なだけに、こういった細部の仕上げは趣味性を語る上でとても重要になってくる。

SR400とGB350のスペックを比較してみよう

硬めのシートに座り、幅の広いハンドルに手を伸ばすとGB350はどこにも違和感のない王道ポジションを約束してくれる。ちなみにSRのシートは柔かめ。跨っている時の安心感はGB350の方がある。SRは実は当時のオフロードバイクであるXT500がベースのため、ロードバイクとしてはヘッドパイプの位置が高く、停止中や発進直後にエンストしたりするといとも簡単にバランスを崩してしまうことがある。

GB350の信じられないほど軽いクラッチレバーを握り、ギヤを1速に。シフトストロークは短く、シフトタッチも節度があり良好。SRのミッションは40年以上前からほぼ変わっていないから、タッチも40年前のままだ……。

クラッチを繋ぐと、GB350は想像以上に前に出た。「オッ!」車体を前に進めるダッシュは見事としか言いようがない。パワー&トルクが大きくない単気筒は、慣れないとここでストールしてしまうこともあるがGB350にその心配はなさそうだ。スロットルを開けると加速に伸び感があるため、思わず矢継ぎ早にシフトアップ。ワインディングでも高いギヤでの走りが可能で、回転をあげなくてもグイグイと登っていく。スロットルを開けるたびに「オー」と思う。ヘルメットの中で思わず頬が緩む。

本格的な試乗レポートに行く前に、GB350とSR400のスペックを比較してみよう。

★最高出力

  • GB350 20ps/5,500rpm
  • SR400 24ps/6,500rpm

★最大トルク

  • GB350 3.0kgf-m/3,000rpm
  • SR400 2.9kgf-m/3,000rpm

★重量

  • GB350 180kg
  • SR400 175kg

★価格

  • GB350 55万円
  • SR400 60万5,000円

実際にGB350に乗っているとこのスペック差をそのままに感じることができる。でもスペックで語れないのが空冷単気筒の面白さだ。

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灯火類はすべてLED化。フェンダーはスチール製を塗装している。深いメッキパーツを多用するクラシカルなディテールを持つSRとは対照的ないま風のディテールだ

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フロントフォークはφ41mm(SRはφ35mm)の正立で剛性感が際立つ味付け。リヤはオーソドックスな2本サス。スリムな車体だからそれほど気にならないが、足着き性は思ったよりもよくなかった

2台の排気量の差を埋めるのは、ホンダらしさ

GB350のエンジンの吹け上がりは軽い。これは往年のGB250クラブマンやGB400や500に通じるホンダらしさを感じられる部分。ただ、往年のGBのように上は回らない。わざとエンジンを回してみるとすぐにレブリミットに当たる。後で確認するとレブリミットは6,000rpmだという。350ccの単気筒が6,000rpmしか回らないのは、大胆に割り切ったといえるだろう。確かにGB350は圧縮比(9.5対1)が低いため回してスポーツする感覚はなく、低中速を繋ぎトルクバンドで走るキャラクターなのだ。
でもSRならトルクバンドでも走れるし、回しても走れる幅の広さがある。排気量50ccの差、そして4psの差がそこで出る。

GB350のエンジンは、振動がなく、吹け上がりも軽い。そして2バルブとは思えないほど元気にレスポンスする。振動と鼓動は絶妙な関係にあり、振動を鼓動とする考えがあるのも事実。でも僕は振動がないほど鼓動を感じやすいと思っていて、GB350はそのあたりのフィーリングをバランサーを使って作り込んでいる。
ただ、2,000〜3,000rpm(タコメーターはないため感覚的な回転数)でスロットルを開けたときに後輪が路面を掴む感覚は、思ったよりも希薄で、これはトルクやパワーといった数値ではなかなか語れないエンジン特性の部分。昔のマチレスG50やBSAゴールドスターなどのエンジンは、この部分のトラクションのかかり方が抜群によく(排気量は500ccだから当然だが)、それがとてもスポーティな走りを盛り上げてくれるのだ。もちろん僕はSRでもそこの味付けとそこからのレスポンスの仕方にこだわって燃調を詰めてきた。

GB350は、単気筒の鼓動感やトルク感はあるがビッグシングル感はなく、これは排気量的に仕方ないとはいえSRエンジンとの大きな差である。SRは規制に対応しながらどんどんスペックを下げてきたが、今もビッグシングルの匂いを感じることができる数少ない存在なのである。

GB350のハンドリングはとても軽快だ。フロント19、リヤ18インチのナロータイヤは、難しさを感じさせないフィーリング。走り出すとSRよりもピッチングは少な目。SRよりも重心が低く、曲がりたいと思った時に前輪の舵が入り、すぐに旋回に移行していくイメージだ。フロントフォーク周りの剛性があり、安心感も高い。カチッとした感覚はホンダらしく、SRにはない味付け。バイクなりに曲がっても楽しいし、慣れてきてライダーがもう少し積極的に扱っても応えてくれる。でもどちらかというとトコトコのんびり走るシチュエーションが似合うバイクだ。

車体&サス、シートはカチッとした印象のため、スロットルを開けた時の車体レスポンスと身体に伝わる鼓動感が明確で、これはSRにはないダイレクト感。もちろんサスペンションやブレーキは車両価格なりのグレードだが、このあたりは実際に手に入れてから好みで仕上げていくのも楽しいだろう。

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思ったよりも存在感があり、車体は想像よりも大きく感じた。様々な世代、キャリアのライダーがどのように育んでいくのか楽しみだ

SRの生産終了が悔しい……。GB350はポストSRになれるのか?

なんでSRは生産終了なのに、GB350が新車で登場できるのだろう……。今の技術で作られたエンジンと45年前(XT500から)のエンジンを比較しても仕方ないけれど、GB350に乗っていて正直そこが悔しかった。空冷SOHC 2バルブシングルはまだまだイケるじゃないか。やっぱり抜群にいいエンジンじゃないか、楽しいじゃないか。GB350のスロットルを開けながら何度もそう思った。だからこそこの形式のエンジンをこうして新たにつくってくれたホンダには感謝しかない。

僕はSRに出会いバイクが好きになった。市街地、ツーリング、スポーツ走行、カスタムのすべてをSRに教わった。皆さんにはまったく結びつかないかもしれないが、いまサーキットで200psのスーパースポーツを駆って楽しいと思うのもSRがあってこそなのだ。でもSRは、生産終了となりその役目を終える。

GB350はSRのようにオーソドックスなバイクらしいバイクであることに違いはない。女性やビギナー、リターンにも最適の選択肢だと思う。ただ、所有する喜びや特別感は、SRファンからするとまだまだだ。質感の高いディテール、キック始動、ビッグシングル感、若い世代にこれらが響くかどうかはわからない。でも長く所有するなら、カスタムするなら、乗って磨いて楽しむならSRだ。

GB350はポストSRになれるのか?

その結論を急ぐ理由はない。SRのようにメーカーとカスタマー、そしてカスタムメーカーなどがGB350を大切に育んでいけば、自ずと答えは見えてくるだろう。

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僕の大好きなヤマハSR。メッキパーツの使い方、エンジンの造形やアルミの質感を大切にした仕上げ。やっぱり安心感がある。GB350がこの安心感を手に入れる頃、きっとポストSRとしての答えが出ているはずだ

SPEC

Specifications
Honda GB350
エンジン
空冷4ストロークOHC単気筒
総排気量
348cc
ボア×ストローク
70×90.5mm
圧縮比
9.5対1
最高出力
15kW 20ps/5,500rpm
最大トルク
29Nm/3,000rpm
変速機
5速
フレーム
セミダブルクレードル
車両重量
180kg
キャスター/トレール
27.30'/120mm
サスペンション
F=テレスコピック
R=スイングアームツインショック
タイヤサイズ
F=100/90-19 R=130/70-18
全長/全幅/全高
2,180/800/1,105mm
軸間距離
1,440mm
価格
55万円