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Q.サス調整でビギナーがわかる範囲は?【教えてネモケン150】

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サスペンションを調整すると、警戒心がほどけて楽しく乗れると聞いたことがあります。でもキャリアが浅く、スプリングやダンパーをどう調整すると何が変わるのかという知識がありません。そんなレベルでもわかる範囲で効果を実感できるサス調整ってありますか?

A.サス調整というと、コーナーをガンガン攻めるライダーが、よりアグレッシブに走るグリップ性能や素早いリーンのためと思いがち。でも街中の左折小回りのような操作がしやすい設定や、不慣れなワインディングを怖がらずに楽しめるセッティングもあります。

プリロード調整の意味と効果は?

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サスペンションのセッティング……もちろん厳密にいえば専門知識とたくさんの経験が必要ともいえます。
ただそれはレースのようなタイムアタックをする際に、バイクとライダーが最も効率の良い動きとなる"詰め"を必要とする場合で、たとえば乗り心地だとか挙動が穏やかだったりキビキビしていたりと、ライダーの好みに合わせるとなるとハナシは別です。

それこそ限界を極めるMotoGPライダーでも、体重が重いのに低いバネレートを選んだり、逆に軽量なライダーが強いバネレートだったりすることも珍しくありません。
それとサス調整で僅か数ミリの違いが、キャスター角をコンマ何度違ってしまうと厳密論を振りかざす人もいますが、レースでもなければそこの不都合が乗りにくかったり、危ない状態へ陥るなどということにはなりません。

ちょっと軽快になった、思ったほうへ曲がるようになった、もしくはその逆だったり、熱い寒いと同じに誰でも感じることはできるので、そこを積み上げていけばイイ、そう考えて問題ありません。
という前提で、大雑把に何の目的でどう変わるのか、その入り口の部分から触れていきましょう。

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最初はプリロード。サスペンションのスプリングを予め締め付けておく量(ロード)の調整です。
このセット荷重を変えると、体重を含めた乗った状態での沈み込み量が調整できます。

スポーツ性の高いバイクだと、リヤはモノサスが多く、ダブルナットで無段階に調整が可能なのが圧倒的です。
2本サスだと5~7段階など荷重のノッチがついていて、車載工具に座金を回転させるフックや、車載ドライバーを座金の穴に突っ込んで回すなどで調整します。

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主な目的はライダーの体重差の調整です。
体重が軽すぎると乗車時にサスの沈みが不足して、イラストにあるような旋回中にリヤタイヤがスリップしたとき、縮んでいたサスが伸びることで、いきなりタイヤが路面上を滑っていくのを防ぐことができます。
また逆に沈み込み過ぎていると、深い位置からの伸び追従が緩慢で、スリップを誘発しやすくセット荷重を加えてこれを抑えます。

このように、乗車した1G'と呼ばれる荷重が載って予めサスが沈むのは、リカバリー能力を左右するリスク回避に重要な影響を及ぼします。
因みにこの予め沈んでいる量を、リバウンド・ストロークといいます。
スーパースポーツなど高次元なサスを装備していたら、納車のときにショップの方とご自分の体重とを合わせる「サグ(たわみ)出し」と呼ばれるサス調整をしておきましょう。

減衰力(ダンパー)調整の意味と効果は?

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減衰力の機能は、荷重で縮んだスプリングが戻る(伸びる)とき、フワフワと伸び縮みを繰り返す落ち着かない動きを抑えるためにあります。
ただ誤解を生じやすいのが、腕の立つイケイケなライダーほどダンパーを強く効かせていると思い込む勘違い。
レースのライダーほど、競り合ったときにラインが変わっても良いように、サスの動きを固めず伸びやかな状態に解放しておくほうが、様々な状況に対応できるため、良く動く状態にセットしています。

またこの減衰力を弱めると、バネ下の路面を追従する動きと、バネ上の車体全体がアクションでピッチングやローリングなどにあるとき、お互いが切り離された関係になるため、セルフステアで車体なりに曲がっていく自然な動きとなり、これが操作を軽快に感じさせます。
市販の大型スポーツバイクは、欧米だと一般的にタンデムで高速道路を日本の倍以上のクルージング速度となるため、路面の段差などでグラグラしないよう、減衰力を敢えて強めに設定、PL問題(製造者責任)を回避している事情もあって、日本での使用状況を考えると、ほとんどが減衰力が強すぎる傾向にあります。

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このように、伸び減衰は弱めるほどバイクを軽快に操れるのを実感できるはずです。
そもそも調整機構のバルブやスリットは、メインの減衰力発生の機能部分とは別のサブ回路となっています。
思いきり緩めて(弱めて)も、大きく揺れ動いて危険ということにはなりません。
それと圧縮側はもともと補助的な役割で、ここの調整はかなり慣れてからでないと差がわかりにくいので触らないほうが良いと思います。
さらににフロントフォークについても、プリロードの調整はスティックしやすいのでフォークの摺動抵抗などの知識がないと調整は難しいので、キャリアを積むまでは気にせずに触らずで構いません。

乗りやすく感じる調整でまずバイクを自分に近づける!

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このように、サス調整はバイクをライダーのほうへ歩み寄らせる大事なツールです。
とかくキャリアの浅いライダーほど、メーカーの出荷時の設定を尊重しすぎる傾向にあります。

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多くのライダーに平均的な仕様……と考えがちですが、スポーツバイクの場合は万人ウケほど誰にとっても中途半端な状態にあるということになります。
それでも触ってしまうと、工場出荷時の設定がわからなくなり、元に戻せないとご心配なら、マニュアルをご覧になれば初期の設定について必ず確認や調べることが可能です。
まずは乗りやすい、ハンドリングを軽やかに感じるのを"正解"と信じ、色々試してみましょう!

Photos:
藤原 らんか,Shutterstock,本田技研工業,KAWASAKI