A.フロントフォークの倒立化とともに、より高い剛性が求められるようになったから
ハイパフォーマンスバイクのほとんどが採用しているラジアル(放射)マウントのキャリパー
最近はミドルクラスや250ccクラスにも普及してきました
実際のところこのキャリパーのマウント方法のメリットは、どこにあるのでしょう?
2021 KAWASAKI Ninja ZX-10R
MotoGPマシンやWSBマシンはもちろん、いまは市販のリッタースーパースポーツも全車ラジアルマウントキャリパーを採用する。ラジアルマウントといっても様々なグレードがあり、やはりスーパースポーツ系に採用されている物は、モノブロックで軽量、そしてコントロール性に優れるものが多い
ディスクブレーキデビュー当初、キャリパーはフロントフォークの前に装着されていた
ディスクブレーキを大量生産される市販車に初めて採用したのは、1969年に登場したホンダCB750FOUR。走行風が冷却に優位なはずと、当初はブレーキキャリパーはフロントフォークより前にマウントされていました。それが前輪のステア慣性を少なくするため、フロントフォークの後ろ側へマウントされるようになり、いまではラジアル(放射)マウントと呼ばれるフロントフォーク後ろ側の離れた位置にマウントされるようになりました(詳しくはコチラ)。
どうしてこのような位置にマウントされるようになったかといえば、まずフロントフォークが倒立タイプとなったことがあります(詳しくはコチラ)。
アウター側がボトムケースだった正立フォークでは、このボトムケースに対しキャリパーの反力がストレスとなり、ボトムケースの剛性確保で軽量化にも限度があるなど、強力になっていくブレーキへの課題も増えていました。それがフォークの剛性アップに優位な、インナー側を下にした倒立タイプとすることで、キャリパーのマウントでもメリットが得られたのです。
1972 KAWASAKI 900 SUPER4 Z1
900ccという大排気量4気筒で世界を震撼させたZ1。ドラムブレーキからディスクブレーキに進化していく過渡期で、キャリパーはフロントフォークの前側に装着されている。やがて、ステアリングの動きが考慮され、フォークの後ろ側にキャリパーが装着されるのが一般的になった。ちなみにZ1はシングルディスク。当然だが、現代の交通事情の中で使うことを考えると制動力は少し不安
キャリパーを放射状にマウントすることのメリットは?
倒立フォークではキャリパーを前輪アクスル(車軸)のホルダーのブロックにマウントします。正立タイプのボトムケースのようにアクスルホルダーには長さがないため、当初はこのインナー側にあるボトムケース後ろ側へキャリパーをマウントするデザインが多く見られました。倒立タイプとなっても、フォークに沿った位置に置くことで、慣性モーメントが少ないという以前からのメリットを踏襲したからです。
それがなぜラジアルマウントというフォークから離れた位置となったか……これには複合的な要素があるのです。
まずレースなどでは、バンピーな路面を前輪が通過して左右に振られたとき、キャリパーも左右へ扇状に振られてしまい、この動きでブレーキパッドがキャリパーのピストンを押し戻す現象が起きます。これはライダーがブレーキレバーを引いたとき、通常は解放したときのクリアランスから入力されるのに対し、悪くするとブレーキレバーがスロットルグリップに当たるまで、何のブレーキ効力も生じないまま空振りのようなストロークとなる大変に危険な状況に陥ります。
これを防ぐには、ブレーキディスクがこうした動きから影響を受けにくいいちばん後ろ側へキャリパーをマウントするのが良く、同時にステアリング軸に近い場所となるため、パッドがピストンを押し込むリスクがさらに少なくなります。さらにこのマウント方向だと、ローター径が変わったときも、キャリパーとマウント側とにスペーサーを介せば、簡単にブレーキディスク径を変更できるメリットもあります。
そして、強大な油圧が働いたときに重要なキャリパーの剛性も、ご覧のようにマウント方向がアクスルに向き合うことで、ブレーキング時にキャリパーが回転方向に引っ張られず、制動時にがぜん優位な関係となるのは想像がつきますよネ。実はブレーキディスクとブレーキパッドが接するとき、引き込まれる微小なたわみ量なども、この全体のデザインによって変わってくるという、通常では考えもおよばない事情が複雑に絡み合っています。
MotoGPの最高速度は、360km/hを超える時代です。だからこそより精度の高いブレーキ性能を求めて、いまも毎年のように進化しているのです。最新のラジアルマウントは、そうした究極を追求してきたからこそ、理屈抜きにカッコよく見えるのだと思います。
最近はスーパースポーツだけでなく、ネイキッドやミドルクラスにもラジアルマウントキャリパーが採用されています。多くのライダーがそのメリットを体感できるようになってきているのが嬉しいですね。
2016 KAWASAKI ZRX1200DAEG
鉄フレームに2本ショックを組み合わせた昔ながらのネイキッドスタイル。キャリパーは正立フォークにマウントされるオーソドックスなスタイル。倒立フォークになってもしばらくはこのマウント方法だった。ダエグはこのファイナルエディションで生産を終了。カワサキのネイキッドスタイルはZ900RSに引き継がれることに
2022 KAWASAKI Z900RS
Z1をオマージュし、大人気となっているZ900RS。王年のネイキッドスタイルだが、フォークは倒立でキャリパーはラジアルマウント。みんなが大好きな昔ながらのスタイルと最新のディテールを見事に融合させている
2022 KAWASAKI Ninja ZX-25R
カワサキは250cc/4気筒スポーツにも倒立フォーク&ラジアルマウントキャリパーを投入。そのコントロール性と制動力の高さは250ccクラスの中では抜け出ていて、サーキットでも不安がないほど頼もしい