タイヤを新品に履き替えたら、
いきなりバンクするとスリップのリスクが!
タイヤを新品に交換すると、お店の人から「最初は滑りやすいのでしばらくは慣らしをして注意しながら走行してください」といった注意を受ける。
新品と聞くと一番良い状態と思いがちで、どれだけグリップするのかつい試したくなるかも知れないが、実はそれはご法度。
新品タイヤは表面が路面とまだ馴染んでいないので、お店の前をいきなりUターンして帰ろうとした瞬間に、スリップして転倒!ということになりかねないからだ。
タイヤは製造行程の最後に、成形といって鯛焼きと同じように高温で金型へ押し付け、トレッドパターンをつけながらプロファイル(断面形状)を与えるが、この金型から外れやすいようにした離型剤が表面に残っていると、そもそも滑りやすかったりする。
もっともタイヤショップでもオートバイディーラーでも、新品タイヤを装着すると、脱脂といってアルコールなどで表面を拭くのでこの滑りやすい表面にはなっていないはず。とはいえ、念のため直立した状態で急のつく発進やブレーキはしないことだ。
そしてホイールに組み込んですぐのタイヤは、内部のカーカスがまだ荷重を受けてたわんでいないため、トレッドラバーと一体になって衝撃を吸収減衰する性能が充分に発揮されない。
また路面追従性の伸び方向への動きも鈍く、条件が重なるとスリップしやすい状況に陥ることもある。
ということで、一般的に慣らし運転といわれる時間が必要で、よくひと皮むくという表現を使うが、これは表面のゴムが摩耗した跡が見えるまでと勘違いされがちで、実際はそこまで待つ必要はなく、うっすらと路面に接した跡がつけばいきなり滑るようなことはない。
どれくらい、そしてどうやって、
タイヤは慣らし運転をするのか?
では具体的に、どうやって慣らしをするのかを説明しておこう。
まずカーカスを含めタイヤ全体が揉まれる状態を得るには、念のため離型剤が擦れてなくなる状態までの数百メートルの後、必ず直立したままエンジンが低回転域のとき、ジワッとスロットルを大きめに捻って、加速でタイヤが路面に押し付けられる状態を与えること。
同様に前輪もブレーキをジワッと強めにかければ事足りるす。もちろん後方に車両がいないときなど、周囲を確認しつつ行うのをお忘れなく。
この荷重を与えて前後のタイヤを潰す運転は、1~2kmも走れば充分なはずだが、だからといってそれを過ぎたらいきなり全開は自殺行為。
また慎重に過ぎて、加速も減速もそうっと丁寧にやるのは、いつまで経ってもタイヤが揉まれず、時間もかかるし効果も薄い。
同じ意味で、走り出してすぐワインディングのようにカーブが連続する場合も、そうっと浅いバンク角から徐々にバンク角を深くしていくのは効果がなくスリップのリスクは減っていない。
新品タイヤでなくても荷重を与えるウォーミングアップしながらペースアップするのが、オートバイをライディングの鉄則であるのをお忘れなく。
新品でなくても、
走り出す度にタイヤを揉む乗り方を!
またハイグリップタイヤについては、新品時の慣らしだけでなく、ツーリング先のワインディングなどで、コーナーを見たらいきなり張り切ってフルバンクなどすると、スリップの危険性が高いのを念頭においておこう。
グリップ性能を高めに設定してあるタイヤほど、いちばん大事なのは減衰力。粘着力より滑り出したとき一気にスリップさせない包容力のほうが、限界に近くなるほど重要になる。
この温度を高めるのが、慣らし運転のときと同じタイヤを揉むという作業。徐々にバンク角を増やしても、荷重がしっかりかかっていない状態では温度上昇を得られず、スリップしやすい状況のままだ。
バンク角よりしっかり荷重を与えてタイヤを揉むほうが、その後にバンク角が増えてもトータルで滑りにくい安定した性能を得られる。
このようにハイグリップタイヤは、グリップ性能を発揮させるには常にウオーミングアップが必要で、気温や路面温度が低い冬場は誰もが気をつけるだろうが、春を過ぎて気温が上がってくるとつい気遣いを忘れがち。
真夏でもタイヤが揉まれていないと、トレッド表面は熱くても中のカーカスまで熱が伝わっていないことが多い。
タイヤはトレッドだけではなく、全体で性能を発揮するということを、常に意識して忘れないことだ。