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なぜ前輪が勝手に切れ込もうとするのか?【ライドナレッジ158】

Photos:
藤原 らんか,Shutterstock(OlegRi)

低速で曲がるとき、思ったより内側へ前輪が切れ込んでいく

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小さなターン、ヘアピンコーナーや交差点の右左折など、前輪がイン側へ切れ込もうとして、ハンドルをもってかれそうになることがある。
いつもの愛車、いつもの近所と、ふだんは気にもとめずに曲がれてた箇所で、いきなりこんな目に遭うとビックリというか疑心暗鬼の塊に陥って当然だろう。

これはバイクの不具合も考えられるが、低速で前輪が安定しにくくなっていく状況に、ライダーのある種の勘違いの感覚と操作をしてしまうところに原因がある場合も少なくないのだ。

まず前輪の空気圧を疑ってみる

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この前輪の切れ込みが、異様にハンドルを重く感じたなら、まずは躊躇せず道端へバイクを止め、降りてフロントタイヤを手の指で押してみよう。
規定の空気圧であれば簡単に凹んだりしないはずで、少しでもたわんだら一番近くのガソリン・スタンドまでゆっくり走り空気圧をチェック。

1kPa(kg/㎠)以下なら、そのままの走行はNG。
フロントタイヤが凹み過ぎて変形すると、本来のアライメントが機能する直進を保つ復元力や旋回に従って曲がるセルフステア効果も働かないので危険きわまりない。

タイヤは1ヶ月以上乗らないと20%ほど空気圧は自然に抜けるものの、ここまで減っているのはパンクを疑ったほうがイイ。
釘などが刺さっていれば外から見てわかりやすいが、小さな金属片などが食い込んでいるとほぼ目立たない。
空気圧を1.7~2.2kPaのそれぞれ指定されているところまで充塡して、タイヤに耳を当てて小さな空気が漏れている音が聞こえないか確認するくらい慎重になるべきだ。

曲がろうと思う旋回にバンク角が深すぎる!?

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前輪の空気圧が何でもなかったら、次に考えられるのがライダー側の問題。
曲がろうとしている旋回に対し、車体を傾け過ぎている可能性が濃厚だからだ。

バイクは通常の速度域では、後輪の旋回する軌跡の外側を前輪が追随して同心円を描くのが基本原理。
この後輪との関係が従順であるほど、ライダーは違和感なく乗れる。
そもそもフロントのアライメントは、フォークを斜めに設定する効果で直進する復元力と、ちょっとでも傾くと曲がりやすく前輪がステア追従する特性とを併せ持つのが基本原理。
この前輪の追従性をセルフステアといって基本原理に逆らわないバランスとなるよう、フロントフォークの傾斜角やブラケットのオフセット量を設定してあるのだ。

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ただ前輪がフラつくまで速度が下がると、このセルフステアの原理は働かなくなる。
そこで低速ではライダーがハンドルを左右へ舵取りする操作でフラつかないようバランスをとっているのはご存じのとおり。

これが切り替わる15~20km/hあたりで、ついライダーがいつもの安定した感覚のまま勘違いしてバイクを寝かせ過ぎると、前輪が倒れ込むように内側へ切れていこうとするのだ。

この予想外の反応に、ライダーは驚いてハンドルを押さえ「信用ならない不安」を抱くことになる。
前回のツーリングでもこんな違和感はまるでなかったのに、ナゼ?と混乱するかも知れない。
が、ライダーの感覚が日によって違ったりするのはよくあること。

エッ、昨日乗ったばかりなのに、そんなに簡単に馴染んだ感覚を忘れてしまうなんて……そう思われるのもムリないが、ベテランでも頻繁に起きることで、人間はしょっちゅう変わるモノと思うほかなさそうだ。

ということで、落ち着いて低速のターンを車体を傾け過ぎていないか、ハンドルを押したり引いたりしていないか等々を確かめながら、フツーの走れるバランスへ自分の感覚を戻していこう。

セルフステアをどれだけ妨げているか、確認しておこう!

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せっかくの機会なので、ここでセルフステアの機能を妨げやすい左手についておさらい。

イラストのように、誰かお仲間や友人とペアで確かめると驚くほど明確にわかるので、ぜひ体験なさっておくよう強くお奨めしたい。
まずサイドスタンドで良いので、両足をステップに載せた状態をつくる。
次にペアとなった方は前輪を両手で持って、ゆっくり左右へ5cmほど舵を切る感じで動かしてみる。

このとき左手首が曲がっているか、真っ直ぐになっているかを較べてみるのだ。
手首が曲がっているだけで、とくべつ抑え込んだり押したりしていなくても、前輪はグッと重く動きにくくなっているはす。
反対に手首を真っ直ぐにするだけで、前輪は舵取り角度を与えても軽く動くのがわかる。

いうまでもなく、この違いはセルフステアが妨げられるか、そうでないかの違いに直結する。
やったほうが良いとか、そういうレベルではないほど大違いなのは、体験してみれば身にしみてわかるはず。
ツーリングで疲れてくると、ついハンドルを持つ手に上半身の体重をかけてしまいがち。
帰路で曲がりにくくなったり、どうかすると回避が遅れたりに直結するので、走りながら頻繁に左手首を見る習慣をつけるよう心がけておきたい。

出発時点でウォームアップを兼ね、
傾きとセルフステアの関係を身体に思い出させる!

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今回触れたように、人間の感覚がアテにならないことが起きる……そんな「ドキッ」が朝イチバンに感じたら、その日は心のどこかに警戒心が宿ってしまうかも知れない。
これを防ぐのにお奨めしたいのが、自宅から走り出した数分間のシュミレーション。

いきなり幹線道路ではないだろうから、駐車している場所から発進して、すぐにある路地の右左折で車体を勢いで寝かさず、浅い角度でアウト側ニーグリップを軽く押す程度で前輪が舵角つけるよう促す乗り方をしつつ、まずはバイクに身体を馴染ませよう。
小さく曲がっている間は、クラッチを握って駆動を切ってしまうほうが、他の余計なチカラが働かず馴染みやすいこともあるので、これも試してみる価値アリだと思う。

低速域でバンク角を深くしてしまう操作は、バイクの安定が信頼できるレベルが高い最新のバイクほど、意外にやってしまうある種の誤操作。
前輪が切れ込む不安を感じたら、ぜひチェックと身体を馴染ませる操作をしておこう。