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硬いサスが速いライダーのセッティングは間違い!?【ライドナレッジ082】

Photos:
オーリンズ,カワサキ,藤原 らんか

メーカー出荷時のサス設定はほとんどが硬過ぎる

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日本製に限らずビッグバイクは西欧のライダーが乗る前提で開発されている。つまり日本人は体格的に小柄で体重も軽いライダーが多く、サスペンションでいうと硬過ぎる場合がほとんど。
さらに海外では制限速度も高く、ドイツのアウトバーンでは200km/h以上のクルージングも可能だ。そして2人乗りの頻度がとても多く、調整可能にはしてあるがそもそが高荷重対応で設計されている。
そこで必要なのが1G’と呼ばれるライダーが乗車したときに、サスをどこまで沈めるかをアジャストするサグ出し。このライダー乗車時にサスが沈んでいる量(リバウンド・ストロークともいう)は、大事な路面追従性を左右するため、万一スリップしたときのリカバリー能力も決めてしまうので安全のためにもぜひ調整しておきたい。
注意したいのは、速いライダーは攻めやすいハードなサス設定を好むという都市伝説めいた誤解。わかりやすくいうと、レースの世界でも国内選手権で同じサーキットを何百ラップも攻めて綿密にセッティングするため、動きの少ないハードな傾向のサスを好むライダーが多い(最近はさすがに減っている)のに対し、海外の様々な国際レースを走る一流ライダーは大事なリカバリーがしやすく操る自由度が高い、良く動くサス、手で車体を揺すると驚くほど柔らかいサス設定にしているのだ。
言葉の印象でレベルの高いライダーほど高荷重設定のサスを沈められるなど混在した情報で、硬い=速いに結論づけてしまいがちかも知れない。慣れてないうちは沈められないけれど目指して頑張るのでサスは硬めがエライ、そう思い込むのはリスクも多く間違いなのをぜひ認識しておこう。

リバウンド・ストロークの効果を左右する伸び側減衰力

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ライドナレッジ079でも説明しているように、サスの乗車時に沈んでいるリバウンド・ストロークは、路面追従性の働きに加え、イラストにある万一のスリップから一気に転倒しないようリカバリーを左右する重要な機能を担っている。
これは沈む量を決めるスプリングのプリロード調整がまず重要だが、次に大事なのがこの万一で伸びるときの動きを左右する伸び側減衰力。
サスペンションのユニットには、路面からの突き上げなどにスプリングが縮むことで衝撃を和らげる機能と、これが深くストロークしたときに元へ伸びる際、フワフワと落ち着かない反復を抑えるためオイルが通路を抜ける抵抗を利用したダンパーという機能がセットされている。
このフワフワを抑える伸び側減衰力が強過ぎると、伸びる速度が遅い、つまり動きの鈍いサスとなってしまい、充分なリカバリーが働かない状態に陥る。
この伸び側減衰力も、海外市場がメインのビッグバイクでは、2人乗りやクルージングアベレージが高いのを前提に、メーカーの工場出荷時にダンパーが硬めにセットされている場合がほとんどだ。

ほとんどのライダーは一番弱くしたほうが乗りやすい

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最新のビッグバイクであれば、ネオクラシックのカテゴリーを除き、サスペンションにはスプリングを予め縮めておくプリロードの調整と、伸び側減衰力の調整機能が装備されている。
中には圧縮側のダンパー調整が付加されているスポーツ度合いが高い機種もあるが、影響度は伸び側ほどではないのと、わかりやすい説明を優先したいのでここでは省いておく。
この伸び側調整には伸び方向の動き、Tensionを意味するTENと表記されたり、リバウンド側なのでReboundを意味するREと表記されている、調整ネジやクリックダイアルを回転させればアジャストできる。
ライダーにわかりやすく説明するため、→でHARDとかSOFTの調整方向が記されていたりするが、本来は硬い柔らかいではなくSLOWかFAST、動きを遅くするか速くするかの調整なわけだ。
これもハードとソフトの誤解、足応えがシッカリとか軟弱な動きなど言葉の印象で、速いライダーへの憧れで間違ったセットをしないよう注意。
この伸び側減衰力を調整した効果を明確に感じられるよう、徐々にではなく最初から一気に最弱の位置までアジャストしてしまうのを推奨したい。
そうすると路面追従性よりも、加速をはじめたときの後輪に駆動がかかるきっかけが感じやすかったり、路面を蹴る反応がシートを介してお尻へ伝わりやすいのも感じられるはず。
そして何よりリーンしたとき、軽快に車体が傾くことに驚かれるだろう。
これはバネ下が動きやすくなった効果なのだが、難しい理屈より軽やかに操れる、そこがメリットとなる見逃せない変化であるのは間違いない。
ただそこまで弱めてしまうと、路面の大きなうねりなどでフワフワした動きを抑えられず、増幅して危険な状況に陥らないかと心配されるかも知れない。しかしアジャスト回路はメインの減衰部分とは別に設けてあったり、調整では最弱ポジションでもまだ減衰力が効いている範囲であるなど、まったく抑えが効かない状態には絶対にならないのでご安心を。
もちろん好みで強めていくのも良いだろうし、コストをかけてハイグレードなサスを装着すると、この伸び側がしなやかに良く動く特性と、強い往復が加わるとフワつきを抑えつつ、細かな追従性をキープする高度な働きで驚くほどの違いをみせる。
安全且つ醍醐味を楽しめる足回りとなるので、カスタマイズの第一歩としてお奨めのパーツだ。