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空力デバイスを満載したフラッグシップモデル
『FF-5V』発売から11年。
6年の開発期間を経て完成した“Kabuto F-17”は、
開発陣の妥協なき姿勢によって生まれた。
果たしてどのように仕上げられているのか?
開発者の皆さんにインタビューを行った!
コーナーリング中でも頭部を安定させる
F-17(エフいちなな)は、Kabutoがこの秋に発売する最新型のフラッグシップモデルだ。同社の大きな特徴である空力性能を極限まで高め、ハイスピードレースにおける高速域での安定性を実現した。
「ライバルは従来モデルFF-5Vでした。帽体後部の羽根やスタビライザーなど、FF-5Vで採用した技術や発想を超える必要があったので、F-17では全方位の空力性能を高めることがコンセプトのひとつでした」
そう話すのはプロジェクトリーダーを務めた久保雅幸さんだ。
「全方位というのは、ストレートだけでなく、コーナリングで体勢が変化したときでも安定性を発揮できるということです。たとえば鈴鹿の130Rのような高速コーナーで、ライダーはバイクのスクリーンの外へ頭部を出すので、走行風を強く受けることになります。ストレートでスクリーンの内側に収まっているときとは気流がまったく違ってきますが、どちらでも高い空力性能を発揮して、ライダーの頭部をブレさせずに安定させることが、全方位の意味です」
車両の場合は走行中に受ける気流は比較的一定しているが、シチュエーションによって乗車姿勢が変化するバイク用ヘルメットの空力性能を安定させることが難しい。しかしKabuto開発陣はあえてその難題に挑み、F-17によって形にしたのだ。
Kabutoが特許を持つウェイクスタビライザー。ヘルメットに回り込む気流を整えることで、超高速域での横ブレを抑制し、揚力や空気抵抗低減にも貢献する。帽体に合わせて形状が最適化されている
前頭部の中央ベンチレーションは大型化されたほか、左右に1カ所ずつヘッドサイドベンチレーションを採用。コーナリング時も効率的にフレッシュエアをヘルメット内部へ送る
F-17の完成に至るまでは、プロトタイプを30個以上も作るほど試行錯誤の連続だった。金型も3回は作り直しているという
テストライダーの言葉を数値化し精度を高める
「ヘルメットの空力はまだまだ発展途上です。以前は勘と経験の積み重ねで作っていたものですが、流体解析の手法を採り入れることでかなり数値化できるようになりました。当社では7年前からCFD(数値流体力学)シミュレーションを導入しています」
そう話すのは、社内で“風の神様”と呼ばれる開発部主任の大田浩嗣さんだ。大田さんは当初、強度実験に携わっていたが、CFD解析を導入したあたりから、空力性能の開発に専念している。
「当然ですが、テストライダーによって言うことが違います。でもそこには共通する何かがあるはずで、それを数値化すれば見えてくるものがあるし、評価できるようになる。そうなれば改善点がわかるのです。でも人の感覚はいちばん大事ですから、CFDをやって風洞実験をやって計算どおりに作ったからいいわけではなく、最終的にはライダーに確認してもらい、次の課題に進めるといった感じです」
CFD解析を繰り返して開発の方向性を定め、流体力学の共同研究をしている大学機関のスパコンで計算し、精度を高めていく。これにより数値はいっそう最適化され、風洞実験からテストライダーによる実証へと行程が進む。
「野球のピッチャーが投げるナックルボールと同じで、回転しない球体が走行風を受けるとカルマン渦が発生しやすくなるんです。FF-5V開発時、航空機や生物の飛翔などを研究している東大の東昭名誉教授に、ヘルメットを見せた瞬間“これじゃダメだ”と言われたほどです(笑)」
F-17の帽体に設けられたウェイクスタビライザーや帽体のリブは乱気流を抑制して整流し、クレストスポイラーは揚力を軽減することで安定性を高めている。
F-17のCFD解析図。極限まで前面投影面積を小さくしつつ、帽体のリブ、ウェイクスタビライザー、クレストスポイラーによって整流と揚力低減を実現。直進時のみならず、横風や後方確認時にも高い安定性を誇る
ヘルメットの浮き上がる力を軽減するクレストスポイラー
「レースのような高速域で走るとどうしてもライダーの頭がブレるんです。当時、FF-4を被ってもらっていた辻村 猛選手の映像を見たら、それがよくわかりました。FF-5Vの開発はこれがきっかけで、F-17ではそれをさらに向上させています」
デザイン担当の村上 猛さんは、いまやKabutoらしさの象徴となり、他社を数歩リードする優れた空力性能の原点をそう語る。
揚力とは物体を浮き上がらせる力で、航空機は主翼でこれを発生させて飛行する。走行中のライダーのヘルメットにも揚力が発生するため、浮き上がる力が働く。
「揚力を抑える発想そのものは自動車でも前例があります。また、自動車のようにウイングをヘルメットにつけることができたらダウンフォースが生まれますが、実際には装着できません。そのためクレストスポイラーによって揚力を軽減することで、ヘルメットの浮き上がりを減らしているのです」
前述の大田さんによれば、ある条件での測定ではクレストスポイラーが揚力を約10%下げているという。
「以前は内装をきつくすることで浮き上がりを防いでいたこともありますが、それでは根本の問題解決になりません。高速域でのライダーの集中力を高いレベルで維持させることが目的のひとつですから、内装の快適性も重要です」
頭頂部のクレストスポイラーは前側に“段差”を設けることであえて乱流を起こし揚力を抑え込む。その後方から内部の熱を効率的に排出する負圧システムもKabutoの特許技術だ
空力だけでなく、ライダーが納得する安心感と快適性を作り上げる
久保さんの話を受け、内装を担当した福田 徹さんが語る。
「レース用、ツーリング用、街乗り用でベストな快適性はそれぞれ違うのですが、F-17では300㎞/hでもヘルメットがブレないホールド性と、快適なフィット感の両立を目指しました。そのため、ライナー(衝撃吸収材)内面と頭部の隙間を測定した数値を基に、内装パッドの形状を見直し、刷新しました。エマージェンシーシステムは頬パッドにファスナーを設け、下部のスポンジだけを取り外せるようにしたのですが、構造的に難しい点が多く、苦労しました。また、安心感や快適性を感じていただけるよう、内装に制菌加工素材を採用しました」
内装システムも数値化することでよりフィット性を向上。肌心地が良く制菌効果のある素材を表地に使い、安全性と快適性も高めた
エマージェンシーシステムは、頬パッドの下部スポンジをファスナーを開けることで取り外せる仕様になっている。転倒などのアクシデント発生時にライダーの負担を最小限に抑える仕組みで特許出願中
厳しいテストライダーも納得の仕上がり
そうした開発の努力が実り、サポートライダーのひとりである秋吉耕佑選手は「もうFF-5Vには戻れない、というほど気に入ってくれています」と話すのは、ライダーの要望やヘルメットの改善点を聞き出す役割を務めた、レーシングサービスの恒吉正規さんだ。
「秋吉選手の鋭い洞察力に対し、それを製品に反映させるのには苦労がありました。でもその甲斐あってF-17が完成して、秋吉選手も満足してくれたことが幸いです」
「うちの社長は“やるならとことんやれ”と言いますし、社員の発想をすぐにかたちにしやすい自由な環境でもあります。だからこそF-17を作れたのだと思います」
究極の空力性能と快適性、何よりも優れた安全性を得て大幅に進化したF-17。その優れたエアロダイナミクスは、一般の高速道路でも十分に体感できる。
F-17開発に携わったJSB1000に参戦する秋吉耕佑選手は、洞察力が鋭く、かつその評価は厳しかった。指摘された項目のひとつであるシールドの歪みは、開発スタッフが確認することが困難なほどだったという
ヤリ・モンテッラ選手(上)やESBK浦本修充選手(下)、JSB1000秋吉耕佑選手、岡村光矩選手ら、カブトが契約するレーシングライダーからのフィードバックでF-17は開発された
Kabuto F-17
価格:5万1,700円
サイズ:XS~XXL
カラー:ホワイト、ブラックメタリック、フラットブラック
左から、久保雅幸さん、大田浩嗣さん、村上 猛さん、福田 徹さん、恒吉正規さん
久保雅幸さん
くぼ・まさゆき/開発部 製品開発課 主任。プロジェクトリーダー。元自動車メーカーエンジニアで前任者からPLを引き継ぎ、豊富な発想でF-17を完成させた
大田浩嗣さん
おおた・ひろし/開発部 主任。空気力学のスペシャリスト。CFDと風洞で科学的に流体を解析、Kabutoの空力性能を大きく進歩させた
村上 猛さん
むらかみ・たけし/開発部 I.D. 課長。デザイン担当。FF-5Vでもデザインを担い、帽体形状やスタビライザー、スポイラーなどF-17の根幹を設計
福田 徹さん
ふくだ・とおる/開発部 製品開発課 係長。内装システム設計担当。理想の製品を作るため妥協しない職人気質で、社内では“こだわり屋”と呼ばれている
恒吉正規さん
つねよし・まさのり/C.S.D。レーシングサービス担当。Kabutoサポートライダーの意見を着実かつ正確に聞き出して開発陣へフィードバック