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サスペンションのセッティングは何のため?【教えてネモケン075】

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A.レースと一般公道では方向性が異なります

サスペンションを調整すると「乗りやすくなる」
と聞いて、リヤのプリロードを緩めたり、
伸び側減衰力を弱くしたりと試しています。
私はそれで十分ですが、ベテランたちは、
「車体の姿勢を決めるため……」といった、
難しい話をしていました。
たとえば……MotoGPなどのレースにおける
セッティングとは、何をしているのでしょう?
無数にあるさまざまなコーナーのすべてに
合うように調整しているのですか?

レースでは目標を定めてセッティングを施す

レースのように、同じコーナーを繰り返し攻めてよりハイペースで走るためにサスペンションを調整していくのと、一般公道で様々な状況に対して乗りやすく調整するのとでは、求めるものが違います。

サーキットはコースによって高速コーナーがあったり、ヘアピンが続いたりと様々です。そこでタイムを詰めていくには、たとえば高速コーナーが勝負ドコロだとすると、トラクションが効率良く作用する位置にリヤサスペンションを設定します。

こうした高速のコーナーでリヤサスがあまり深く沈んでしまうと、開けた瞬間の路面へタイヤを押し付ける応力が機能しにくいからです。逆に高速コーナーのトラクションは犠牲にしても、低中速コーナーのグリップのきっかけを優先する場合もあります。

さらにコースにアップダウンがあったり、連続するコーナーの切り返しで圧縮されたリヤサスが素早く伸びて路面追従したほうが、曲がるきっかけを失わずさらに攻められると考える場合もあり得るのです。

フロントフォークの場合は、さらに複雑です。コーナー進入時に減速で沈み込んだ位置が深過ぎると、そこからコーナリングフォースを受けた状態へ移行してもフォークはほとんど伸びず、路面追従性が悪くなります。これだと、スロットルを開けた加速状態で前輪が外側へズルズルと逃げていくプッシュアンダーが出やすい結果となります。

かといってフォークが深く沈まない設定にすると、リーンした直後のターンインで、前輪が小さく跳ねるチャタリングという症状が出やすくなります。沈むスピードや落ち着く位置、また伸びるときのスピードを走るリズムと合わせることで、こうしたリスクを避けるのですが、コーナーの種類は様々でどこにも合う平均的なセッティングはないのです。

どこを優先してどこを棄てるのか、得意なコーナーは気にせず不得手なコーナーのリカバリーに集中するのかなど、ライダーの判断力とセッティングのノウハウで応えてくれるメカニックとの息の合った作業が必要になります。

というように、レースでは同じコーナーを何度も周回するために、目標を定めたサスセッティングをするワケですが、もちろんこれは一般公道で通用するものではありません。

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決まったレイアウトのコースを走るレースでは、タイムアップに影響するコーナーなど優先すべきところを見極め、その目的に合わせてセッティングを詰めていく

出荷時の設定が日本向けとは限らない

一般公道で大事なサスペンションセッティングとは、まず工場出荷時の設定が必ずしも日本国内のワインディング向きではない場合がほとんどであるという、ネガティブの払拭でしょう。

海外のたとえばアウトバーンのような速度制限のない高速道路で、大柄なライダーがタンデムで大きな高速コーナーを駆け抜けたとき、ちょっとした路面の段差などで生じた揺れが、どんどん大きくなっていったら危険だし、何かあれば訴訟問題に発展しかねません。そこでメーカーは工場出荷時に、そうした状況でも動きにくい設定にしているのです。

ということは常識的な日本のワインディングを駆け抜けるには、サスペンションの設定が硬過ぎる状態にあるといえるのです。サスの動きが鈍いと、バイクの操作は重く感じ、自由度も低くなります。

サスペンションに付いているダンパーの減衰力を可能なかぎり弱めに設定すれば、軽快で操りやすいハンドリングが得られます。たとえ最弱の位置まで弱めたとしても、アジャストしているのはメインの減衰バルブではないので、危険な動きにはなりません。

また体重も欧米のライダーより日本人のほうが軽いことがあります。ライダーが停車状態で跨がって、リヤサスが1/4~1/3まで沈む位置までプリロードを緩めるのも必要な手立てのひとつです。工場出荷時の設定が一番良いというのは、特に大型バイクにおいてはないと思って良いでしょう。

あくまでも乗りやすく怖くない状態をつくり、自分のモノにすること。一般公道のサスペンションセッティングのポイントはそこに尽きると思います。

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市販車のサスペンションの出荷時設定は、海外マーケットのライダーの体重や走る環境が考慮され、硬く動きにくい設定とされていることが多い。欧米のライダーに比べて、体重が軽く、速度域の低い道路環境で走る日本人にとっては硬すぎてしまうのだ。前後サスペンションをよく動くように調整するだけでがぜん乗りやすさが増す

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減衰力やプリロードを弱めてみよう!

サスペンションのセッティングというと難しく感じるかもしれないが、まずはスプリングのプリロードやダンパーの減衰力を抜いて弱くしてみよう。最弱にしても、動作の範囲内なので心配は無用だ。サスペンションがよく動くようになれば、車体の動きが軽く感じられるようになる。電子制御サスペンション装着車両であれば、スイッチひとつで簡単に設定を変更できる

Photos:
ドゥカティ,ヤマハ発動機,長谷川 徹