排気ガス規制を前提に誕生した新規の空冷エンジンらしく
非力さを微塵も感じさせない活発さ
厳しさを増す排気ガス規制、とりわけ今度のEURO5と令和2年排出ガス規制は日本メーカーのスポーツバイクから空冷エンジンを一掃してしまうハードルの高さだ。
ところが海外メーカーは、空冷でもEURO5を次々にクリア、バリエーションモデルも増やすほど規制負けしていない。とはいえ、EURO4からEURO5になると悲惨なほど走らなくなるとの噂から、駆け込みでEURO4モデルを購入した方もいるようだ。果たしてどうなのか、ということでその渦中の1台、ロイヤルエンフィールドINT650のEURO5モデルに試乗した。
結論からいうと、ほぼ違いは感じられない。一般的に排気ガス規制は厳しくなるほど、燃料に対し空気の混合比の多い希薄燃焼になっていく。完全燃焼しやすくなるからだが、それはアイドリングなど一定の条件で稼働しているときのこと。
スポーツバイクのように、コーナリング中に後輪が路面を蹴って旋回力と安定性を高めるトラクション性能には、スロットルを開けたときのレスポンスや、その後に呼びだせるトルクの強さが重要なワケで、この楽しいと思えるかどうかの場面は希薄燃焼になればなるほどスポイルされる。
わかりやすくいうと、排気ガス規制によるダメージの典型は、スロットルを捻ったのに小さな排気量のエンジンのように、ちょっと待たされてようやくパワーが伝わりはじめる非力な感じになりがちだった。
この非力な感じに陥らないよう、たとえばモトグッツィのV7は744ccだった排気量を、EURO5対応モデルでは853.4ccへとスケールアップしている。
しかしロイヤルエンフィールドは排気量もそのまま。エンジンのスペックをチェックしても、パワー表示などまったく変わっていない。
考えてみれば、この650空冷エンジンはデビューが2018年。まだ4年ちょっとしか経っていない。ということは、開発中にEURO5がやってくるのも織り込み済みだったはず。昔からのエンジンを何とか延命させるのに四苦八苦という他とは、そもそも生まれからして違うのだ。
ビッグシングルやビッグツインで世代を繋いだノウハウが
日本車にはない質の力強さを楽しませる
ただ、あらためて感心するのは648ccという、けして大きくない排気量で、ほとんどパワーフィーリングをスポイルせずにクリアできている技術力の高さだ。
そこには電子制御による燃焼という、世界トップレベルのテクノロジーによるところが大きいのはもちろんだが、ロイヤルエンフィールドの場合は、脈々と流れる英国ビッグシングルとビッグツインを長年つくり続けたメーカーならではの、エンジンの性能をどう構築するか、その手法に違いがあることを忘れてはならない。
いまさらだが、4ストロークエンジンは燃焼爆発の後に、排気行程と圧縮行程の2回ピストンが途中で押し戻されないよう、クランクシャフトを勢いよく2回転させなければならない。
このチカラの原動力はクランクのカウンターウエイト。回転しているときに慣性力を高める錘(オモリ)の作用で、ピストンが押し戻されたりクランクシャフトを逆回転させない原理によって、エンジンは低い回転でも止まらずにいるのだ。
ただこのカウンターウエイトがあまりに重いと、スロットルの開け閉めでレスポンスが鈍くなったり、とくに4気筒など高回転高出力エンジンには、パワーアップの妨げにもなりかねないデリケートな要素でもある。
とくに最近では振動を抑えるバランサーを駆動したりと、カウンターウエイトをどう分散させるかも開発のテーマとなってきた。
しかし我々の目を覚まさせたというか、ロイヤルエンフィールドのカウンターウエイトに対する考え方の違いを、デビュー以来の試乗で何度も思い知らされてきた。
たとえばアイドリングから発進のクラッチミートさせるとき、この650ツインはスロットルを閉じたままでも800ccクラス並みに車体を前に押しだすトルクがある。もちろんそのまま乱暴にクラッチを放せばエンストしがちで、わずかでも前に動きそうになったタイミングでスロットルを捻るのが無難だが、この650らしからぬ力強さこそ、このツインの素性の違いなのだ。
このクランクの慣性マスをうまく利用した、3,500~4,000rpmあたりでスロットルをガバッと大きく捻ったときの、底のほうから湧き出るようなトルクといえば良いのだろうか、グーンとすぐに一定の力強さが呼び出せるポテンシャルが素晴らしい。
鋭くレスポンスするツインは他にいくらでもあるが、このレスポンスした直後からのエネルギーがここまで逞しいツインは、800ccでも滅多にお目にかかれない。
そしてこの慣性力が単にカウンターウエイトの重さだけに依存せず、クランク左側の発電系フライホイールに分散させているため、スロットルを戻したときに慣性力の大きさで回転がドロップしにくいネガティブがまったくないのだ。
というワケで、EURO5規制のINT650は、おそらくスロットル開度とインジェクションのセッティングなどでフィーリングを揃えているため差異は極くわずかで、感覚的にほぼ同じ逞しさを楽しませてくれている。
もちろん270°位相の90°Vツインと同じ、爆発間隔を広く設定したパルシブな路面の蹴り方、パパッパパッと歯切れの良い鼓動も変わらず受け継いでいるのはいうまでもない。
後輪を軸に前輪を巧みなバランスで追従させるブリティッシュスポーツの血統
ベテランには安堵を、ビギナーには上達へ導く良質なハンドリング
そしてこの650ツインを、身体と一体になった、まるで自分の足で路面を蹴る醍醐味を楽しませる優れた車体も変わらずだ。
ライダーのお尻が感じる後輪の接地点、そのあたりを軸にステアリングヘッドを扇形にリーンさせる、ブリティッシュスポーツならではのリアクションは、長く乗り続けたベテランであれば上半身とか下半身とかを意識させない、まさに身体ごと委ねるライディングが楽しめる、上質な時間に浸れるのだ。
このハンドリングの素晴らしさは、これまで『RIDE HI』の雑誌とWEBで何度も繰り返してきた通り。まさにリファレンスモデルというべき、バランスのとれた特性に包まれているので、バイクまかせで乗り続ければ上達も早まるというほど優れている。
これがルックスもトラディショナルな、そして空冷ツインで構成されていることの何と素敵なことか。
スポーツバイクを難しく考えずに楽しみたい、そんなファンを導いていく良質さがロイヤルエンフィールドの世界なのだ。
2018年にデビューした空冷ツインは、キャブレターからインジェクションへと進化してきた旧来の空冷とは違い、最初から電子制御を前提に開発された素性の違いが大きい。そのためEURO5規制による目立ったパワーダウンは皆無。楽しめるエンジンとしての醍醐味を、クランクマスなど伝統的にシングルやツインの経験を積んだメーカーならではのノウハウで楽しませる。日本車には真似のできない感性だ
SPEC
- Specifications
- Royal Enfield INT650
- エンジン
- 空冷4ストロークOHC4バルブ並列2気筒
- 総排気量
- 648cc
- ボア×ストローク
- 78×67.8mm
- 圧縮比
- 9.5対1
- 最高出力
- 47bhp/7,150rpm
- 最大トルク
- 52Nm/5,250rpm
- 変速機
- 6速
- 車両重量
- 202kg
- サスペンション
- F=テレスコピックφ41mm正立
R=スイングアーム+2本ショック - ブレーキ
- F=φ320mmダブル R=φ240mm
- タイヤサイズ
- F=100/90-18 R=130/70-18
- 全長/全幅/全高
- 2,122/789/1,165mm
- 軸間距離
- 1,398mm
- シート高
- 804mm
- 燃料タンク容量
- 13.7L
- 価格
- 85万2,500円~