「ドラッグスターRR SCS」の最新モデルが上陸し、デリバリーが進んでいる。アイデンティティの象徴でもある片持ち式ワイヤースポークホイールはそのままに、大小様々な改良を敢行。最大のトピックは、SCS(スマートクラッチシステム)が採用され、利便性も大幅に引き上げられたとことだ。
2021年モデルのドラッグスターシリーズには、「ドラッグスターRC SCS」、「ドラッグスターRR SCS」、「ドラッグスターROSSO」の3機種がラインナップされている。ドラッグスターRC SCSはレーシングキット(公道走行不可)が同梱された限定仕様であり、ドラッグスターROSSOはスペックを抑制したエントリーモデルだ。ここで紹介するドラッグスターRR SCSはその中間に位置するモデルで、シリーズの主力を担っている。
実際、最高出力や価格はその通りのものになっている。
- ドラッグスターRC SCS 最高出力150hp/12,800rpm(レーシングキット装着時) 価格341万円
- ドラッグスターRR SCS 最高出力140hp/12,300rpm 価格286万円
- ドラッグスターROSSO 最高出力112hp/11,000rpm 価格218万1,300円
このように、ドラッグスターROSSOとの間には、約68万円のギャップがあるものの、28hpアップの出力とKineo社のワイヤースポークホイール、そして利便性に優れるSCS(スマートクラッチシステム)への対価としては正当だ。それでいて、ドラッグスターRC SCSより格段にリーズナブルに感じられるところに、ポジショニングの巧みさが光る。
エンジン、フレーム、足周りといったすべての面で最適化が図られた2021年モデル。特に電子デバイスの充実は顕著で、e-Novia社のIMUが新たに採用されている。これによって車体姿勢や加減速度の検知がよりきめ細やかになり、フロントリフトコントロール、コーナリングABS、トラクションコントロールの精度が向上。エンジンモードには、SPORT/RAIN/RACEの3パターンの他、ユーザーが好みのパラメーターに設定できるCUSTOMが用意され、幅広いライディングに対応する
以前掲載したドラッグスターROSSOのインプレッションにおいて、「最高出力は控えめながら中回転域のレスポンスに優れる」と記した。その印象は今も変わらないが、このシリーズを手にするユーザーは多かれ少なかれ「人とは違うモノが欲しい」という欲求が強いことだろう。その意味で、ドラッグスターRR SCSに装着される片持ち式ワイヤースポークホイールの存在感はやはり強烈だ。しかもこれは、単なるドレスアップパーツではない。その強度は一般的なワイヤーよりも大幅に高められ、エンジンのパワーとタイヤのグリップ力をロスなく伝達する機能パーツでもある。
798ccの水冷並列3気筒エンジンは、これまで2ストローク的、あるいは2次曲線的に盛り上がる領域があった。7,000rpm前後を境に明確なフィーリングが変化し、それがある種の刺激をもたらしていたわけだが、この2021年モデルは低回転域から中回転域までスムーズに移行していく。高回転域で高まる音質と力強さはそのままに、日常域のフレキシビリティが強化されているのだ。
とりわけ9,000rpm超の領域で聞こえてくる快音は、イタリアンスポーツならではの醍醐味に溢れ、ワインディングを走らせているとエキゾーストノートが木霊のように反響。コーナーからコーナーへと舞うような感覚で走りに没頭することができる。
ドラッグスターROSSOのハンドリングは、リーン初期の動きが極めてソリッドな一方、このドラッグスターRR SCSではそれが抑えられている。コーナー立ち上がりでもそれは同様で、フロントの接地感が明らかに分かりやすくなっているのだ。
タイヤは、いずれもピレリのディアブロロッソⅢを装着し、キャスター角やトレール量、ホイールベースといったディメンションもまったくの同一ながら、実はちょっとした違いがある。それがステアリングダンパーの有無だ。
ドラッグスターRR SCSのトップブリッジには機械調整式のダンパーが備えられており、それがきっちりと機能。幅広ゆえに動きがちなステアリングを落ち着かせていることが分かる。
扱いやすさとパンチを併せ持つ過渡特性、140hpの最高出力、それを制御する数々の電子デバイス、3気筒ならではの爽快なサウンド。これらが高いレベルでバランスしているところにドラッグスターRR SCSの魅力があるわけだが、イタリアンスポーツの世界では忘れられがちだった利便性や快適性が盛り込まれたところにも、このモデルの存在意義がある。
それが車名にも加えられている「SCS」だ。ごく簡単に言えば自動遠心クラッチの一種で、エンジンを始動させてニュートラルから1速に入れる時も、そこから発進する時も、加減速時も、停止する時も、一切クラッチレバーに触る必要がない。
「なにを軟弱なことを……」と一笑に付すような生粋のスポーツ派こそ、ぜひ一度体感してほしい。そこにはなんのネガもなく、もしも従来通りの操作を望むなら、通常の位置に通常のクラッチレバーも装備されているため、いつでも左手をフル活用することができる。
このSCSのフィーリングに関しては、またあらためて詳細をお届けする予定だが、スポーツ性と日常性が融合したことのメリットは極めて大きく、今後存在感を増していくに違いない。
刺激的なスタイルとエンジンに加え、渋滞も苦にならない安楽さも手にいれたモデルが、このドラッグスターRR SCSだ。ガマンすることを美徳してきたイタリアンスポーツの姿は、もう過去のものである。
トップブリッジ部分にステアリングダンパーが装備され、安定性の向上に貢献。黒いダイヤル部分を回すことによって、減衰特性(HARD⇔SOFT)を簡単に調整することができる
トレリス状に組まれたスチールパイプとアルミプレートから成るハイブリッドフレーム。2021年モデルはプレート部分の設計が見直され、ねじれ剛性と縦剛性がそれぞれ高められている
セパレートタイプのワイドハンドルを装備。その絞り角は3つのポジション(ハンドル根元に目盛りが見える)から選択でき、好みや体格に合わせた微調整が可能だ
個性的な造形で足元を引き締めるKineo社(イタリア)の片持ち式ワイヤースポークホイール。チューブレス構造を持ち、タイヤにはピレリのディアブロロッソⅢが純正装着されている
搭載されるエンジンは、798ccの水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ。逆回転クランクシャフトを採用し、加速時のリフト抑制と、減速時のスタビリティ向上を両立している。ユーロ5もクリア
モノクロの小型ディスプレイに代わり、大型のフルカラーTFTディスプレイを新たに採用。視認性に加え、上質さが大幅に引き上げられている部分だ
ハンドル右側のスイッチボックスには、高速巡行時に便利なクルーズコントロールのボタンの他、サーキットで有効なローンチコントロール用のボタンも装備。快適性のみならず、エンターテインメント性も併せ持つ
SCS装車車であることは一見わからないが、リヤブレーキペダルとは別に設けられたパーキングブレーキ用のペダルが一般的なクラッチ車との違いだ。SCS車はギヤを入れていてもタイヤがロックされないため、これを踏み込むことによってサイドブレーキの役割を果たす
SPEC
- 総排気量
- 798cc
- ボア×ストローク
- 79×54.3mm
- 圧縮比
- 13.3対1
- 最高出力
- 103kW(140hp)/12,300rpm
- 最大トルク
- 87Nm(8.87kg・m)/10,250rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- スチールトレリス
- 車両重量
- 175kg
- サスペンション
- F=テレスコピックφ43mm倒立
R=片持ちスイングアーム+モノショック - ブレーキ
- F=φ320mmダブル R=φ220mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=200/50ZR17
- 全長/全幅
- 2,035/935mm
- 軸間距離
- 1,400mm
- シート高
- 845mm
- 燃料タンク容量
- 16.5L
- 価格
- 286万円