MVアグスタの主力スーパースポーツ「F3 800」が2021年モデルとして進化。「F3 ROSSO」の名でデリバリーが始まっている。全体の意匠こそ大きな変化はないが、ありとあらゆる部分に手が加えられ、エンジンとハンドリングは熟成の極みに達していた。
MVアグスタのミドルスーパースポーツ「F3 800」の導入が始まったのは、2013年のことだ。以来、モデルイヤー毎に着実なアップデートが繰り返され、この2021年モデルにも同様のスタンスが貫かれている。
一見しただけでは、従来モデルとの間に明らかな差異はない。レッドとシルバーで塗り分けられた伝統のカラーリングではなく、アゴレッドと呼ばれる深みのある赤が主体になっている点、そしてマフラーのテールエンドが鋭利にカットされている点が主な違いとなる。
ほぼ同一の意匠を持つ「F3 675 Serie Oro」が発表されたのが2010年のことだ。それから10年以上が経過してなお、新鮮味を失っていないことを意味し、改めてクラウディオ・カスティリオーニのプロデュース能力と、デザイナーであるエイドリアン・モールトンのセンスを思い知らされる。リッタースーパースポーツを前にすると、どうしてもワンランク下のクラス感が拭いきれないモデルが多い中、F3シリーズの端正なたたずまいは群を抜いている。
2021年モデルのF3シリーズは、この「F3ロッソ」の一択になった。「F3 675」や「F3 800RC」といったモデルはひとまず整理された恰好ながら、そこには最新最良のバランスが込められている。エンジンのリニアさと、足周りのしなやかさ、そして電子制御が極めて高いレベルでバランスし、スポーツする醍醐味が軽量スリムな車体に凝縮されているのだ。
ユーロ5への適合を含み、きめ細やかなアップデートが施された2021年モデル。エンジン、フレーム、サスペンション、マフラー、電子デバイス、メーターディスプレイといった部分がそれぞれ改良され、スポーツライディング時の一体感が高められている
798ccの水冷3気筒エンジンはユーロ5をクリアし、最高出力こそ148hpから147hpに1hpダウンしたものの、その発生回転数は維持され、最大トルクは8.97kg・m/10,600rpmから8.98kg・m/10,100rpmへわずかにアップ。こちらの発生回転数は500rpm下がり、よりフレキシブルな特性になったことが分かる。
エンジン内部は、DLCコーティングや素材変更によってフリクションの軽減が図られた他、吸気効率(インジェクター)、排気効率(エキゾースト)、冷却効率(ラジエター)のすべてが見直された。
事実、スロットルを開けた時の過渡特性は歴代F3のどのモデルよりも上質だ。回転の上がり切らないストリートの速度域とスロットル開度でも滑らかさを失わず、いざ右手を捻ると爽快な吹け上がりを堪能することができる。
エンジンはその基本設計もさることながら、特にこの2021年モデルは電子制御が秀逸だ。SPORT/RAIN/RACE/CUSTOMの4パターンがあるエンジンモードにはトラクションコントロールが連動し、SPORTとRACEの時の調整幅は6段階、RAINとCUSTOMではそれが8段階に増すなど、セーフティ機能への意識は高い。さらにはフロントリフトコントロールが過度なウィリーを抑制し、第3世代へ進化したクイックシフターが効率のいい加減速と車体の安定性を支えている。
「F3ロッソ」で注目すべきは、これらに加えて「GAS SENSITIVITY」(スロットルコントロール感度)、「MAX TORQUE ENGINE」(最大エンジントルク)、「ENGINE BRAKE」(エンジンブレーキレベル)、「ENGINE RESPONCE」(エンジンレスポンス)、「RPM LIMITER」(エンジン回転数リミッター)をそれぞれ個別にセッティングできる点にある。不思議なことに、MVアグスタはこのことをあまりアピールしていないのだが、特別な機器やオプションに頼ることなく、メーターディスプレイ内でこれらを選択、あるいは調整できるのだ。
今回はプリセットのまま走行したが、カスタマイズを通してスタンダードの開けやすさが一体どう変化するのか。オーナーになれば、楽しみが尽きないに違いない。
さて、コントローラブルなのはエンジンだけに留まらず、足周りも恩恵も大きい。フロントのマルゾッキ、リヤのザックスにはリセッティングが施され、その仕上がりは上々だ。前後のピッチングモーションが分かりやすく、路面追従性も向上。ペースを上げなくても荷重がしっかり掛かり、ブレーキング~バンキング~立ち上がりという一連のシークエンスをリズミカルにこなせるようになった。車体を手の内に収めている感覚が強く、その自由自在感が魅力だ。
F3シリーズは675であっても800であっても、やはりサーキットを走らせた時に活き活きとしてくるキャラクターだった。対するこの最新モデルは、ストリートやワインディングに舞台を移しても我慢の必要がないほど、許容範囲が拡大。スキルも体格も使い方も問わず、楽しめるスーパースポーツへと生まれ変わっている。数多あるリッタークラスと比較しながらでも選ぶ価値がある秀作だ。
3本出しマフラーのテールエンドは丸パイプから異形のスクエア形状になり、シャープさを強調。また、内部構造も刷新され、全回転域でパワーとトルクの向上が図られてる
シフトペダルにはギヤのアップとダウンに対応するクイックシフターを標準装備。従来モデルにも採用されていたが、制御が見直された第3世代へと進化。シフトタッチの軽さと正確性が向上している
リヤサスペンションはザックスのプログレッシブモノショック。プリロード、圧縮側減衰力、伸び側減衰力の調整が可能なフルアジャスタブルで、従来モデルのものをベースにリセッティングが施されている
アルミ鋳造ホイールのリムサイズはフロント3.50-17、リヤ5.50-17。純正装着タイヤには、ピレリのディアブロロッソコルサⅡが選択され、高いグリップ力と接地感が確保されている
今やMVアグスタの中核を担っている798ccの水冷4ストローク3気筒エンジン。147hp/13,000rpmの最高出力と8.98kg・m/10,100rpmの最大トルクを発揮する。エンジンモードには、SPORT/RAIN/RACE/CUSTOMの4パターンがあり、トラクションコントロール、コーナリングABS、フロントリフトコントロールと連動して制御される
フロントブレーキはブレンボの4ピストンラジアルマウントキャリパーとφ320mmフローティングディスクを組み合わせる。コーナリングABSはコンチネンタルのシステムとe-Novia社のIMUによって制御。バンク中の車速調整やライン変更を容易なものにしている
シート高は830mm。タンデム側は実用性よりもスポーツバイクらしいシャープを優先したデザインを持ち、カウルと同系色の表皮を採用。シングルシート風に仕立てられている
美しいグラフィックによって、高い視認性と質感の向上に貢献しているフルカラーのTFTディスプレイ。従来モデルと比較し、最も大きな外観上の変化がこの部分だ。専用のアプリを介することによってスマートフォンと連動。利便性を高めることができる
SPEC
- 総排気量
- 798cc
- ボア×ストローク
- 79.0×54.3mm
- 圧縮比
- 13.3対1
- 最高出力
- 108kW(147hp)/13,000rpm
- 最大トルク
- 88Nm(8.98kgm)/10,100rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- スチールトレリス
- 車両重量
- 173kg
- サスペンション
- F=テレスコピックφ43mm倒立
R=スイングアーム+モノショック - ブレーキ
- F=φ320mmダブル R=φ220mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
- 全長/全幅
- 2,030/730mm
- 軸間距離
- 1,380mm
- シート高
- 830mm
- 燃料タンク容量
- 16.5L
- 価格
- 239万8,000円~