軽さとスパルタンなパワーパフォーマンス、シングルスーパースポーツは他にない個性で邁進
MotoGPでも日本メーカーやドゥカティ勢に割り込むまでにパフォーマンス進化を誰もが認めるようになってきたKTM。ただ基本は独自の路線をゆくマイノリティを主張する姿勢は変わらず、個性好きなファンを増やしている。
そんな勢いに乗るKTMの400ccクラススーパースポーツRC390が、イヤーモデルチェンジではなく大幅なメジャーアップデートとなり、富士スピードウェイのショートサーキットと近辺の一般公道で試乗したファーストインプレッションをお届けする。
全体に様々アップデートされている中で、車体関係をはじめとする軽量化は155kgとなった軽さが、もともとコンパクトな印象をさらに助長してまさに250ccクラスを駆る感覚だ。
おそらくこれには両側の評価があって、400ccの4気筒やツインに乗ってきたライダーには手応えが呆気ない感覚で400としての質感不足となるやも知れない。もういっぽうで、ビギナーからすれば250並みの軽さとコンパクトな扱いやすさは、早くバイクに馴染めて気負わずにツーリングへ頻繁に行きたくなる魅力として伝わるに違いない。
しかし、忘れてならないのはKTMというメーカーのスパルタンさだ。キャリアがあれば捻り方でレスポンスを穏やかにできるものの、基本的にノンスナッチが高い、つまり3,000rpm以下の低回転域はガクガクと経験の浅いライダーにはスロットルを開けにくく感じさせるシビアな面を併せ持つ。
これはベースを同じくするハスクバーナ401Vitpilenとはチューンの違いが明確だ。KTMはMotoGPへチャレンジを続けるReady to Raceのポリシーを貫いており、そんな意地にも似た一途さに共感を覚えるファンも少なくないはず。
ということで、主役は中速域のおそろしいほどフラットなトルクバンド。どこでもトラクション状態で、その後輪の蹴飛ばし方が勢いあまり電子制御が介入するシチュエーションが頻繁にあった。
もちろん8,000rpm以上の高回転域まで引っ張れるが、シングルの特性でフラットな上昇率からコーナーの”曲がれる”区間には向いていない。シングル本来の持ち味である、力強い中速域を矢継ぎ早のシフトアップで繋ぐコーナリングが、醍醐味もあって満足感が大きい。そういう意味も含め、装着されていたオプションのクラッチ操作不要のクイックシフターは必須だろう。
ハンドリングは軽量にまとめたマシンならではの、4気筒やツインの落ち着きや安定をベースに身を委ねるのではなく、重心移動などオーバーアクションが的確な操作を妨げるシビアさを前提としたライダー次第な面が強いキャラクターだ。
メインフレームの剛性バランスを見直したステアリングヘッドまわりの追従性と、左右で伸び/圧縮側を独立させ30段階も調整可能なフロントフォークの吸収力による落ち着いた乗り味だが、クイックな挙動を与えると剛性との兼ね合いから軽量クラス的な反応となり、ライダーは攻め込んでいる実感に浸るはず。
リヤサスについても同じような傾向で、用意されているグレードアップ前後サスと交換することでビッグマシン的な落ち着きの範囲を広げることができる。
トラクション効率を優先した824mmのシート高、そして腰をズラしたフォームで下半身をベッタリとグリップできる「ブニュッ」と凹むシート座面のグリップ感、そして燃料タンク側面の膝から太ももが曲面に沿うホールド感など、スーパースポーツを感じさせるマニアックな対応もReady to RaceなKTMらしさを楽しめる部分であるのは間違いない。
また最新IMUを駆使したリーンアングルを感知して作動するコーナリングABS、後輪をスライドさせながらリヤの浮き上がり防止とも兼ね合いながら機能するSUPERMOTO ABS、コーナリングMTCが標準装備されている電子制御の充実度は、国産バイクが完全に敵わない領域であるのも選択の大きな決め手となるはずだ。
下半身の燃料タンク側面とのフィット感、シート座面の厚みが腰をズラしたときの太ももグリップを馴染ませる配慮、それにハンドル高さを10mm可変とするなどスーパースポーツらしさが伝わる。TFT液晶画面の表示切り替えや判読しやすさなど、日本車は見習うべき面が多い