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トラクションは誰でも気づける簡単なメリット、その反応を積極利用すれば安心+楽しい!【ライドナレッジ145】

Photos:
藤原 らんか,Shutter Stock(defotoberg) ,DUCATI

上り勾配のカーブは走りやすい!

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トラクションというライテク用語、どこかで聴いたり読んだりしたことがあるはず。
でもコーナーを攻めたりしないし、腕の立つ(度胸のある)ライダーでもないから自分には関係ない……いやいや、ツーリングを安全に楽しくできる、誰にでも使える、実は既に一部メリットを感じている基本原理なのだ。

たとえば上り勾配のカーブは走りやすく、下りは何となく不安に思うライダーがほとんどだろう。
上り勾配はスロットルを開けて加速状態にしているため、後輪が路面に押し付けられて曲がる旋回方向を強めたり安定させる効果があるからだ。
これがトラクションの正体。

下り勾配は速度が増えないようにスロットルは閉じっぱなし。
どこへ向かっていくのか不安に思う状態で、これを払拭するには思いきり進入速度を落とし、少しでも加速状態にすることで、安心感や安定感を多少増やすことができる。

一輪車の原理と同じで漕いだ方向へ曲がっていく!

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何で加速すると曲がるチカラと安定性が増えるのか……。
世代によって経験している人と知らない人とに分かれるかもしれないが、一輪車に乗ったことがあれば漕ぐことで安定するのはご存じの通り。

そして進路を変える方向転換には、車輪を傾けながらグイグイと漕ぐことで、強く曲がれて安定する。
オートバイの後輪は、エンジンからの駆動力で加速状態になると、この一輪車の効果と同じことが起きているのだ。

加速すると後輪を路面に押し付けている

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確かに加速すると加速Gで車体の重さやライダーの体重は後輪側へ移動するはず。
でもそんな勢い良く加速しないと得られない旋回性や安定感は、スピードも出てしまうだろうし、実際には使えそうにない、そう思われがちだが、実は仕掛けがあって強く加速しなくてもトラクション効果は得られるのだ。

愛車のスイングアームを、フレームと結ばれているピボット付近で見てみよう。
上側にチェーンが擦れるスライダー(プロテクター)が貼ってあるはず。

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これはスイングアームのピボット位置が、イラストのように上のほうにあって、エンジンの駆動力でチェーンが引っ張られると、距離の近いサスペンションの動きでいうと下の方向、路面を押すカタチになるよう設定しているのだ。
つまり加速するとリヤが沈むと勘違いしやすいが、実際には真逆の後ろがリフトする側へ応力が働いているのだ。

考えてみれば、加速でリヤサスが縮んだらコーナリング中にバンクした後輪が路面から一瞬離れることになり、これでは容易にスリップしてしまう。
このピボット位置の設定をアンチスクワット、つまりしゃがみ込まないようにするのでそう呼んでいるのだ。

ビッグバイクであれば、フロントブレーキを握ったまま、ローギヤへシフトして半クラッチ気味に徐々に繋いでいくとシートがグイッと持ち上がるテールリフト現象が確認できる。
これは前輪を止めているリアクションで原理が異なるのと実際にはここまで動かないが、こんな感じがシートからお尻に伝わると思って疑似体験しておくのがお奨め。

低い回転域のトルクを繋ぐのが安心で楽しい!

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そして大事なのが、トラクションに都合の良いトルクはエンジン回転の低い域にあるということ。
一般道なので使いやすいトラクションは、中速トルクといわれる領域より下で得やすい。

ここなら加速してすぐ速度が出てしまうこともなく、後輪が路面をグイッと押し付ける効果が大きい。
しかしこの都合の良い回転域は狭く、カーブが長いと次々にシフトアップしていく必要がある。

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バイクに慣れたライダーなら、バンクしたままシフトアップしても、クラッチをほぼ使わない瞬間シフトアップで段差のないスムーズな操作が可能で、瞬く間に何速もシフトアップで繋ぐ走りが可能だ。
このせわしない操作、そこまでするの?と思われるかも知れないが、同じトラクションを繋いで駆け抜けるコーナーは、たとえバンク角が深くなくても旋回の強さと安定感で醍醐味というか、快感といえる心地よさを味わえる。
パワーシフトが装着されていれば、左足だけでスロットル操作なしにできてしまう。

もちろんここまでやるのは楽しみのためと言っても良い領域だろう。
ビギナーはカーブの出口に向かって加速するとき、このアンチスクワットを介して後輪がトルクで路面を蹴りやすいスロットルの捻り方を工夫すると、バイクが身近になるほど上達できるはず。

そのためにもコーナー入り口は、一旦速度をシッカリと落として、加速区間を長く取れる走り方を心がけると、安全マージンを含め良い作法が身に付く。
飛ばすための加速ではなく、グリップと安定のための加速、それがトラクションなのだ。