後方排気はYZR500の後ろバンク、
ただ一般公道で前方吸気は容易くなかった！
ヤマハは1980年、レーサーレプリカ時代の幕開けRZ250をリリース。排気ガス規制で2ストロークは終焉を迎える寸前だったのを、水冷化を含めた新次元テクノロジーで復活させた。
続くRZ250Rの次にリリースしたのがTZR250。何とYZR500の開発エンジニアが直接に手がける高次元なマシンで、しかも500ccクラスのワークスマシンで大きな課題だったライダーの感性に馴染みやすいハンドリングと取り組んだ傑作マシン。
しかし、ライバルの250レプリカは、軽く鋭い刺激的な領域へと邁進、ヤマハも負けじと市販レーサーTZ250と同時開発の道を選ぶことになった。
当時の世界GPをはじめ、250ccクラスのレースは横一線で競う群雄割拠の状態。
マシンが当りそうな勢いでコーナー進入のラインを奪い合う展開が続く。
そうなると旋回性能はもちろん高いレベルのポテンシャルを必要とするが、多少のコトではビクともしない安定性が戦闘力として必要不可欠となる。
そんな状況に対し1988年に開発されたTZ250は、前方にキャブレターが位置し排気はシリンダー後部となる、一般的な吸気→排気と方向とは逆を向くエンジン構成。
YZR500のV型4気筒の後ろバンクでわかっているのは、排気系がストレートなエキスパンションチャンバーだと開発がしやすく性能が出やすいこと、吸気系がシリンダーより前にあるので熱の影響をうけにくいため絶対出力とレース後半の熱ダレが防げること、そして250cc2気筒だとエンジン下に排気系がないことからクランク位置を思いきり低くすることができるため、コーナリングの安定性をガッツリ稼げるメリットがある。
このTZ250の開発コンセプトで、NewTZR250は後方排気となり1989年にリリースされた。
キャブレターからの吸気を前方からとなるので、エアクリーナーからダクトでエンジン前方へ新気を導く。
リードバルブを介するため吸気方向で優位なクランクは後ろへ回る逆回転で、これを通常の回転方向へ変換するギヤを介するが、ここでバランサーシャフトを駆動、フレームとのラバーマウントなど必要としないリジットで固定している。
角断面のツインチューブではない、アルミ鋼板を溶接で組んだ形状と強度バランスの設定で自由度の高いデルタボックス・フレームの、ヤマハでしか見られない美しい表面もファンにはたまらない魅力だ。
そして排気ポートの高さを回転ドラムを電子制御で可変とする、パワーバンドを画期的に広範囲でトルキーにするYPVS、SPレース出場も前提としてTZ250と同じくカセットミッション方式で各ギヤ比をコースによって変更できるレーシングマシンの仕様をそのままマウントしていた。
ボア56mm×ストローク50.7mmの249ccで、規制値上限の45PS/9,500rpmに3.8kgm/8,000rpmのパワースペックで、中速域からまっしぐらにピーク回転域へ吹き上がる力強さが好評だった。
ただTZ250デビューからTZRのデビューは1シーズン遅れた。
レーシングマシンでは吸気が熱の影響をうけないのは唯々メリットだが、そこまで負荷の高くない市販車には、低い温度の吸気でのキャブレター混合比セッティングで変化の幅が大きい。
そこでエアジェット系のバイパスを電子制御とする高度なメカニズムも搭載、新たなノウハウを身につけたパワフル且つレスポンスに並外れて優れたエンジンへと仕上がった。
こうして絶対的なパフォーマンスはもちろん、中速域からのコーナリング脱出時のトラクションによるパフォーマンスに圧倒的に優れた特性を得ている。
さらにストレートな排気系から弾ける2ストのレーシーな「パーン！」と乾いたエキゾーストノートが何ともいえず魅力的なのだ。
ハンドリングは、2スト250では経験したことのない低重心な安定性と、前輪の素早い回頭性と少し頑固に感じるほど安定感を崩さないヤマハらしさに満ちていた。
翌年、フロントフォークを倒立タイプとしたマイナーチェンジが施され、カラーリングもひと目で後方排気のTZRとわかるようNewグラフィックで一新、NSRやRGΓに対抗心を燃やすヤマハファンに愛されるマシンとなった。
またレースに興じるファンに向け、市販レーサーに近い仕様の専用シリンダーとクランク、圧縮比を高めた燃焼室、φ34mmと大径化したキャブレター、乾式クラッチ、容量をアップしたラジエーター、さらにクロスしたミッションにフルアジャスタブルな前後サスペンションのSPバージョンも用意された。
しかしレースの世界でさらなるエンジンパフォーマンスを求め、一軸Vツインが優位なことから後方排気TZRは僅か2シーズンで終焉を迎えることとなった。
しかし後方排気TZRのマニアックな内容は、その後もファンの間では他にない唯一のマシンとして評価が高く、手放さないユーザーたちの手で意外なほど長く生き存えていた。
