前後に長くなる90°Vツインを縮める手法の数々!

スズキは日本メーカーで、Vツインスポーツに最もチャレンジした実績の持ち主。
1997年にTL1000Sに端を発したその製品群は、最も成功を収めたSV650やVストロームが、ご存じのようにいまもラインナップされているほどだ。
とりわけ1998年にスーパーバイク参戦を目指しホモロゲーション・マシンとしてリリースしたTL1000Rは、前後に長くなりがちな90°Vツインを短くコンパクトにしようと、ありとあらゆる手を尽くしていた。





90°Vツインをスーパースポーツへ搭載しようとすると、まず問題なのがエンジンのアタマまわりがDOHCハイメカ搭載だとボリュームがあり、前輪との干渉でホイールベースが長くなりがちなこと。
そこでTL1000S/Rでは、DOHCで直接カムシャフトをチェーン駆動せず、ギヤ駆動を介することでカムまわりをコンパクト化していた。
しかも前バンクのヘッドよく見ると、排気側のカムシャフトが吸気側より低く位置しているのがわかる。
バルブの設定をそこまで工夫して、エンジンを前輪へ近づけハンドリングを優位にしようとチャレンジしていたのだ。
さらにリヤサスを常識的なダンパーとスプリングを一体化したタイプではなく、ダンパー部分を円形のオイル室で回転抵抗で減衰する、ロータリーダンパーを開発することで、全体コンパクト化をはかった車体設計としてホイールベースも1.395mmとGSX-R750と同じにまで詰めていた。


そして何より注目を浴びたのがそのハイパーぶり。
98×66mmのボア×ストロークは995cc。2インジェクター化され、ピストンやコンロッドも高圧縮と高回転化へ対応する仕様で、国内向けは93ps/8,500rpm、8.8kgm/7,000rpmのスペックだったが、輸出向けでは抜きん出た135ps表示。
これを疑った海外バイク雑誌がダイナモで後輪計測すると確実に125psを上回り、当時のドゥカティ916やホンダのVTR1000Fが実測105psだったことから最高峰のお墨付きとなった。
車重も乾燥で197kg。剛性アップを狙った完全ツインチューブとしたことからTL1000Sより若干増えたが、依然として!,000ccクラスで群を抜いた軽さ。
主要マーケットの海外では注目マシンとなっていったのだ。

ただこの設定が、クイックさを補う前輪の安定を高めたアライメントを重く感じさせ、フロントフォークをトップブリッジから数ミリ突きだし、リヤサスも若干1G'を高める修正で、ライバルたちとワインディングで渡り合えるとユーザー間を情報が飛び交うほど、マニアックなライダーたちの間で多くが語られるマシンとして育まれていった。


こうしてスズキらしく、マイノリティ好きのファンに支えられ2003年までほぼそのままに継続されていた。
またこの90°Vツインのシリーズとしては、2003年からツーリング仕様を意識したSV1000SとネイキッドのSV1000も加わり、国内であまり知られていないミドルクラスで人気のSV650系と共に、扱いやすいスポーツとしてファンを獲得していくことになった。

